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2012/12/29

人の時間と樹木の時間

森林と人間の関係を考える際に、常に感じるのは、「人の時間」と「樹木の時間」である。

樹木の寿命は、確認されたもので最大5000年を超えている。それに比べて人は、せいぜい100年超。何より人の感覚は秒単位、分単位で動くが、樹木は年単位だ。

この差が、常にネックとなる。とくに近年は人のスピード(なかでも経済社会の変化速度)が増すばかり。だから樹木の時間で動く林業は、常に振り回されてしまう。

単純な話、50年前の高い材価に目が眩み多くの人は植林を進めたのだが、生長した今は材価が暴落している。工業製品なら、工場建設を含めても半年~数年で、なんとか経営者の先読み範囲に入るが(もっとも、最近の日の丸家電メーカーは、それを読み違えて大火傷を負った)、数十年先の社会経済なんて誰も読めるわけがない。

では、どのように対処するべきなのか。……その点についてはいくつかの考察があるのだが、今回は置いておく。

私が気になるのは、林業に携わっている多くの人も、「人の時間」と「樹木の時間」という違いがあることを、肌で感じているのか、本当に理解しているのか、という疑問である。

最近の林業政策や、それに携わる人々は、樹木の時間を無視して、人の都合を訴えているような気がしてならない。
よく口にされる持続的な林業という言葉も、空疎に聞こえる。単に数字で生長量はこれだけで、伐採量がそれ以下なら持続的……という理屈では、樹木の時間を感じているとは言えないだろう。

森林は、時間が育んで成立する。樹木は、木質部の生長だけでできているのではなく、生長の時間の中で微生物から土壌、空気、他の生き物との関係性……など環境全般を育んでいるのだ。

いかに品種改良しても、早生樹種を探し出しても、そうした樹木の時間の持つ世界は、人が代われるものではない。

何も、人間もゆっくり生きよう、という月並みなことを言いたいのではない。

時間を意識することで、人は樹木の時間に合わせていく覚悟を持つべきではないか、と思いついたのだ。人の都合に合わせようと森林をいじくり回してしまうのではなく、樹木の時間を人の生活の中に組み込めるような社会を作り出す可能性はないか。

……なんてことを、年末になって考えるのである。まあ、私も人の時間を半分以上を費やした気がするからね(^o^)。これを来年のテーマにしようかな。

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林業・林産業」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。はじめまして。
今年は「人の時間」と「樹木の時間」を感じた一年でした。
というのも、今年は天然更新にチャレンジをしてみたいと思い、資料を探し山を歩き、可能性を探っているのですが、天然更新が成功したかどうかわかるまで少なくとも10年くらいはかかるかと思うと、試験的に小面積で始めて、軌道にもしのっても、成木を見ずに自分の人生は終わってるだろうな、と思ったためです。ましてや天然更新で多品種の複層林などを作ろうかと思うと気が遠くなりました。
自分が林業を始めるきっかけになった1つに、あるおじいちゃんの山師が、
「あっちの山はついこないだワシが植えたんじゃ~」
「こないだっていつごろですか?」
「ほんの40年くらい前だ~」
今思うと、「樹木の時間」に生きた人でした。

林業の実作業でいい仕事をする人は自然とこの感覚を持っている人が多いと思います。
そういう人は想像力を働かせて、山の将来をイメージして仕事に当たります。
最終的な結果を確認できなくても1年後、5年後、10年後からイメージを膨らませ
自分の形を作っていく、という作業の繰り返しです。
初めから自分の代で結果を求めないという前提でやっていると思います。
自分が想う「良い山」を作る作業が収入に結びつくのが理想なのですが。
個人的には放射能の問題も長期的な時間軸で考えなければいけないという点で
林業と似ていると感じています。
僕は最近、自分の人生を逆算して考えるのをやめました。

木の寿命と人の寿命は、だいたい100年ですな〜。
人は100年であの世ですが、木はまだまだ壮年かな〜。
わしらには、想像力がないもんで100年先は分かりません。

50〜60年生の元気のいい人と木が使い勝手がよろしいな〜。
100年以上経過したら、木も老化して空洞が多くなりますから、あかんです。
適当に切り倒して、使ってやって下さい。わしら、そのほうが嬉しいです。

人工林のスギとヒノキより(笑)

今から天然更新に取り組む人もいるんですね。なんだか流行るといいです(^o^)。

おそらく普段から森と触れ合っている人、林業人などには、「樹木の時間」を体感しているケースが少なくないのではないでしょうか。そして、何十年何百年先を見据えた森づくりが行える。
しかし問題は、経済的な面で何十年先を読める人はいないこと。

でも、近年は森からの利益を度外視せざるを得ない状況になり、それが逆に純粋な「樹木の時間」を感じて森づくりを行えるチャンスになるかもしれない……矛盾していますが。

さらに進むと「海の時間」を体感。
.。。。余談でした。(^^;

古生代の胞子を降らせる巨木の森を通りすぎ、海百合と三葉虫のいる水辺にたどり着き、先カンブリア紀の「海の時間」に溶け込む……(うっとり)

この世界を理解できる人は○山マニアだ\(^o^)/。

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