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森と林業の本

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2012/02/03

木材内部から放射性セシウム?

このところ流れているニュースで看過できないもの。

東京農業大学の林隆久教授が、福島の木材を調べたところ、内部から放射性セシウムを数千ベクレル検出したというのだ。これを字句どおり捉えたら、福島産の木材は、樹皮を剥ごうが、製材で辺材部を切り落とそうが、使えないことになる。

まずニュースを引用しよう。かなり短いから、全部になってしまう。詳しい発表資料を探したが、見つからなかった。

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http://www.jiji.com/jc/zc?k=201202/2012020100933&g=soc

東京電力福島第1原発事故で放出された放射性物質が、森林に与える影響を調査している東京農業大学の林隆久教授(木の遺伝子工学)は1日、福島県内3市町の森林の樹木を調べた結果、内部から放射性セシウムを検出したと発表した。最も数値が高かったのは南相馬市のスギで、1キロ当たり2300ベクレルだった。
 調査は昨年9月から12月、南相馬市と相馬市、新地町の計7カ所のスギなど30本前後を対象に実施。厚さ2ミリ程度に輪切りした木を、X線フィルムに密着させて感光するオートラジオグラフィー法で内部の放射性物質を確認した。
 年輪ごとに削り、セシウム濃度を計測したところ、最高で2300ベクレルを検出した。対象のうち7本前後は検出されなかったという。一方、表面の樹皮で最も高かったのは南相馬市のヒノキで、同9万5000ベクレルだった。
 林教授は「セシウムの気化や木材として使われることを考え、何らかの基準を作るべきだが、線引きは難しい」と話した。(2012/02/01-19:44)

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これでは、どうも調査の実質がわからない。対象として樹木の太さも示されないし、試料の採取の仕方もわからない。木材内部とは、年輪のどこの部分なのか、またサンプルの数値のばらつきもわからない。30本中7本は未検出だそうだが、地域差があるのかないのか……。

通常の考えでは、木質部は生命活動を終えているから、樹木の表面についた放射性物質が移動すると想定しづらい。だから樹皮や木材表面を削れば安全なはずなのだ。

ただセシウムがまったく移動しないわけではない。過去の水爆実験時に、空気中のセシウムが木質部に満遍なく移行した調査例はある。それは木質部の中にある柔細胞のためだ。この細胞は、まだ木質化していず、そこに物質を貯蔵する。そこにカリウムとよく似たセシウムをため込むことが知られている。

ただ、それで移行するには、長い時間がかかり、量的にも少ないはずだ。また樹木の木質部のうち柔細胞が何%くらい占めるか私は知らないが、そんなに多いものではない。

だから、上記の測定結果が不思議なのだ。

その数値が本当だとすると、どのようなメカニズムで数千ベクレルも内部にあったのか。

もしかすると、サンプルの木片にたまたま柔細胞が多くて、それが数グラムなら1キログラム換算で多く出てしまった……という可能性も考えられる。

あるいはサンプルの中に非樹木性の植物が混じっていたとか……(草本なら、内部にセシウムをため込むのは理解できなくもない)。

またオートラジオグラフィー法の精度はどんなものだろう。

もし、この測定結果が一人歩きすると、福島の林業は成り立たなくなる。ただでさえ、「木材は情報素材、情操素材だ」と言っているのに、人体への危険の有無に関わらず、購入意欲を減退させるだろう。

とにかく、測定方法や結果を詳しく発表してもらいたい。また追試もお願いしたいものだ。

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コメント

ボクも気になってましたコレ。
詳しい内容が知りたいところです。

サンプルを作成するときに、どんなふうに行ったのか
知りたいですね。
特に樹皮を剥がしたりの時に。
理論上、外側についている放射性物質が混ざらない方法でも、
サンプルを作成する人が実際どうやったのかを。

この直前に、林野庁がヘンな実験結果を発表していましたからね。
400ベクレルほどの放射性セシウムがついた木材で4畳半作って過ごしても、被爆量は……だとか。
余計に不安をあおるだけだって(^^;)。林野庁、信用されていないんだから。だいたい、安全かどうかではなく、気分よくないことが重要です。

ともあれ、この東京農大の調査は、イマイチわからないというか、怪しく感じます。いや報道姿勢そのものが怪しいのかも。

熊(♀)様

そうそう、実験の精度も心配なのですよ。ちょっとしたミスで樹皮に就いていたものが、サンプルに移る可能性だってある。
年輪ごとに削り、というのもわかりにくい。その欠片は0,1グラムかもしれない。それが柔細胞の部分なら1ベクレル検出しただけで、1㎏換算で1万ベクレルになってしまう。

オートラジオグラフィー法で核種分析どうやってやるんでしょう?Kの放射線と区別できるんでしょうか?
なぜにオートラジオグラフィー法なんでしょうか。感度が高いとも思えないんですが。
「セシウムの気化」とういのもイオンの形で存在してるセシウムが気化するとも思えないしなんだかよくわからないですね。

私はオートラジオグラフィー法というのを知らないのでわからないのですが、「セシウムの気化」はたしかにおかしいですね。
これが単に記者の無知なのか、林教授の戯言なのか……。

どうも感覚的に「オカシイ」が飛び交ってしまいます。

田中組長様

新建ハウジングの記事では,
「 東京農業大学の林隆久教授(バイオサイエンス学科)は2月1日、福島県相馬地方の樹木の放射能汚染の状況について記者会見を行い、サンプル採取した樹木の内部から放射性セシウムが検出されたと発表した。サンプル調査のうち最も高い数値を示したのは、9月に南相馬市で採取したスギで、放射性セシウム濃度は1キロあたり2300ベクレルだった。
 同調査は、東農大の復興支援プロジェクトの一環として実施したもので、昨年9月から12月にかけ、南相馬市と相馬市、新地町の7地区で実施。スギやヒノキなど約30本からサンプルを採取した。各サンプルを年輪ごとに削り、それぞれの放射性セシウム濃度を測定した。
 放射性セシウムの濃度は、年輪ごとにばらつきがあり、9月に南相馬市で採取したスギの2011年の年輪からは、1キロあたり5430ベクレルの放射性セシウムが検出された。
 一方、サンプルのなかには、放射性セシウムが検出されなかったものもあったという。
 林教授は引き続き、樹木木部の放射性セシウムの動態解析や汚染された樹木の安全性の実験などを行っていくとしている」


「放射性セシウムの濃度は、年輪ごとにばらつきがあり、ーーー検出されないものもあった」とありますから、一番汚染がひどい物の樹皮では放射能汚染が高いようですが,検出されないものもあったわけです。


他の新聞記事では、汚染がひどいことを印象づける内容です。同じ発表でも、新聞社でこんなにも違うのかとおもいました。

確かに樹皮の部分にはセシウムが蓄積しているでしょうが、年輪内部と言っても外側=樹皮に近い方が2300ベクレルあるということではないでしょう。

オートラジオグラフィーというのは、放射線の中のβ線を感度のいい写真感光紙で検出する方法で、DNA遺伝子研究でごく普通に使われます。

感度が問題ではなくて、新聞記者の理解度が内容に反映され、汚染だ、汚染だ、と騒ぐ内容に見えます。騒いで儲かるのは誰でしょうか。業者と研究者でしょうかね。

新聞を斜め読みするじいさんより 

なぜ、バイオサイエンス学科の先生が調査したんだ、ということは置いといて、たしかに木材内部と言っても、表面から1㎝以下の辺材部の可能性もありますね。
形成層を含むのなら、セシウムが滞留している可能性はあるかも。

もっとも、新聞記者の無知か透けて見えますな。それに、汚染状況が悪い方が、ニュースバリューがあると思っているフシもある。まあ、それは学者も同じようなものだけど。

続報が出ない点からも、実情に詳しい人は、この調査結果を相手にしていないのかも。

林先生の発表を聞いた人からの又聞きです。

木部は過去10年間の平均値だそうです。最も多かった個体が2300で年輪毎に見ると2011年の所が多く5430ということです。汚染された樹木が微生物や日射でセシウムを有する気体を発生しないか?を心配していたとか。
ちなみに林先生は京大の木研(現生存研)にいた方なので木についての常識は持っていると思います。

補足します。過去10年間の平均値というのは年輪10年分の平均値ということです。

Kenさん、ありがとうございます。ようやく、少し見えてきました。

2011年とは、表面と言ってよい(樹皮のすぐ下)だろうし、過去10年間の年輪は、検体のスギの樹齢はわかりませんが、おそらく数㎝以内に納まっているでしょう。
つまり辺材部分と言える。これなら、セシウムが滞留していても、さほどおかしくない。想定内です。

ようするにマスコミが、わざと核心部を隠して書いた危険をあおった記事ということでしょう。わざわざ「樹木の内部」という表現を使って。また、セシウムを含んだ物質が飛散することを「気化」というおバカな言葉を使ったように思えますね。

産経では「数千ベクレル」と見出し(本文も)を出してましたね。
木材は産地表示が曖昧なんで福島の林業だけではすまないと思います。
あっ!それと林業だけではすまないと思います。もしも「紙」から検出されたらどうするんでしょうね・・・
でも田中さんがブログで取上げて下さってとてもウレシイです。

本当に報道は気をつけてほしい。
知識がないのか、ミスリードしかねない記事が多すぎる。その自覚がないのも困りものです。
本当に国産材全般とか、紙まで忌避対象になりかねない。

東電などには、細心の注意を払った記事を書くのにね・・・。

この報道は、非常に問題です。断固、追試を求めます。関係団体は。声を上げるべきです。正確な追試を!!

そうですね。福島県もしくは木材団体は、声を上げるのも一つの手です。

ただ、世間は細かな事実関係より「木材の内部にも、セシウムが含まれている」という一点に興味を示しかねないのですが……。

田中さん
大変有益な、ブログコメントを有難うございます。

話が若干逸れますが、コメントさせて頂きます。

私たちの仲間内(相模原市、旧藤野地区)で、暖炉から出る灰(地元産の杉の木が多い)の放射能を数か所測定したところ、セシウム(134と137の合計)の平均値が約1720ベクレル/kgでした。
皆と相談して、暖炉を使っている家庭に対して、灰の取り扱いに注意し、かつ、畑の肥料として使用しないよう呼びかけました。

このことから、杉やヒノキまた広葉樹の被ばく量やその影響を是非知りたいと考えていました。建築用材、パルプ用材、バイオマス用材などになった時にどのような影響があるのかも知りたいと考えています。

私たちの仲間では「地域の森を再生する」動きの一環として、建築用材を地元産材の利用を促進することや、また、エネルギー自給の一環として、バイオマス活用による、熱や電気を得ようとする動きがあります。

また、実際、裏山を歩いても、今は枯葉が山道にいっぱいですが、「新鮮な空気を胸一杯吸う」山歩きもできないのかと、暗澹たる気持ちになります。(先に堆肥用枯葉を測定したときには、地表から0-3cmの部分のセシウムが250-450bq/kgでしたので。)

農作物への影響はもとより、樹木の被ばく状態は、われわれの日常生活やさまざまな産業に非常に大きな影響がありますので、是非、詳しい、かつ正確な実態を調査してほしいと考えます。併せて、公正な報道も期待したいものです。

実は、福島県木連から、この記者会見の資料を送ってくださいました。
このことを書こうと思っているうちに時間がたってしまった。

で、内容ですが、あんまり意味を読み取れない。。。ほとんど全部は樹皮周辺が高いだけで、とくに内部セシウムが蓄積しているデータがない。ただ、数値を拡大してみると、芯部の方が高い木材が結構ある。ただ微量の上に、目立った傾向はないので、その理由もわからない。むしろ試料の削り取りの際の誤差ではないか、と思えてしまう。(ちなみに試料採取は、卒論にしようとしている学生がやったそうで……。)

基本的に試料の数が少なすぎるし、バラツキがありすぎる(樹種も、太さも、場所も)ので定量的なことは何も言えませんなあ。

県木連も、この発表にとまどい怒っている様子。続報もないし、この研究はフライングではないだろうか。

にもかかわらず、心理的影響は大きいですね。あるさんのいう通り、裏山を歩いても気にしなくてはならないなんて、暗澹たる気持ちです。論理的には健康に影響の出るレベルではないことはわかるのですが、気持ちのよいものではありません。責任は大きいと思います。

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