なんだか、私は天竜に観光へ行ったように思われているかもしれない。
実は、木を伐りに行ったのだ。
「樹齢100年を越える木を自分で伐りませんか」という甘い言葉に引かれて……。
いそいそと出かけた私は、まず伐ってよいヒノキに案内された。
直径約40㎝。なかなか堂々としたヒノキだ。
が、よく見ると受け口がすでに伐られている。しかも斜面下方に。
素人に伐採体験をさせる時は、事前に用意しておいてくれるのだ。受け口は倒す方向を制御する重要な技術だ。追い口は、まっすぐ伐るだけでよい。まあ、ツルを残す必要はあるが。
「受け口から伐りたかったなあ」とつぶやく。「それに山の上方に倒したかった……」「倒した木の元が、切り株の上に乗るようにしたかった」
目茶苦茶、ぜいたく(^^;)\(-_-メ;)。
まあまあ、となぐさめられて(^^;)、久しぶりのチェンソーを握る。

見よ、この勇士! というほどかっこよくない。
しかし、油断した。下向きだから楽勝だと思ったのに、ちょうど強風が吹いていて、梢が揺さぶられる。そのため、倒れる方向が15度くらいずれて、予定していた木の間ではなく、一つ別の樹間に倒れてしまった。
悔やむと、「風のせいだから仕方がないよ」となぐさめられるが、気に食わない。
なお、倒したヒノキの切り株の年輪を数えると、だいたい110本となった。樹齢110年前後である。非常に密で、しかも真円。本気で吉野材と間違えそうだ。
悔しがったおかげで、もう1本伐らせてもらえるようになった。次はスギだ。樹齢は同じ頃に植えたというから、100年以上あるのは間違いない。
今度は受け口から。そのためには倒す方向を決めねばならない。
しかし、斜面上方には作業道が延びているため倒せないことがわかった。すると右斜め上方か。たしかに少し空間が広がっている。が、そこには別の木がすでに倒されていた。狙ったとおりに倒せたとして、切り株と元玉に激突する。
「間伐だから仕方ないですよ。かまいません」と言われるのだが、う~ん、美学に反する(^^;)。倒した方、ぶつかった方、双方に傷がつくかもしれん。最悪折れる。結果的にぶつけたのなら仕方がないが、狙いをそちらに向けるのはイヤだ。
というわけで、ほぼ真横を狙うことにした。
慎重に受け口方向を決める。そしてチェンソーを食い込ませる。
が、その時点で失敗してしまった。斜面に立っていた私は、平面に切ったつもりが、切り口を斜めにしてしまったのである。これでは、伐倒方向がかなりずれる。
それで修正したり、また修正を手伝ってもらった。かなり大きな受け口になってしまった。やっぱり受け口は難しい。
で、芯をツッコミで抜く。追い口をド~ンと伐る。また、ワイヤーで牽引もかけてくれた。

ちょっと、かしぐ。あああ、また方向が少しずれた……。。。。
狙った木にこするようになりながら、それでも、かろうじて予定の木の間に倒れ込んだ。
残念ながら飛び跳ねたので、受け口の上に乗せることはできなかった。
「受け口を経験した人は初めてですよ」となぐさめられる(^^;)。
やっぱり、甘くなかった。これまでの経験は、直径20㎝程度の、いわゆる間伐材レベルばかりだった。それなら、さして悩むことなく伐採できた。方向もさほど苦労しなかった。
しかしチェンソーのバーが、一度では届かないほどの大径木は初めて。全然感触がちがう。向こう側が見えないし、思い通りにバーが動かない。
こうした技術をは、数をこなさないと身につかないのだろう。
誰か、1日で30本くらい伐らせてくれないかなあ(^o^)。樹齢100年ものばかりとは言わないからさあ。そうしたら、少しはマシになるよ。
ちなみに伐った木の木口にサインする。

この後、葉枯らし乾燥して、さらに貯木場、製材所でも天然乾燥するから、利用できるのは2年以上先である。それまでに、この木を使って家を建てたいと言えば、使ってくれるそうだ。木にはナンバー振ってあるから、わかるのだ。
2年後に家づくり……厳しい(^^ゞ。
今につながる天竜林業は、先に紹介した金原明善によって始まった。金原は、天竜川の治水を行うために山に木を植えることを決意。その範を吉野に求めた。片腕となる男を土倉庄三郎のところへ送り込んだのだ。明治18年(1885年)のことである。
明善も、吉野を訪れている。その後、庄三郎も天竜を訪問するなどして指導したから、天竜には吉野式の植林が行われることになった。
だから当時植えた木は、樹齢で100年~120年くらいだろう。ということは、今回私が伐った木も、土倉-金原時代に植えた木ということになる。
実際、訪れた山は、全体が100年前後のスギやヒノキが林立していた。その景観は、驚くほど吉野に似ている。山の傾斜まで似ている気がした。
そして伐った木の一部を記念に持ち帰ったのだが、その年輪を見てくれ。

なかなかのモンでしょう?
最後に。この伐採体験をさせていただけた榊原商店の榊原さんに感謝する。
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