書評『日本林業を立て直す』
このところ、結構な量の森林林業関係の本を購入している。……のだが、読むのが追いつかない。
それでも、昨日の林業大学校への往復時間なども費やして、ようやく速水亨著の『日本林業を立て直す』(日本経済新聞社)を読み終えた。
すると、今日になって日本経済新聞社から『日本林業を立て直す』を贈呈されてきた(;´д`)。
も、もう少し早くしてよお……と、贅沢なことを書いてはいけません。感謝、感謝。
そこで、速攻で紹介しよう。本当は、時間をかけて咀嚼すべきなのだが。。。
速水亨氏は、ご存じの方も多いだろうが、三重県の速水林業の総帥にして、日本林業経営者協会会長。林業界のオピニオンリーダーだ。何より、9代続く林家であり先進的な経営で知られ、国内初のFSCを初めとする新たな取り組みをいくつも行ってきた。
私が初めて会ったのは、何の取材だったか。1998年のISO14000やFSCについてかもしれない。ともかく、常に林業界の最新の情報を提供していただいたし、また俯瞰的な視点を与えてくれた。ともすれば目の前の森の中の1本の木ばかりを見てしまいがちな林業界にとって、鳥の目で地球上の森を見渡す広角な視界を持っている人である。
肝心の本だが、まさに彼の経験から通した林業観が満載。スタートがアラスカで、次は江戸時代から続く速水家。元は漁師だったらしい。海から山へ、である。そして日本の森林事情やヨーロッパの森にも話は飛ぶ。もちろん速水林業が取り組んできた試みの紹介もある。
現状に絞って見ると、森林林業再生プランには、期待しているらしい。が、その弱点・欠点も指摘している。育林に関した制度に穴があるうえ、養成にやっきになっているフォレスター制度も機能しないことを見越している。
そして小さな林家には「今の政府は、楽しみで林業やる人には補助金を出そうとしませんよ」と言いつつ、「楽しみのための」自伐林家を残したいと思うアンビバレンツ?な心情を吐露する。
現在起きている材価の値崩れには、さすがに困っている様子だが、基本的には量を意識した国の森林林業再生プランとは別に、地域のニッチな市場を大切にすべきであるとする。
いくつか新たな動きと共に現状を打破するための提案をしている。一つは、速水氏自身が立ち上げたフォレストック認定(わざと難しく解説すると、森林の多面的機能を内部経済化する仕組み^^;)制度もあるが、私は「違法伐採材の追放」に興味がある。
世界中には、違法伐採による木材が出回っている。一見、政府の証明書がついていても、まったく信頼できないものも多い。日本の輸入材の2割は、違法木材の可能性があるそうだ。
これを完全に追放し、海外にも持続的林業による木材を要求すれば、単に森林を守るだけでなく、安価な木材の追放にもなる。そして材価を引き上げることになるだろう。材価を持ち直しつつ、環境保全につながり、フェア・トレードを支援することにもなる。
ただし、日本の木材業界は反対するに違いない。安い外材が手に入らないだけでなく、国産材も通用しないからだ。
実は国産材も、現在付けられている「合法証明」は国際的には通用しないものだという。なぜなら木材業界が認証に参加しているからで、認証は第三者でなければならず、当事者の認証は意味を成さないのだ。また再造林しない林業地も問題となる。さらに言えば、単に法律違反でなければよいのか(脱法的な伐採も多い)。だから、まずは国内の改革から取り組まねばならないだろう。
それでも、やる価値はある。日本の林業界は世界的に見ても遅れている(欧米だけでなく、発展途上国よりも)が、挽回のチャンスが訪れるに違いない。
……なんてことを考えてしまった。森林について様々な思索を提起する書である。
なおサイドバーにもリンクしました。
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