書評『森林の江戸学』
書評シリーズ? 第三弾は、
森林の江戸学 徳川林政史研究所編 東京堂出版刊
実は、3冊の中でもっとも早く購入していた。が、完全に全項目を読み切ったわけではないので書きそびれていた(~_~;)。
ただ、この手の本は、最初から最後まで通して読むというよりは、各分野を拾い読む方法でもよいのではないかと思う。
内容的には、概説編と基礎知識編に分かれており、とくに後者は、「日本の森林」「森林の保全と育成」「伐木と運材」「流通と市場」……「村の生活と森林」といったように項目別で、さらに細かく分かれ、筆者も各々違う。
気に入ったのは(気になったのは)、タイトルだ。(江戸の)森林学ではなく江戸学で、それを森林、主に林業から見る趣向である。これは、私が思案している「森林から見たニッポン」と同じ視点である。
ただ具体的には、江戸と言っても、町としての江戸はあまり出てこず、江戸時代の社会全般に触れているわけではない。やはり江戸時代の森林学なのかもしれない。実際、前書きには、「環境問題までも見据えた森林管理、活用の歴史」を描いたとある。
概説編で触れられるのは、やはり森林荒廃だ。いかに乱伐が山を荒らしたのか……。これは今回の3冊に共通する認識である。
江戸期の過伐による禿山化と、一転保護に向かう転換が描かれ、また伐採・運材の技術進歩も取り上げている。そして最後は、明治になってからの近代林政へとつながっていく。一方で、現代の林野庁が仕掛けた拡大造林策などにも触れている。
江戸時代の森林政策の変遷を、次のように語る。最初の百年は新しい国づくりの過程で、無秩序に乱伐し、次の100年で利用を抑制しつつ人工造林で資源を増やすことを試み、最後の100年で森林の保続と活用のバランスを考えた時期、と。
そして明治になると、また新しい国づくりを行うために乱伐……。これを援用すると、戦後日本も、新しい国づくりに林業は利用されたのかもしれない。そして、今またバブル崩壊後も……。
そこから浮かび上がるのは、江戸~明治にかけて歩んだ日本の森林の歴史を、今また繰り返しているのではないか、という姿だ。とくに明治維新後の中央集権的政策展開の危険性を示唆している。
ただ、不満もある。
編者は、尾張徳川家が創設した研究所であり、登場するのも木曽林業を中心とした中部から東北にかけての林業地が舞台である。だから、西日本や関東の林業地が手薄な印象を受ける。しかし、林業とは都会の需要と結びついたものであり、大坂・京都、そして江戸の町の巨大な木材需要を外しては、大きな錯誤を生み出さないか。
とくに発達した民間林業を抜きに、領主的林業を中心として論じるのはどうだろう。現在、伝統的林業地として名を残す地域は、民間林業が多いことを考えると片手落ちである。
また用材利用を中心に置いているため、薪などのエネルギー利用に関連した部分が弱い。木炭については多少後半で触れているが、圧倒的に需要があったのは、薪なのだから。
……とまあ、思うところはあるが、いつか第二弾を出してもらうことに期待しよう。歴史的視点から林業を見ることの大切さは伝わってくるよ。
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