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2012/02/21

「リトルフォレスト」評・田舎の意義を感じる

リトル・フォレスト1、2」(五十嵐大介・講談社ワイドKCアフタヌーン)を読んだ。

漫画である。実は、古本で買った。半額セールだったもので(笑)。

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タイトルに引かれたのが第一だが、内容も田舎暮らしのような感じ。ところが、読み始めてすぐわかったのだが、リトル・フォレストとは、舞台となっている山の集落が小森という地名だったところから付けられたようだ。場所は、「東北地方のとある山の中の小さな集落」と紹介されている。森は、あんまり関係ない(~_~;)。

が、奥の深い作品である。( ※またもや、ネタバレ注意である。

いち子という若い女性が主人公。素性はよくわからないが、一人で集落に住んでいる。ほとんど自給自足的な生活だ。一度は都会に出て男と暮らしていたらしい。少女時代に母親が失踪したことも第6話で触れられる。が、物語は、そちらの方向には進行しない。

ほぼ全話、食べ物の話なのである。それも、この集落ならではの食べ物。

目次を追うと、グミ、ウスターソース、ひっつみ、なっとうもち、あまざけ、ばっけ(ふきのとう)、つくし……時に岩魚が出たり、アイガモを潰して解体したりもする。実にていねいに描かれてあるから、真似て作ってみたくなる。ここまで手づくりできるのか、と思ってしまう。

その点は、アウトドア雑誌か田舎暮らし雑誌のハウツウ漫画と言ってもよいぐらいだ。事実、そうした要素もある。絵は図解だし、写真も入っている。

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だが、日常を描いているようでいて、主人公の過去や心に抱えた不安がチラリチラリとかいま見え、同時に田舎の暮らしがなぜ貴重なのか「意義」を考えさせる。


 
たとえば、同じくUターンした年下の男は、「自分自身の体でさ、実際にやった事と その中で自分が感じた事 自分の責任で話せる事って、それだけだろう?」「なんにもした事がないくせになんでも知っているつもりで 他人が作ったものを右から左に移してるだけの人間ほどいばってる」「薄っぺらな人間のカラッポな言葉をきかされるのにウンザリした

彼は人生に向き合うために田舎に帰って来たのだ。そして主人公は、そうした人生から逃げてきたことを悟る。。。

いち子は、また小森から出て行った。そして帰って来た。どうやら婿を連れて帰って来たらしい。そして集落の収穫祭を企画して開く。

そこで語るのは、「誰かの都合に振り回されるのはつまらないから もっと自分の力をつけよう」という。「たとえば補助金もらえなくなると困るから国のいいなりになるとか

だから、最低限の暮らしを自分でできるようにしたい。そう考えると、そのためのノウハウと先生が、この集落にはいっぱいいた……と語るのである。


  

う~ん。田舎が田舎として、存在する意義を考え出すときりがない。単に経済や効率だけを追えば、限界集落なんか消えてしまった方がよい。それは昨日の「限界集落の真実」でも書かれていたことだ。かといって、博物館的に強制的に残すものではない。住民がいるのなら、住民の意志によるのだから。

 

そういえば、生駒山にパーマカルチャーの始祖、デビット・ホルムグレンがやって来たとき、日本の里山・農村に注目している理由として、農耕の手づくりの技術を記録していることを挙げていた。もし石油が尽きたとき、化石燃料に依存した文明は崩壊する。そのときに生き残るためには、日本の農村に残る技術が大きなヒントになるだろう……てなこと言っていた。

実際の現場に行くと、果たして本当に生き残るノウハウを残しているかどうか、心もとない。
が、そうした機能に期待する向きがあることは事実だろう。そして巨大な都会で社会組織の一員として暮らしていては身につけようがないことを、田舎では身につけられるのかもしれない。

たしかに都会では焚火をしてはいけないと言われるが、それでは火を付ける訓練のしようがない。パンもケーキも売っているものを買う方が安上がりだが、田舎では材料から自作したりする。味噌や豆腐、漬け物、酒……趣味のような加工食品づくりが保存食にもなる。

思わず今日は、わざわざ山に薪を取りに行って、庭でダルマストーブ(時計ストーブ)の焚火をしてしまった。。。

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コメント

高校生の時には豆腐を作ったり、
自分が高校の先生になってからは
ジャムやクッキー、パンやケーキ、マヨネーズ、
ハム、ベーコン、ソーセージの実習もありました。
実はびっくりするくらい簡単で、
作る手間と、体に入る添加物の害を考えたら、
作ったほうがずっといいんじゃないか、と思っています。
今はちょっと余裕ありませんが・・・。

でも、手作りの良さを大事にする人は今、
意外と増えつつあると思いますし、
手作りが大事にされる世の中なら、
手作りするためのいい材料の手に入る田舎が、
もっと活気付くのでは、と思います。

最近は、甘夏の皮でオレンジピール作りにはげんでいます。驚くほど簡単に出来ます。レシピは省略します。

10年以上前、私の授業でなんと豆腐を作らせ、作った後で出るオカラでオカラケーキを作らせてました!

1月末から2月は、自宅で出来る甘夏を食べその皮でオレンジピールやママレードを作ってますよ。
5月末には、桑の実を採集して来て桑の実ジャムを作ります。パンに塗って食べると美味しいですよ。
6月には、自宅の庭にできるアンズでジャムをつくってます。11月末から12月には冬イチゴを採集して来て、ジャム作りを楽しんでます。ヨーグルトに入れると最高です。
また、琵琶の種を捨てないで、安い蜂蜜に入れておくと約2〜3週間で大変美味しい杏仁の香りがついた蜂蜜が出来ます。これもヨーグルトに入れると最高です。また、ビワの葉を乾燥させるとビワ茶が完成します。
昨年からは、アカメガシワの葉を乾燥させてお茶にしてます。

皆さん、なかなか「リトル・フォレスト」してますね~。

それにしても高桑センセイ、一体何の教師ですか(^^;)。微生物学?と思っていたら豆腐を作らせられたら学生もとまどうよ……。

田舎の価値は、素材が目の前にあることかもしれません。この距離感を価値する、あるいは素材を求めている人々に直に提供できたら、世の中変わるような気がする。

田舎の価値は、素材が近くにあること、「目の前」にあること。

最近、ある民宿からアイデア出しの相談を受けたのですが、
まさにそれを提案したところでした。

ジビエ系+自家製の素材(ちょっと特種な、スーパーにはあまり売っていないような素材を含めて)。

その調理法とか提供方法も少し工夫。

薪も近所で取れまっすし、っていうか取り放題。

そんなこと考えています。

女将さんがGOとなれば、また報告します。

単にジビエを売り物にするだけなら、輸入物の肉を使った方が楽ですね。
そこに自家製素材や自家加工の要素をいかに加えるかでしょう。
民宿だったら手づくり感がほしいですねえ。

五十嵐さんの漫画はこの他にも色々ありますが、
私はこの「リトル・フォレスト」と「魔女」が好きですね^^
とても力があると思います。特に目に。
田舎の魅力は・・・これは描きだしたらきりがないで
すね。

「リトル・フォレスト」は、ストーリーよりも暮らしのデテイルを描くことで成立させた漫画という感じでしょうか。力量がないとできないことです。

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