このままスイスに関しては、無駄な思い出話に終始したら、皆さん怒りだすだろうか、なんて考えてしまった(^^;)。
ま、じわじわ執筆しようと思っているのだが、あんまり引っ張るのもナンなので、初っぱなにハイライトを。
それはエメンタールの択伐林(プレンターワルト)である。英語では、The Emmental Farm Forestとなっている。メーラーの唱えた恒続林の一種でもあるだろう。
ここでメーラーの「もっとも美しき森は、またもっとも収穫多き森である」という言葉を思い出そう。
この森林は、ベルン州の高地エメンタール地方の約20万ヘクタールの森だ。スイスでは降水量の多い土地でもあり、もともと植物の生育のよい土地のようだが、かつては一斉造林と過剰伐採が行われ荒れていたそうである。それを1904年に択伐施業に転換する。(現地で説明してくれたフォレスターによると、1905年)
ここで択伐施業というのは、いわば天然林施業である。人が手を加えつつ、もっとも自然な状態の森を作る施業と思えばいいだろう。一斉林とは対局の多様性の高い森づくりをめざし、樹木草木動物などのバランスを重視する。伐採は択伐で少量ずつ行うので、日本には択伐施業林として伝わった。
それはまるで天然林のごとくの林相をしているので、戦前視察した日本人は、これぞ最高の林業だと絶賛した。
その点については、「スイス林業は世界一?」の項目でも書いたが、スイス全域ではなく、幾つかの地域で行われていたものだった。ただ視察者にとっては、やはり感激ものであったようだ。
私は今から約70年前の記録を読んでから視察に臨んだわけだが、案内してくださった郡のフォレスターの説明が、戦前のものと結構似通っていたので、感心? してしまった。基本的な択伐施業の方法は変わっていないのである。
……と書きつつ、その技術については割愛(^o^)。
幾箇所か森の中を案内されて、現在択伐を進めて生物多様性を高めようとしているところと、ほぼ完成した状態のところなどを見せていただいた。

モミとトウヒが優占する森である。ブナもある。この3種が大半。
……残念ながら、森としては感激しなかった。美しいとは思えなかった。
もちろん、見た目はほぼ天然林である。これを人の手でつくり上げたのか、という思いは持てた。

こんな切り株もあり、まったく人の手を入れないのではなく、択伐として人の関与があり、木材を収穫しつつ、こんな森づくりができる、という意味の感心もした。
だけど、森としては、そんなに美しいとは感じなかった。これは個人的感想であることは言うまでもないが、日本の森、さらには熱帯の森を見てきて、そこにあふれる生物多様性を目にした眼には、全然多様性を感じなかったのである。いや、貧弱にさえ感じた。
やはり樹木の大半がモミ、トウヒ、ブナしかないということが大きい。灌木だってそんなになかった。草は? よくわからないが、日本の雑草とは大違いの品行方正さ(笑)を感じた。
なぜ、そんなに多様性が低いのか?
これは当たり前なのだ。だって、スイスには、いやヨーロッパにはそんなに植物の種数は多くないからである。
聞いたところ、スイス全土で高木樹木の種類は26種類しかないのだ! ヨーロッパ全土に広げても、せいぜい100種くらいか。低木を加えても、そんなに増えない。せいぜい2倍くらいかなあ。草本も似たようなものだろう。
これは、ヨーロッパが氷河に覆われて、多くが絶滅したからだ。温暖期に入っても、アルプスに阻まれて、南下した植物は十分に北上できなかった。
これって、日本の10分の1以下だろう。日本では、樹木と言えば1000種以上あるのが当たり前だ。低木、草本を加えたら数千種。熱帯アジアならそれがまた10倍以上に膨れ上がる。そんな多様性は、ヨーロッパ、スイスでは望むべくもないのである。
むしろ日本の人工林なら、かつてスギとヒノキを混植していたし、すぐに広葉樹が侵入するから似た森があるように思う。
だが、フォレスターの説明を聞いていると、この森の意義は、まったく違うところにあることに気づく。恒続林は美しい、という思い込みを崩されるのである。
以下、またいつか(^o^)
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