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2012/07/04

植林木の巨樹に対する眼

少しスイスから離れるが、これは昨日のエントリーを受けたものである。

ちょうど今月のグリーンパワー誌の「大樹悠々」に鳥取県智頭町の「慶長杉」が紹介されている。(執筆者は林政ジャーナリストの井原俊一)

慶長杉は、日本最古の植林木とされている。現在26本が残され、幹周り4m超えのものもある。西暦1600年に植えられたと伝えられることから樹齢410年を超えていることになる。戦後間もなく強風で倒れた木の年輪が335本だったというから、それに合わせると今年で402年になる。
秋田杉や梁瀬杉、吉野杉でも300年ほどだから突出して古い、と記す。

ちょっと、それはどうかな。吉野(川上村下多古村有林 )には、「歴史の証人」と名付けられた古い植林木が保存されているが、そのうちの少なくても3本は樹齢400年前後のはず。ほかにも250年以上のスギやヒノキが数十本残る。そして、こちらも「日本最古の人工林」を名乗っているのだ(^^;)。吉野の最初期に植林された地域を保存するために村が購入したという。

 

2

これが、「歴史の証人」の1本。胸高直径1,6メートルもある。


ま、どちらが古いかなんてことはどうでもよい。植えた時期を競うだけなら、神社仏閣にもっと古い木があるかもしれない。

ただ慶長杉の所有者である石谷家では、「伐らずが肥え」という言葉が伝えられていたそうだ。つまり伐るな、伐らねば木は太る、という意味だが、これを真正面から捉えると、林業を放棄している。ある種、記念樹である。

ところが、「歴史の証人」は、少し前(と言っても、今から10年近くになるか)に4本伐採している。それも保存のために林地を購入した村の主導だ。

私が「勇気あることしますねえ」と担当者にいうと、「林冠が塞がっていましたからな。あのままでは共倒れになります」と事も無げに言った。

口の悪い県職員は、「お金になるからでしょう」と言ったが……たしかにあれほどの大木ならば材価低迷の時代でもかなりの値がついただろうが……それは後づけの理由だ。大木が密集した場合、十分に考慮しないとお互いが殺し合うこともある。それを見極めねはならない。

が、私が感心したのは、たとえそうであっても「保存」のため、「歴史の証人」と名まで付けた木を抜き伐りする判断した勇気である。世間的には、そんな木を伐ったら世間から非難されかねないと嫌がるものだ。

おそらく我こそは吉野林業の担い手、という意識の高い川上村の人間として、伐るべきは伐る、ということに迷いはなかったのだろう。

そこで、改めてスイス・エメンタールの森を振り返るのだが、こちらも林冠を重視していた。

1
これは、エメンタールの森の林冠。結構、空いている。

決して、林冠を閉鎖させてはいけないのだそうだ。

閉鎖すると、林床に光が入らななくなり、それは次世代の木々を育たなくする。そして上層木も育つ余地を失う。それではいけないので、択伐を行う。

限りなく天然林に近い森にすると同時に、林木の生産を行える森にすることが目的なのだ。そのために人が手を加える……これがスイス林業の近自然森づくりだろうか。

巨木ばかり育ててはダメというフォレスターの意見も、吉野林業の発想を思い出すことで理解できる気がした。

長く生かすと天災リスクも増す。また太い樹木は生長量が鈍るという点でも、合理的ではない。価格も、かけた時間に比例するほど高まるかどうかはわからない。

林業の眼。市民の眼。巨木は、双方から睨まれている。

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コメント

大きな木には圧倒されることもあります。
でも、安心するときもあります。
あまり見慣れていないからでしょうか。

考えてみれば、スギヒノキの育成単層林の直材しか見ていないですから・・・。普段は。

巨木というのは、老齢木でもあります。
単なる大きさではなく、その生きた年月を想像するから圧倒される。老齢ゆえに包み込む安心感が湧く……。

日本人もスイス人も、やっぱり巨木は好きというのは、そんな感情を大切にするからだと思いますよ。理論的には、巨木がたくさんありすぎるのは困るのだけどね。高齢化社会も困るように……。

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