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2012/02/01

『林政意見』に現代を読む

『林政意見』は、1899年に土倉庄三郎が中邨彌六林学博士・衆議院議員と連名で自費発行した論文である。簡単に言えば、当時の林政に対する批判と提案の書であろう。

その3年後に、庄三郎は『再ビ林政ノ刷新ヲ論ズ』という論文を、大日本山林会報に掲載している。

これらを読んでみると、いやはや、まるで現代の林政を語っているかのようである。

そこで、少し紹介しよう。

荒れた山林原野に植林せよ、とか、地の天然林資源の活用などの点は、森林事情の時代的相違を感じる。しかし、伐採跡地の再造林が遅れていることには通じるだろう。

注目すべきは、国有林の解体論だ。

国有林の多くを地方自治体に売却し、森林を基本財産として自治体の財政力を堅固すべきとした。これは山村地域の財政不足を林業振興によって補おうという。

その裏には、政府には700万町歩の国有林を経営する能力はない、という見立てがあった。この点は、20世紀末に国有林野事業で3兆円もの赤字を拵えて破綻させた現在の林野庁を連想させる。

だから、より身近な自治体に森林経営を任せるよう主張したのだ。林業は、地域の事情と森林の特性を知らねば経営できない。中央官庁の机上で行うものではないのだ。

自治体には森林を経営する資力や人材がいないという中央官庁の言い分には、「貧しいなるがゆえに富ませることを要せずとは論理を失う」と反論する。そして、地方に森林経営のノウハウを誘導する方法があると断言した。

山川省の設立というユニークな提案もしている。治山と河川の砂防を行う山川省を置き、全国の山林河川の業務を統一すべきというのだ。今なら林野庁と国土交通省の合体だろう。

たしかに縦割りは現在でも酷い。国土交通省と農林水産省と林野庁が、それぞれ無駄だらけの事業を行っている。治山・砂防だけでなく、国道、農道、林道の違いは、所轄官庁の違い以上の意味はない。

よく林野庁は、農水省に吸収されるとか、環境省と合併するといった案が出るが、狙うは国交省かもしれない。森づくりは国土づくりだ。そして林業振興部分は、経産省に任せるといいかもしれない。

天然林施業は、無謀の極み

今も天然更新の名目で、放置している伐採跡地が多いよな。

専門教育を受けた林吏を増やすべき

無学の林吏の多いことを嘆いているのだ。

かつて技官の砦だった林野庁も、今や長官だけでなく部長クラスまで事務官が抑えている。マツとスギの区別もつかないような事務官が、林政を練っているかと思うとムカつくな。林学だけでなく、専門分野を学んだ職員を増やし、政策を担うべきだろう。それも2、3年で配置転換するのは、人材の浪費だ。10年20年単位でないと、政策は作れまい。

木材も有用樹の生産に加えて販路も熟慮すべきで、あらかじめ需給の予想を立てて用途に応じて造材すべき。

現在、林業を衰退させている大きな要因は、木材の需要と供給がミスマッチしていることだ。販路も考えず、使い道も知らないで木材生産しているから、価格が乱高下する。

国産材の増強により、外材輸入を減らすだけでなく、木材輸出も行うべき

今世紀になって始まった中国や韓国への国産材輸出は、まさに100年先を予言するかの言葉だ。言い換えると、100年早すぎた。

日清戦争は、多くの人材を失い、財政的にも損失を抱えた。外に進出するより国内開発で解決すべき。

そう、内需と国内生産こそが国家経済の基本だ。今の日本は、欲しいものをどんどん輸入し、産業界は海外に進出することばかり考えている。これこそ経済の歪みである。まず地元の資源を活用し、また国内で需要を開発すべきなのだ。

各府県に森林行政機関を設けるべき。「国家巨億ノ富源ノ消長ニ関スル」ことを研究せずに、国は何を調査研究するのか。

この点も、現代の研究機関に読み聞かせたい。趣味的な里山や森林セラピーの研究もよいけれど、林業の研究を忌避している状態は、おかしいだろう。


 

土倉庄三郎が感じた政府の森林政策に対する苛立ちは、そのまま現代にも通じそうである。

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コメント

私が申し上げるのはおこがましいとは思いますが、永久保存版のピカイチの投稿だと思います。

土倉さんて すごいですね!ちゃんと、その頃から聞いていれば、随分と日本の森林の有りようは、違っていた事だと思います。

『林政意見』の現代版を復刻する価値、ありますかね(^o^)。

ただ、今も昔も、提言を受け入れる耳を持たない官庁に問題があるのだけど。

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