林住期入り
お医者さんが二人、遠くから訪ねてきた。一人は東京、もう一人は香川。
と言っても、病気の話ではない。街づくりだ。二人とも医者というより、大学の研究者。大学で医療の面からの街づくりを研究しているのである。
以前も訪ねてきて、農山村地域の実情について聞き取りをされたのだが、このほどまとまった、といって報告しに来てくれたのだ。
その理論はなかなか奥深いのだが、かいつまんで紹介すると、寿命の延長が絶対的な事情として発生している。
それによって医療・福祉から見た町がどのように変化してきたか、変化していくか……という話は専門的になるのだが、人生は、これまで第一期「巣立つ準備期」第二期「社会と家族への義務と責任期」があった。ようするに未成年と成年である。その後に、高齢の第三期がやってくる。子供が巣立ち、個人が自由になる年齢である。が、同時に老いていくゆえ、長く続かず、また介護が必要な時期でもあり、あまり計算に入れなかった。
ところが、寿命が延びた現在、個人がいかに生きるかが重要になってきた。これが第三期「自己実現と自由期」の長期化である。
同時に、医療に求められるものも変わってきた。これまでなら、傷病の治療-治癒・救命で終わっていた。それが今後、老年期の人生では多疾患・継続発症(完全治癒ではなく改善)と死亡看取りが中心となる。その中に、「自己実現」が入ってくる。
と、まあ、こんな話をしていた。難しい(^^;)。
計算上は、日本は2023年に人口の半分が、この第三期入りする。
思えば、私も、今春娘が大学に入り、ほぼ第三期に入りつつあることに気づいた。おお、自己実現の人生だ! 責任からの解放だ!
第一期、第二期において、山村など田舎社会から脱出して都会へ人は向かった。しかし第三期に入った人は、田舎へともどるかもしれない。この第三期を、ヒンズー教では林住期という言葉を使うのは示唆的だ。森林に住む人生なのかもしれん。
ところで考えたのだが、高齢者の増加が深刻なのは、田舎ではなく都市ではないか。高齢化率なんて言葉に騙されてはいけない。たしかに田舎の高齢化率は高いが、人口が少ない分、高齢者の絶対数も少ない。
一方、大都会ほど、高齢者の数が増大する。地方から吸い上げた若者は、そのまま都会で老いていくからだ。東京など、100万人単位で高齢者が増えていく。何百万人の高齢者のケアをどうして行う?
おそらく、今後は林住期を過ごす場をつくることが求められていくだろう。それが森林環境・里山環境になれば、新たな展開が広がるかもしれない。
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おっしゃるとおりですな〜〜!!
「大都会ほど、高齢者の数が増大する。地方から吸い上げた若者は、そのまま都会で老いていくからだ。東京など、100万人単位で高齢者が増えていく。何百万人の高齢者のケアをどうして行う?」
すると、高齢者雇用の場所に、里山ですな(笑)
例えば、
バイオマス資源の活用に、高齢者を活用しよう!
二酸化炭素の削減(貯留)に、炭焼きの活用を!
風力発電、太陽光発電、水力発電は、里山でやろう!
林業の活性化に、間伐材で割り箸を作ろう!
間伐材で、人に優しい高齢者施設をつくろう!
という風な、ことが考えられますね。
投稿: しゃべり過ぎ爺 | 2012/03/08 22:42
古代インド人も、余生は林の中で過ごしたのでしょうか、林住期とはよい言葉を作った。
私も、林住期を生きるための森の中の家を確保しなくちゃいけないなあ。
投稿: 田中淳夫 | 2012/03/09 00:09
森林・里山が高齢者の林住期の場となる。いいですね^^
個人的には、ケアの場というだけではなく、エンパワーメントの場として機能するようにできればいいなあ・・と考えたりしています。
高齢者が元気になって、いろんなことで活躍できる場。その結果、ケアに精一杯になる周囲の活力が取り戻せて、別のエネルギーとして活用される。そこに森林・里山が介在する。
なーんて、簡単に書きましたけれど、そういう感じで何か出来たらいいんですが^^;
投稿: あさだです。 | 2012/03/09 00:27
緑を求めて林住期の人たちがやってくる。地方にとって、財をもたらす消費者となるか?医療福祉で公共財を食い荒らす浪費者となるか?はたまたもっと別の存在となるか?!施策しだいですかねえ。
投稿: samiya | 2012/03/09 00:36
田中さんのお仕事ますます増えるんです(^^)
「仕事? もう要らないよ~」
これをいうと・・・
ますます~
私も森をもち家を確保するようにします。
投稿: 岩井拓実 | 2012/03/09 05:44
高齢者、森へ向かう。
森のコビトの生活にも変化が起こるんですなあ。
投稿: 熊(♀) | 2012/03/09 08:53
責任と呪縛から解放されて自由に生きる時期「林住期」。
体が不自由になり、介護が必要なのは、「遊行期」というらしいので、それまでの心身ともに自由な時期が人生の黄金期ですね。
もともと五木寛之が言い出し、本のタイトルにもなったのだけど、「林住」という概念をもっと現実社会お落とし込めたらと思います。それが里山の地域づくりにつながる。
おそらく医療と経済活動の融合が必要かと。
ああ、コビトも必要です(~_~;)。
投稿: 田中淳夫 | 2012/03/09 10:48
「林住期」いい言葉!
長野県の飯田市に行った時に屋根にサンタクロースが入れる様なエントツが出てる家が沢山あったんで、地元の人に聞いたら「都会から移住してきた人たちの家です。みんな定年して年金生活者(高齢者ではありません)です」って教えてくれました。
「年金=税金=都会のお金」が飯田市に落ちるんで助かってます」とも言ってました。
「林住」ではないですが「臨林住」ですかね・・・
投稿: 建具屋・都築@三河湾岸です | 2012/03/09 20:18
年金=税金ではありませんが、有り難いお金ですなあ。どうせなら住民票移してもらえば、もっとお金が落ちる。
林住は臨終ではなくて、介護が必要になる前の体も心もお金も自由になる時期です。いわばアラウンド林住の人をいかに取り込むか……。
投稿: 田中淳夫 | 2012/03/09 22:20