日本は林業に向いているか
いや、ふと頭に浮かんだフレーズなんだけど……。
これでブログの記事1本書けるかな、と(~_~;)。
一般に日本は森林が豊かで林業に向いていると思われている。たしかに欧米に比べて温暖で、湿潤。植物の生育にはモッテコイの環境だ。また植物自体の種類も多く、実に多様な樹木・草本が育っている。
これは、林業にもってこいでしょう~。おかげで昔から生活に木製品が息づいてきた。人口も多いから木材需要も多い。細やかな加工をする職人もいる。この数十年だけは木材離れを起こして林業は不振になっているけど、潜在的には日本は林業に向いた国だ!!
と、言いたくなる。が、果たしてそうなのか。
生物多様性が高く、湿潤温暖で植物の生長がいいのは事実だが、それは少数の人間が利用しやすい樹木を育てる林業には向いているとは言えない。むしろ余計な植物の繁茂が目的とする植物を圧迫する確率が高まる。
実際、スギを育てたいと思って苗を山に植えても、勝手に草が繁り、雑木が生えてくる。おかげで下草刈りをしなくてはならないし、除伐として余計を木々を伐採もする手間が必要だ。それは育林コストをはね上げる。
多様な自然は、虫害・病害・獣害も発生させるし、地形の複雑さが育つ木々の生長にばらつきをもたらし、同規格の樹木の量を小規模にする。もちろん面積の少なさも、大規模林家が育ちにくく、経営を厳しくさせる。
加えて搬出の難儀さ、高コスト体質にくもつながる。
また経営上も、50年100年先の経済状況を予測するのは不可能であり、樹木の時間は産業に似合わない。価格下落、山火事、風水害などのリスクも、常に利益を帳消しにする。
山主は、常に支出を求められるから、林業を本業にはできない。必ず別の産業で稼いだ資金を山に投入することで維持してきた。たとえば酒、醤油、味噌などの醸造業や、運輸業から参入したり、鉱工業や通商で稼いだ企業が山に投資している。
ごくわずかな木材高騰の時期は利益を出して、山は金になると思い込みがちだが、それは幻想なのだ。常にほかの産業に支えてもらう生業なのである。
日本の林業は元から不利で、そのままでは成り立たないのだ。……このように考え、まともに経営したら儲からない、破綻するというところに立脚して、対策を練ってみるべきではないか。
これは,最近の経済のグローバル化とかを問題にしているのではない。鎖国していた頃から、林業は採算が合わない産業だった、という視点を持って考えようということである。
昔から、不利だったのだけど、島国で輸入の難しさによって救われ、役物など独特な価値観を育てることで、かろうじて生き延びてきた。が、その価値観が近年崩壊したことで林業は苦しんでいる。
ならば、以下にほかの産業から山に投資させるか、一攫千金の夢を見させて出資させるか、という策略を練る。その金を山村に行き渡らせ環境に還元させる仕組みを構築する。出資者に金銭では十分に還元できない(宝くじ的に、時には儲かる)が、何らかの満足感を与えることで損していない気持ちにさせるのが大切だ。
さしずめIT産業とか、知的サービス業界からの参入に期待したいなあ。
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やっぱり本題に関係ないかもしれないコメントですけど・・・。
今朝、幼児向け子ども番組(NHK「みいつけた!」)で、
割り箸作りの工程を紹介していました。
木材の、丸いところを使っているところ、
ちゃんと映像として出ていたので、
あれを子どもと一緒に見たお母さん方は、
きっと少しは「いいかも」なんて、思ったんじゃないかと・・。
林業の盛んな土地に住んでいるだけに、
衰退してはさびしいなあと、思います。
今度、看板を地元の木工業者に依頼するつもりです!!
投稿: みーふー | 2012/01/16 12:26
子供番組で割り箸づくりですか!
NHKのEテレですね。旧教育テレビは、ときに常識破りの番組づくりをするから、穴場ですね(^○^)。今後も期待しましょう。
看板って。。。何かお店やるんですか?
投稿: 田中淳夫 | 2012/01/16 22:10
大変興味深い内容でした。
実家に少し山があり、私が継ぐとになっているので今どこにあるのか場所を覚えているところです。山の上の方にある木は伐採して出すのに経費がかかり、ほとんど何をやっているのかわからないような現状ですが、それなりに出していかないとそれに関る産業も回っていかないのだろうかと考えています。
私がもらっても植林とか間伐とかの経費も出ないのではないだろうかと思い、多少の手入れはできるようにチェーンソーも習ったりしています。それはとても楽しいので趣味としてはいいし、親からもらったものは使わないで山のために使おうと思って刃いますが、次の世代に渡すことを考えるとそれでは続かない、何とか山の魅力を使う方法はないかと思案する日々です。
実家の周りの家を見ていると、本業は別(大工や左官が多い、農業も多少やっている)にあり、お金が必要な時に木を伐る、伐採や林道まで出すのは自分でやってしまう、という人が結構いるようです。山村でも住み続けられる所ではそのように続いて来たのだと思います。
ウチの父は勤めていたし、山にはあまり関心ないようで全部業者任せですから、今のような時代になると売るのはアホらしいとなってしまいます。
最近では山へ行くたび「街の人にあピルできるものはないかしら」と思案しています。日当たりのいいところにはコシアブラが群生しているので、これを売った方がお金になるんじゃないの?とか。
一つわからないところがあったのですが、
>島国で輸入の難しさによって救われ、役物など独特な価値観を育てることで、かろうじて生き延びてきた。
の「役物などの独特の価値観」とは具体的に何のことですか?
投稿: マリマリ | 2012/01/17 08:54
本項目は、「日本の自然は、本当に林業に向いているのか」という視点で考えてみようという、思考実験のつもりで書いたのです(^^ゞ。
すると、現実に向いていない理由が列挙できた。また歴史的社会的にも、収支はマイナスであることが浮かび上がった……という感じです。
次は「日本は林業に向いている」というテーマで書こうかと(~_~;)。
ご指摘のように、まず本業には向いていなくも、副業にはよいし、また環境や社会的貢献など精神的満足感に寄与する割合は大きいですね。
私も山を持ちたい、持っている人が羨ましく思います。
「役物」とは、簡単に言えば銘木です。磨き丸太や無節、珍奇な木目などを売り物に、かつては通常の木材の10倍20倍の価値がありました。戦後のある時期大流行して、それは1990年ごろまで続きました。もちろん日本人にしか通じないのですが。でも、その高価格のおかげで儲けた林業家・山主も少なくありません。
投稿: 田中淳夫 | 2012/01/17 10:03
わたしもやっぱり本題とは関係ないのですが,こんな記事を見たので紹介:
http://www.gifukokutai2012.jp/kokutai/undo/report/2012/01/17-4371.php">関市 関商工高等学校の皆さんが「ぎふ清流大会」アーチェリー競技の的台製作をしました!【ミナモ運動】
国体というと当該都道府県の全自治体がなんらかの形で関わるので,自然と関係する都道府県民の数が多くなります.今回は,地元岐阜のヒノキを工作してアーチェリーの的台にするという仕事を,開催地の商工高校生徒が行いました.
いい材の的台だと真ん中に当たる確率が高くなるのでしょうか(まさか.いやもしかしたら・・・)
奈良はしばらく国体はないですね.残念.あ,他人のことを言っていられない.地元東京が来年です.あと,数年後は和歌山ですね.和歌山では徹底的に「木の文化」を押し出して演出して欲しいところ.
投稿: あがたし | 2012/01/17 12:12
う~む。本題と関係ないコメント欄をつくろうかしらん。。。
国体には、こうした地元産品の展示場という役割があるわけですね。
もちろん、そのアーチェリーの的は岐阜勢には当たりやすくなるよう特別な木製磁石が仕込んであるに違いありません。ほかの県勢には磁力を反対にする(~_~;)。
投稿: 田中淳夫 | 2012/01/17 16:11
日本は林業に向いてませんね
だって、
1)自然条件が厳しい
地形が急峻で機械導入コストが高い、河川が高度利用されているので河川を使った集材が不可能
2)国際競争力がない
人件費は高いし、円は高いし、輸入関税はかかってないし
国内材で家を建てたいという潜在需要はあるものの、大規模化は難しいので高額になり、イコール大きな産業になれない
小規模な兼業としては成り立つかも
投稿: か | 2012/01/20 23:17
いやいや、次は「日本は林業に向いている」というテーマで書きます。その時は、何か有利な条件をひねり出しましょう(^o^)。
投稿: 田中淳夫 | 2012/01/21 00:04
林業に
むいているのか、いないのか、というのも林業に直接関係がある人も間接的に関係がある人たち(消費者など)に知ってほしい題材だと思います。
ただ、産業として成り立つかどうかとかの話しの前に、そこに、そしてここに「山」があるのだ、そこには木が生えていて(植えてあってと天然にと天然っぽく)、微生物とか昆虫とか鳥とかが住んでいて、土もあるということを、口だけでなく、重要な部分として昇華して欲しいです。
◯◯m3だとか、◯◯%とかのコトばかりで、そこに住んでいる人とか野生生物のことが文字や言葉だけで表現されているのが強まっているような気がします。
過渡期として必要なことかもしれませんが、そんな風になって2年そこそこでアレルギーを感じます(私だけ?)。
「山」はそこにずっとあるのに、人間の都合だけがどんどん変化している。双方のスピードが違いすぎるとも思います。
投稿: 鈴木浩之 | 2012/01/21 09:27
そう、今の林業は「儲かるか儲からないか」の話に終始しがち。昔は、あまりに経済・経営のことをなおざりにしすぎたけれど、数字ばかりが一人歩きしても困りますね。
仮に儲からないと答が出たら、放棄できるのか……今そこにある森(人工林)をどうするかを考えねばなりませんね。
投稿: 田中淳夫 | 2012/01/21 13:27
>今そこにある森(人工林)をどうするか
林業=木材生産としては、成り立たないと思います
しかし、水源整備としてならお金を投資する事に理解が得られるのでは?
アサ○ビールのキャンペーンとか、「天然水仕込み」をうたう商品が出回っていますよね
もう一つは、林業系住宅メーカーとか、製紙会社とかが山を持てばいいのかなと思います
「我が社は森林整備を通じて環境に貢献してます」っていう会社を集めた投資信託商品とか、あったように思います
投稿: か | 2012/01/21 21:12
私の近くには
自伐で頑張っている林家とか、雇用でやっている人、委託でやっている人、まさにやり始めた人、
それらを請け負っていこうとしている人、
少ないかもしれませんが、いるのです。
生産だけに終止するではなく、環境と生産との調和を図っていこうとしている人、それを当然と思っている人もいます。
生産をしながら、鳥獣保護もやる(公的な鳥獣保護員も兼ねていたり)、損な人もいます。
投稿: 鈴木浩之 | 2012/01/21 22:01
私は、木材生産でも経営を成り立たせることは可能だと思っています。
ただ、現在の木材価値のままではいけない。
抜本的な木材の利用法の見直しが必要になります。あるいは、所有形態から変えることになる。
また木材でなく森林全体の価値を確立する必要も……。ようするに、個別の素材に分けるのではなく、森林全体を社会の一部に取り込む仕組みが……。
投稿: 田中淳夫 | 2012/01/21 22:36