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森と林業の本

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2012/07/06

スイスの施業理論

林業技術には触れない、それは有料だ、と序章では書いたのだが、少しだけ。

ある森に案内されて、「この森を皆さんならどのように育てる?」と質問を投げかけられた。

これは、森づくりの考え方と、そのために行う施業(具体的には、どの木を伐って、どの木を残すか)を問われたのである。

視察メンバーには林業関係者も多いのだから、みんなそれぞれ考えただろう。

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この森は、高く売れるカエデの大木のほか、タモがよく生えていた。

通常、日本人なら育ちの悪い木を伐ることを考える。つまり「この木は生長が悪い、この木は曲がっていて材にならない」などと劣勢木間伐の発想だ。劣っているものを除き、優れているものを残す(より伸ばす)、という弱肉強食的な考え方と言ってもよいかもしれない。

私は、これこそ戦後に広がった切り捨て間伐作業が残した弊害ではないか、と思っているのだが…。

ここで細かな成り行きは飛ばして、フォレスターの示した方法を紹介する。

まず、将来大きく育てて金になると睨んだ木を選ぶ。

次に、その将来木の生長を邪魔しそうな木を選んで伐る、というものだ。ただ簡単に「邪魔しそうな木」を選ぶのではない。たとえば樹冠の広がりや根圏の広がりを調べて、光や栄養素の奪い合いしそうな木を見つける。また斜面の方向などがら水系も読んで、水分量を推測して取り合いにならないかも考える。もちろん土質も重要だし、林道からの距離も考える。

こうした点から択伐するのだ。将来木施業である。

ただしフォレスターは、これは自分が考えた選択であって、正しいかどうかはわからないと念を押した。奥ゆかしいのである。ま、自信タップリだったけど(^o^)。

 
 

 

せっかくだから、私が現地で考えた、私なりの施業方法を。

私は、実は全然違う発想を持っていた。というのは、私は優勢木間伐理論(俗に言うなすび伐り)に惹かれているからだ。

劣勢木を伐る必要はない。なぜなら被圧されているか、遺伝子的に劣勢な木は、放置してもどうせ伸びないし枯れる可能性が高い。そんな木を労力かけて伐る必要はないと思っているのだ。
むしろ現時点でもっとも高く売れる木を先に伐るべきではないか。その木は、来年になると樹病や害虫、獣にやられて売り物にならなくなるかもしれない。あるいは風害で倒れるかもしれないのだから。高く売れる時に売る、というのが林業的に王道のような気がする。

そして、優勢木の近くにあって、被圧されていた劣性木を、優勢木を除くことで大きく伸ばしてやりたい。もしかしたら、その木は将来の優勢木になる可能性を秘めているから。
これはリスク管理や先の読めない経済動向を含めて、今ある潜在的利益を早く手にして利益を確定させ、時間を武器に低質物を高品質に変わる可能性を追求する理論である。

……いじめっこを退治して、解放されたいじめられっこが持っている隠れた才能を開花させる理論かもしれない(⌒ー⌒)。

もちろん、こうした施業理論は森林の条件だけでなく、そこには各人各様の理念や経験、人生観までが大きく関係してくる。どれが正しいとか間違っているかなんて決まっていないのは言うまでもない。答が出るのは何年も先だ。

さて、皆さんはどの理論を取り入れる?

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コメント

今日の内容まさに今、勉強中のことです
結局すぐに答えの出ることではないですね…
自分がこうだと自信を持って言える信念がほしいです(^-^;

この木を伐ると、残された木はどのように生長するか想像するのは、なかなか面白いですね。家庭菜園でも、どれを間引きしてどの野菜を大きく育てるか考えるときは、結構わくわくする。

技術の前に、どんな森を作りたいか心に描けることかな?

私も田中さんのおっしゃる通り、昔の林業地ではそうしていたようですが、優勢な売れる木をまず伐採する「なすび伐り」がいいと思います。
売れる木から伐採することで、いままで日陰になっていた被圧されていた木が大きく育ち、何年か後にはお金になる木に育つと考えます。つまり、次々に木を育てるわけですから経済的にも有利ですね。

一体全体、いまの間伐法である「優勢木を残して劣勢木を伐採する」というのはいつ頃から言われ始めたのでしょうか?
お教え下さいませんか。

除伐レベルと収穫レベルに至っている一斉人工植林の単層林の違いなのかもしれないと思いました。

スイスのフォレスターさんが示された「将来木施業」は
元信州大学教授 島崎洋路先生の「保残木マーク法」と似ていますね^^

基本は「保残木マーク法」と一緒ですが、もともと各地に同じような施業法はあったようです。それが消えて行ったのは、やはり戦後でしょう。

劣勢木間伐が主流になったのは、林野庁主導で大造林が行われて、林業技術が十分にない地域に画一的な育林方法が広げたからではないかと想像しているんですがね。

そういう意味でも、森林経営計画で林分を見ながら施業をすることは計画地全部ではなくても、大切なことですね。

劣勢木間伐は無駄な労力と経費の無駄遣いでしょう。素人受けする見た目の良さだけがまかり通っている風潮はなんとかしてもらいたいです。
「将来の木」施業という言葉は、ドイツ語の翻訳の誤りで、ドイツでは「選定木」が正解のようですし、いずれにしても「なすび伐り」による齢級の平準化に向かうべきでしょう。

翻訳の誤りですか。でも、「将来木」の方がイメージわきますね(^o^)。

間伐理論はさまざまなので、何を正解とするのか難しいですが、林業用の森を見映えだけで扱ったら、労力の無駄になりかねませんね。

 フォレスターの施業案、田中様の施業案、共に興味深く感じます。「私だったらどうしようか」などと考えると、わくわくしてきたりもしますね。
 ただ、個人的に気になっていることがあります。ナスビ伐り、上層間伐、全層間伐の3種の比較試験区を設定したスギの固定試験地の調査を継続中です。現在約100年生、調査開始は30年生頃だったかと思います。平均傾斜は約45度。
 非常に気になるのは残存木の根元の傷(恐らく腐朽も)です。一番玉、物によっては二番玉相当の高さまで。もちろん伐倒・搬出技術の優劣が大きく影響していることは確かだと思います。しかし、残存木の損傷割合は全層間伐区で小さく、上層間伐区、ナスビ伐り区の順に大きくなっています。伐倒する個体が大きい程、将来木となる下層木に与えるダメージが大きいことが原因の一つでは無いかと考え、現在、解析を進めています。
 それから、ナスビ伐りの場合伐期に至るまでの総収穫量が全層間伐に比べて小さくなります。もちろん、収穫は材積だけで無く材質、径級分布も含めて評価する必要があります。
 ごく限られた試験地でのデータに過ぎませんが、ナスビ伐りに関してちょうど気になっていたところでしたので、コメントさせて頂きました。

研究されているのですか。ぜひ専門的なご意見をうかがいたいものです。

残存木への傷は気になるところです。昔は(傷つくのは)たいした割合ではないと楽観視されていたようですが、最近はわずかな傷でも腐朽菌が入って、材が使い物にならなくなるケースも少なくないという報告が……。択伐技術そのものの研究が必要かもしれない。

ナスビ伐りの総収穫量が小さいというのは初めて聞きました。大きな木を除いたら、残りの生長はよくなる気がしていたのですが。

樹木にも寿命と高く販売できる径級があります。将来木もいつかは伐採するわけで、それが今なら伐るべきです。広葉樹の価格は径が60cmを越えて急のあがるそうで、その樹冠は100㎡を占めha当たり100本。
 だので、広葉樹の間伐は100本の将来木の成長を阻害競合する上層木の中から価格の低い樹種、形質不良木から除くと聞いています。
 中下層木は将来木の候補であり、広葉樹の形質保持と休眠芽の目覚め防止から著しく見込みの無いのを除き残すようにとも。上記の条件からはいずれが正しいかは判断でしません。

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