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2012/01/25

工芸系の里山資源と植生

先に里山資本主義という言葉を紹介したが、これは里山という近隣の資源を資本とする、という考え方に成り立っている。

実際、里山とは人間の活動で生まれた地域であり、またその植生を始めとする生態系も、人間の生産活動に随分影響を受けている。

とくに米作・畑作を始めとする農業は間違いなく大きかったほか、雑木林の草木が、薪や木炭、そして落ち葉などが燃料と肥料として使われたことが知られている。

が、意外と忘れられがちなのは、工芸用の樹木系資源だ。今は、ほとんど姿を消した里山資源がたくさんある。

たとえば、漆工芸は、英語で「japan ware」と言う。漆器は、縄文時代から生産されており、世界最古だ。そしてかつて日本のお家芸の工芸品であり、海外にも多く輸出されたのだ。それだけにウルシの栽培も盛んだった。
江戸時代はとくに漆栽培がさかんで、里山には漆がたくさん植えられていたから、それが植生としての意味かあっただろう。

そして、明治以降は生糸生産が盛んになり、そのための養蚕用のクワ栽培も盛んになった。こちらの最盛期は、1930年の71万4000ヘクタールである。この面積は、国土の2%ほどを占めるのだから、植生としては大変な割合を占めていたことになる。

そのほか、和紙の原料であるコウゾ・ミツマタ、ガンピなども里山で生産された。こちらは人工林の林床でも栽培されたから、面積がわかりにくいが、生態系への影響は小さくないだろう。

このように考えると、江戸~明治時代の里山で大きな割合を占めた植生が、現代の里山にはほとんど消えていることに気づく。クワなど5000ヘクタールくらいしかない。当然、植生がすっかり変わったことになる。

そうすると、どこの里山の潜在自然植生は、落葉樹林か照葉樹林か、なんて議論する前に地域の生産作物について考えないといけないのではなかろうか。

そして、もう一つ重要なのは、需要が高まると、原材料の輸入が始まることだ。たとえば、現在の和紙は、ほとんど中国産の材料を使っている。そして漆もそうだ。

最近の研究によると、江戸時代には漆器の大量生産のため、東南アジアの漆(チチオール)を輸入していたらしいことがわかっている。日本の漆(ウルシオール)と成分が違っている。

そして、現在生産されている漆器のほとんどはチチオールやラッコール(台湾、ベトナム系)の漆を使っているらしい。国産漆は、ほとんど生産されていないのだ。

もしかしたら、「里山」という括りで一つの地域を見ると、とんでもない勘違いをしてしまうかもしれない。これまでは、気候や人為で破壊された後の代替え植生という面でみていたが、もっと積極的に人間が植生を意識して変化させたことも考えておかねばならない。

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コメント

>コウゾ・ミツマタ、ガンピ

東京虎ノ門の国立印刷局の門前にはミツマタが植わっていましたが,紙幣・切手・官報などの材料は国産なのか?とか,今度国体で行く岐阜では水うちわという雁皮紙にニスを塗った透明なうちわが特産品としてあるけどあの材料はどうなのか?とか(PR動画では,骨となる竹は中国産と日本産とで全然違うと言っていたけど,ガンピの産地は不明),いろいろ気になるところですね.

わが町の最奥付近の農家林家は、
最近漆器の職人さんと話をして、家のそばに
10本のウルシを植えたそうです。

植えたおじさんは、65歳前後。
薪を作ったり、炭を焼いたり、工芸的な炭を焼いたりもする人です。
工芸的な炭はほぼ趣味で、失敗もしていたりして、かなり面白いのだそうです。

あと、かなりの面積の伐採跡地にミツマタが生えてきているところがあります。なんでミツマタが生えてきているかと思って、地元のおじさんに聞いてみたら、以前はそこでミツマタを収穫していた時期があったのだということでした(どっかから持ってきて植栽したのか、もともと自生していた場所なのかはわからないそうですが・・・・)。その所有者の方は、多分100年以上は町外の方で、近くの人が管理を任されていた(いわば山守的な人がいた)、そんな山です。
今は放任状態ですが、特に林道沿いのミツマタは元気に育っているようです。

あがたしさん、国体で岐阜に来るのですか?
水うちわの本を書いた人友達なのでご紹介しましょうか。

以前、有名な和紙製造所に行ったとき、倉庫番の人に聞いたら、「全部中国産」と言われました。
本当の国産和紙は、かなり少ないでしょう。

竹林は国内で増えているのに、竹製品は中国製が圧倒的ですね。
中国製竹製品は、竹の種類がちがうと聞いたけど。熱帯産が多いらしい。

そんな中で、国産ウルシを育てる動きも、少しずつ起きているようです。
案外、ビジネスになる?

こちら岩手県北の浄法寺のウルシページです。

http://www.japanjoboji.com/

 川下での利用が少ないのが現状です。二戸市の方からもアイデアを出せと言われています。これから少し勉強して何が私に出来るか考える予定です。ちなみに私の組合長もウルシ掻き職人をしていました。今は温泉と農業を経営をしていますが・・・。
八戸市の縄文末期の遺跡からウルシの製品が出ています。ウルシの利用は日本人にとってとても古い付き合いです。

 割り箸ともどもウルシも宜しくお願いします。

超タイムリーな記事が出ていたので慌てて書き込み:

「漆文化に多様性 他分野との共同研究で成果」(アサヒ・コム 2012.1.26)
http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201201250194.html">http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201201250194.html

GCではだめで熱分解GC-MSが必要だとか,Srの同位体比で産地を探るだとか,地球化学屋にとってはたまらない内容.

ウルシと言って想像する、山で触れたらかぶれる木は、本当のウルシではないんですね。ウルシ科ではあるけれど、たいていハゼなどです。本当のウルシは、ほとんど姿を消しています。もともと自生していず、人が持ち込んだものと言われています。

岩手県二戸市の浄法寺は、国産ウルシの最後の砦ですね。
震災のときも、浄法寺は大丈夫か、ウルシはやられなかったか、という声が出ましたもの。
ほかには、漆芸家が個人で植えているレベルしかないでしょう。国産漆と輸入物は全然ちがうとか。

ちなみに日本の漆産業の原点は、奈良の曽爾村らしく。、ここに漆部もいたそうです。現地では、ウルシを植えて地域づくりにつなげようとしています。

でも、産業にするには、簡単ではないなあ。新しい漆の需要は、何かないだろうか。

つうくんさん:ありがとうございます.だけど今年は徹底的に湧水を巡りたいのでそちらは遠慮します.必ず大垣の「水まんじゅう」屋さんには行くでしょうけど(大垣は知る人ぞ知る水の町),水うちわまではちょっと時間が・・・

水うちわはニス塗りなんですよね.それも昆虫の分泌液だそうで.なんだか漆っぽい?となると漆塗りの水うちわを開発し・・・と,強引に(笑)話を戻します.

過去記事へのコメントですみません。

「漆と生糸」

近年の研究成果では、輸入漆塗料の利用は、江戸期ではなくて、発掘資料から桃山文化期(16世紀末から17世紀初頭)と云うことになっておりますね。この時代戦乱の影響で文書史料を得にくいのですが、・・・

17世紀後半の長崎商館長フェイトの侍医であったスウェーデン人 C. P.ツュンペリーの『江戸参府随行記』のなかでは、「日本で製造される漆器製品は中国やシャム,その他世界のどの製品をも凌駕する。それらは最上質の松や杉材を使い,ウルシノキ(Rhus vernix)から採れる最高の漆を塗る」という、日本産漆塗料と漆製品が良質であると、当時の西欧人にうちで認識されていたところが示されています。

これは、漆製品がヨーロッパでジャパンと呼ばれる元となった認識に連続するのではないかと思われますが・・・

いづれにせよ、先ずは東南アジア交易のなかの、生糸や染料や漆というような工芸素材の輸入の動機と、その製品がすべて国内向けのものだったのか、あるいは、どれくらいの規模の輸出向けのものがあったのかなど、まだまだ検討する余地が多いですね。

それに、例えば、生糸なども、従来では、国内の生産が失われていたから輸入したとか、質の悪いものであったから輸入したとか、言うことになっていますが、・・・このあたりも再検討しないとほんとの実情はわかりません。


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