中林作業と産米林
古い林業書を読むと、いろいろ面白い言葉が出てくる。
たとえば「中林作業」を知っているだろうか。これは戦前でも「古い言葉」として登場するところを見ると、早くに廃れたのだろうが、ようは高木と低木を混ぜ、薪炭用の森づくりと、用材用の森づくりを兼ねたものらしい。
具体的な作業はわかりにくいのだが、どうやらスギ・ヒノキとコナラ・クヌギなどが混ざっており、高木は用材用で、ナラ類は中程度の樹高の木に育てるらしい。そして萌芽更新を行わせる。
この作業の理屈はドイツから持ちこれまたようだが、戦前の日本は、薪炭利用が少なからずあったことから、用材ばかりを育てる林業は好まれなかった事情があるのだろう。日々の薪炭利用が求められるうえに、用材だと収穫に時間がかかる。山が広くてすっきりと区別できればよいが、そうではないところでは、1カ所の山に両方の役割を担わせたのではないか。
そして、中林作業はフランス林業では中核だったそうだ。そういや、例の養蜂官やドングリ森などもフランスだから、もともとフランスの林業では、用材生産よりも森林の多様な生産物を求める傾向にあったのかもしれない。
もちろん欠点も多くて、どっちつかずの生産物になるだろうが、小規模・自給用の森林利用ならよいのだろう。
写真は、クヌギの台木仕立。
主に炭焼き用に伐採しては萌芽更新をくり返して成立した樹形だ。
と、ここで思い出すのが、産米林である。これは、インドシナ半島の北部タイからラオスにかけての地域にある森林のことだ。もともと森林区分の土地なのに、現地にいったら水田になっていた……ということから日本の研究者(高谷浩一ら)が産米林と名付けたのだ。
もちろん、単に土地の行政区分だけではなく、現実に水田の中に木々が林立しており、森としての機能も果たしている。水田開発の際に残して保護した木もあれば、人が植栽した木もある。自然と入り込んだ種もあるそうだ。
ただ、多くが用材のほか果樹や葉などをを利用している。食用、薪炭、薬種など幅広い。木があれば日陰ができるなど農業的には不利な面もあるだろうが、落ち葉の肥料化など好影響もありえる。農作業の合間に日陰で休むこともできるし、ここに野生動物も集まってくる。(それを収穫するなどもしただろう。)
http://www1.gifu-u.ac.jp/~miya/tree&rice/treericeopen.htm
ある意味、見事なアグロフォレストリーだ。熱帯アジアでは、焼畑のような時間だけでなく、空間的にも棲み分ける形の農林混合形態が行われてきたのである。しかも陸稲ではなく水稲であることが、現実的だ。陸稲では、需要が少ないから。
ただ、よく考えると日本だって、昔の里山は結構農地の中に樹林が生えていた気がする。
たいてい、こうした木の元には塚があったり、石仏が祀っていたりする。宗教的にも守られた木々なのだろう。
産米林の場合は、シロアリの巣(塚)の上に木を生やしたり苗床をつくるなどしているらしいが……。水田と同じレベルでは水位が高すぎて育たないからだろうか。
ただ、近年は灌漑農業が広げて米づくりに専念して収穫量を増やすことを願ったり、自給自足の必要性が薄れて、樹林帯を残す産米林は消えつつある。
中林作業も、産米林も、時代の波に飲み込まれたわけだが、中小規模の林業地では用材生産だけでは成り立たないという世界的な傾向の中、改めて注目する必要はないだろうか。
日本でも、C材D材はバイオマスにするという流れが定着したら、用材生産林(つまり、通常の人工林)で、薪生産を復活させることも考えるべきかもしれない。
あるいは里山の中に、農業ほど手間のかからない薪生産を組み合わせると、棚田も守りやすくなるかもしれない。どうせ米も安値だし減反までしているのだから、収穫量が減ると心配する必要はないだろう。
温故知新。古木を訪ねて新し木を知る(°o °;)。
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うちにも、コナラと桧の混交林有ります。
これも中林施業なのでしょうか?
うちの辺りでもその昔、雑木の中に杉桧を植林し、後に雑木を伐るという施業があったと聞いているのですが、ここはおそらく、何らかの理由で雑木を伐り損ねたのかなと思っています。
コナラが上木になってるので、80~100年くらいの桧なのですが、柱口になるかならんかの状態です。
うちの場合は薪ではなく、シイタケ原木だったのかななどとも思っているのですが。
もしカシノナガキクイムシが入ってきたら、そこは桧の銘木山になるのではなどと不謹慎なことも。
・・・イカンイカン!!
投稿: まなご | 2012/06/08 22:46
ほお。もしかして珍しいかも。コナラの方が大きくなったのなら、中林作業としては成功していないのかもしれないけれど、用材とシイタケ原木生産の両方を兼ねていたのなら、意味あるでしょうね。
コナラが枯れなくてもヒノキは銘木になっているんじゃないですか(笑)。
投稿: 田中淳夫 | 2012/06/08 23:07