なぜバイオマス発電を推進するか
最近、FITもあって木質バイオマス発電に動きが急だ。
それについての考察は別として、前々から言っているように、なぜバイオマス「発電」なのか、ということについて考えてみた。なぜ熱利用ではなく、発電を求めるのか(FIT自体が、発電用のエネルギーを前提にしている)。
発電を推進する記事が目立つが、答の一つとして日経ビジネスオンラインの「バイオマス発電は林業再生の切り札」という記事にある。
「バイオマスの熱利用や地域の循環的な利用ができれば、もちろん望ましいが、まだこれから検討される段階であり、インフラ整備も必要となる。一方、電力はネットワークが整備されており、コストはともかく事業体制を整えやすい。」
それはそうだろう。しかし、それ以前より熱利用に対する熱意のなさを感じるのだ。
私なりの考察として、まず日本は基本的に温暖て、熱利用の期間が短いことがあるだろう。暖房がいるのは関東以南なら12月~3月の4か月くらいだ。温水も、大きな施設でなければ、あまり大量に使わない。
もっとも、ならば東北や北海道なら可能性があるわけだ。半年以上は暖房がいる地域はおそらく少なくない。
ここでは、別の心理的なことを考えてみた。
それは私がNPOの行ったバイオマスの研究実験プロジェクトに参加した経験で感じたことだ。
そのプロジェクトは、薪を燃やして温水をつくりつつ(つまりボイラー)、スターリングエンジンによる発電をもくろんだものだ。もちろんスターリングエンジン自体が未完成の技術ではあるが、そこに挑戦することに夢を感じたのである。
実際、スタートする際に、なぜ発電なのか、スターリングエンジンなのか、という議論じみたこともあったのだが、そこでは「熱利用だけでは夢がない」ことが語られた。NPOとして挑戦するのだから、新しいことに取り組みたいわけである。もちろん補助金を使うのではあるが。
この心理、それなりに理解できるが、実は行政マンも同じことを考えているような気がした。
NPOなら実験で済むが、自治体は税金を使うゆえ実用性を重んじるべきだと思うのだが、むしろ反対の作用が働いている。税金だから実験的に使ってもいいや、というような。
議会を通すにも、新しさが求められるのかもしれないが、担当者が、(使うのは税金だし)派手なことをやりたいと思っているような雰囲気が感じられる。温水だけなら、パッとしないので、自分の業績にならないし、予算を通しにくい…。
私が自治体のバイオマス計画に触れると、どう見ても赤字間違いなしのバイオマス発電計画が目白押しなのである。不思議と、普段は臆病な上に臆病に前例を重んじるのに、こういうときは夢をおいかけるのだ。
しかし担当者は数年でいなくなるが、赤字はずっと続く。夢ばかりでは困る。
こんなところは、もっと臆病に、保守的で硬い計画であってほしい。
ちなみに、奈良県は調査だけして実用化を保留した。ここでは新しもの嫌いの保守的な風土がプラスに働いたのかもしれない。
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田中さんのご意見には大いに賛成です。ただ、参考にされたNPOの取り組みと、今話題になっている?バイオマス発電は規模が全く違うので目指す社会像も全く違います。NPOの取り組みは農山村でのエネルギー自給のレベルであって、インフラレベルではありません。私も、木質バイオマスで従来思考の電力網を作ることは、「全く馬鹿げている」と思います。
ただ、スターリングエンジンでの発電もなかなか進展しないので、夢は継続させても当面は動力機器としての利用を考えています。(微笑か苦笑)
投稿: 大塚憲昭 | 2012/08/17 22:44
わはは。上記NPOの方が登場してくださいました(苦笑)。
もちろん自給レベルとしての実験と、自治体行政が行う実用化施設は違います。自治体がつくると赤字垂れ流しながら継続してしまいますからね。
スターリングエンジンの現実がわかった実験でもありましたね。
投稿: 田中淳夫 | 2012/08/17 23:05
日本人は風呂(湯船)に入る文化があるので、地域に関係なく、家計に占める燃料費のうちの入浴費用、つまり一人当たりの熱利用は大きいと思います
日本は人口密度が高いのでヨーロッパのようにスチームパイプを巡らすのが効率的な筈で、都会では電車やバスが発達しているので車は不要になっている点はヨーロッパと共通しています
想像ですが、戦後の日本の都市計画が、モータリゼーションと電気製品の利用を前提としたアメリカ流を取り入れたからではないでしょうか
そして社会インフラはいったん出来てしまうと、全部を敷き直すのはコストがとても高いので変更できない、というのは当然と思います
投稿: か | 2012/08/18 02:24
風呂の湯となると、やっぱり公共温泉をつくろう…というのが行政の発想になりがちでしょうか。
各戸にインフラを整備するのは大変なので、既存の住宅地ではなく、ニュータウンなどの造成時に、バイオマスによる温水供給を組み込んでしまえばいいと思うんですね。郊外のニュータウンならバイオマスを得やすいかもしれない。
あるいは都市の中の再開発地区。そこにゴミ焼却場による温水と発電も供給する形にできないか。ゴミ焼却場を建設するのは反対運動が多いけど、周辺の集合住宅に無料の暖房と電力を供給すると言えば、反対はなくなると思うな。
投稿: 田中淳夫 | 2012/08/19 00:33
投稿: | 2012/10/30 11:03