森林経営信託契約と借地林業
先日、岐阜県の御嵩町が、「森林経営信託契約」を締結して、町有林約236ヘクタールを可茂森林組合に預けたというニュースが流れた。
この「森林経営信託」とは、森林の所有はこれまで通り維持したまま、経営を分離して信託するものだ。10年を一区切りとして契約する。これによって、森林組合が自らの裁量で森林資源を活用する経営を行えることになる。町は約780ヘクタールの森林を所有するが、順次契約を結んでいく予定だという。
組合としては、長期的視点を持てることから、人材育成や収支バランスを考えて仕事量を調整できるし、木材市場への安定供給も保証できる。
この契約締結は、公有林では全国でも島根県雲南市に次いで2番目だそうだ。
ちょっとわかりにくいが、以前から言われている森林の所有権と利用権(経営)の分離を行うものだ。
これまで森林経営のノウハウを持たない、あるいは意欲のない山主の場合、意欲的に林業を行う経営者に山を任せた方がいいと言われてきた。しかし、土地の所有権移転まで含む森林の売買は簡単ではなく、なかなか集積は進まない。
そこで、土地と森林経営を分けて長期間森林の経営を依託うという考え方だ。今回の信託契約も、それに当たるだろう。10年間あれば、他人の山でも、自らの裁量で植えるか伐るか、どんな施業法を取るか考えることができるだろう。利益も努力に比例するようになれば、意識も変わるのではないか。
私は、このニュースを読んで、なんだ、吉野の「借地林業」じゃないか、と思ってしまった。
「借地林業」は、まさに所有権と利用権の分離だった。他人の土地を借りて、そこに造林したら、立木一代限りの権利が発生する。これが、立木権である。植えてから育てて収穫するまでの権利を維持できるのだ。それは契約終了まで80年~300年もの長きに渡る。
実はこの権利も売買できる。植林から10年育てて転売し、次の10年も育林したらまた別の人に転売する……というようなことをやっていた。
余談だが、この立木権を利用したのが、立木トラストである。ゴルフ場建設反対運動などで予定地の木の権利を細かく反対者に分配してしまい、事実上開発できないようにしてしまう戦術だ。
今の吉野では、このやり方は廃れてしまったが、改めて権利関係の概念を整理し契約すれば、現代的に復活させることができるかもしれない。
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