「バイオマス本当の話」書評
近年、世間では何かと話題なバイオマス・エネルギー。とくに昨年から原発事故を受けて注目されている再生エネルギーの主力がバイオマス・エネルギーである。なかでも木質バイオマスが主力だ。
そこで、バイオマス本当の話 泊みゆき著 築地書館刊を読んだ。
著者は、NPO法人バイオマス産業社会ネットワークの理事長。早くから独立した立場でバイオマスエネルギーについて論じてきた。
本書も、それらを集大成したかのような、最新のバイオマス事情をレポートしたものだ。
著者の立場としては、本質はバイオマスの推進側だろう。だが、本書は世間にあふれる推進論者の期待を打ち破り、過熱気味のバイオマスに水をかけてむやみな炎を抑えようとしているようだ。
のっけから「よいバイオマス、悪いバイオマス」の例が続き、バイオマスエネルギーが石油より環境に悪いこともあるとか、使い物にならないバイオマス発電、液化やガス化バイオマス、さらに1000億円をどぶに捨てた「バイオマス・ニッポン総合戦略」を紹介する。
そして、木質バイオマスを軌道に乗せるためには、林業の振興が必要なことを指摘する。決して、バイオマスで林業振興……などと本末転倒なことは主張していない。
……実は、私も、バイオマス産業社会ネットワークが主催したシンポジウムに呼ばれて、林業問題を語ったことがあり、その要素も本書には取り入れられている。だからゲラ段階で目を通している(笑)。
そして日本の林業のダメなわけから、木材自給率の低い理由なども触れているよ。
私も、これまでバイオマスエネルギーに関して否定的なことを書き続けてきた。とくに木質ペレットを日本林業3大愚策に認定(~_~;)したもんで、結構な反発を受けたものだ。なぜか、木質ペレットにはカルトな信者がいるのだなあ。
が、冷静に論じたら、当然行き着く結論なのである。本書でも、東日本大震災の木質ガレキ処理にバイオマス発電所を建設する政策に釘をさしている。ガレキは数年でなくなり、その後林地残材を使う……という計画の危険性を指摘する。
そもそも地球温暖化防止の観点からバイオマスを推進するのは無理がある。本当の意味で、カーボン・ニュートラルなのかさえ怪しい。
一方で、被災地の薪ビジネスにも目を向ける。身の丈にあったバイオマス利用が求められているのだ。
おおむね見解は私と同じである。今後、バイオマスエネルギーを語る際には、本書で提起された問題点を抑えつつ、展開してもらいたいものだ。
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コラム「持続可能性とは」を読んでみたい~
定価1890円に説得力を予感します。
投稿: 岩井拓実 | 2012/03/03 04:47
私は、薪ボイラーの紹介の中で、丸太をそのまま燃やす(直径30㎝×2m)菱野温泉を訪ねてみたい、と思いましたよ(^o^)。
お好みの情報が詰まっています。
投稿: 田中淳夫 | 2012/03/03 09:22