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森と林業の本

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2012/09/28

書評『森林飽和』

今更……と思いつつ、少し読み進めた本の紹介を行っていこう。

まずは森林飽和 国土の変貌を考える 太田猛彦著  NHKブックス

著者は、森林水文学や砂防工学の権威。日本森林学会などの会長を務め、林政審議会委員とか委員にも付いている。また現在はFSCジャパン議長。

本書が述べていることは、ひと言で言えば、古代より日本の森林は人為によって変化し続けたということ。とくに里山などは荒れ地そのものだし、海岸の景観などにも影響を与えてきた。明治期までは、日本は禿山だらけだったことも強調している。

ところが戦後は一転、日本の森林は回復してきた。それは林業の衰退とも絡んでいる。そして洪水など水害の減少や海岸の砂浜が姿を消していく理由の一つにもなる。また森林が水を溜めることはない、CO2を吸収することの誤解、などにも触れる。

……こうした論調は、私自身が繰り返し語ってきたことでもあり、さして意外感はない。(私が、太田教授など多くの研究者の成果を知って影響を受けたのである。念のため。)ただ、そのスケールは、想像以上に大きい。森林が日本の国土に与えてきた影響(プラスもマイナスも)は、森林地帯に限らず、様々な環境に広がる。

一方で、さすがは研究者。細部になるほど、と思わせる説明がある。

たとえば降水による表面浸食に関しては、木があるかないかよりも、地面に草が生えているか、落葉層があるかないか、ということが需要であること。木があっても、裸地だったら土壌はえぐられ流亡する。雨粒が裸地に衝突すると、土粒の隙間を埋めて水を吸い込みにくくするクラスト層を作るからである……。

もっと林業的に重要なのは、水害時の流木問題だろう。昨年の水害でも、流木が被害を大きくしたとして、その流木は切り捨て間伐のせいだ、という論が現れたが、それを一刀両断にする。

「流木は、森林が成長している証」「禿山から流木は出ない!」(^o^)。

流出している木の種類と量を調べたところ、上流の天然林(広葉樹)と人工林(植栽木)の面積割合と同じだったという。つまり、人工林だから、切り捨て間伐だから、流木が出るという証拠はないのである。はい、一件落着。

全体として治山・砂防から見た日本史的な面白さも含んでいて、オススメ。最後には、日本の森林政策への提言も書かれている。

※サイドバーに登録。本に興味が湧いたら、クリックして、詳しい内容をチェックしてほしい。

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書評・番組評・反響」カテゴリの記事

コメント

クリックしちゃいました。
いまだに何かのときに、切り捨て間伐のせいだという人がいるもので、
反論はするんですが、理論武装しておかないと!

最近ブログのおかげ(?)で本買うのが増えてます。
この間も奮発して吉野林業全書かってしまった。

このままだと財布がピンチで、田中さんの本でたときに…。

>このままだと財布がピンチで、田中さんの本でたときに…。

あ、それは困る。「森林飽和」キャンセルして、10月に備えてください(笑)。スゴい本、出しますから。

昨日FSC森林認証、FM認証の更新審査が終わりました。
更新審査を控えながらも、
森林異変
日本林業を立て直す
森林飽和
の3冊を再読していました。
更新審査では、体系的に林業を勉強したことのない私にとっては(事務局)かなり厳しい内容の条件付けがされましたが、体系的に林学を学んだことがある林家のオヤジさんを中心に、県AGの協力ももらってこなしたいと考えています。
具体的には、林分調査からRYや成長曲線、一般的な密度管理図を元にするとしても、コレまでの伝統的な施業方法を検証して、この管理森林の明確な施業の目安・指針を作りなさいというものでした。
なかなか施業が思うように進まない現状があり、森林管理を強化しているものの林分は目に見えて変化してきていない(アタリマエのことですが)わけですが、5年経つと少しは目に見えた変化も感じるものです。
とにかく、当面この3冊が私の教科書っぽいものになりそうです。

では、日本中の湖沼や内湾では堆積速度やプランクトンが変化しているのでしょうか?
底泥のコアを分析すれば検証できると思うのですが、そうした知見はご存知でしたら教えていただけないでしょうか

今後、鈴木さんの参考書を増やすお手伝いをしたいと思います(^o^)。

>日本中の湖沼や内湾では堆積速度やプランクトンが変化しているのでしょうか?

そういう可能性もあるでしょうね。でも、比較するための数十年前の試料も必要ですから、研究している人はいるかなあ。

体系的に林学を学んだことがない、私(市町村の職員です)には非常にありがたいご配慮ありがとうございます。助かります。
でも、市町村にも何人かは体系的に学んだ人がいるみたいですね。
その方たちの動きも参考になります。林家、組合、事業体の経験則をと知識の集積体をどう交えていくかも我々市町村職員の業務の1つかもしれません。
市町村職員が成長していくことで、組合や事業体にプレッシャーを掛けられ、林家には自信や思いが増幅できる、そんな気もします。

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