そこそこの思想~再びカジュアルウッドについて
量の林業を突っ走っている日本の林業・林産業。
そこで「いや、これからは質だ。森づくりも、木材利用も、質を重視すへきだ」なんて言っていると、反論として現れるのが「木材の質を求めたら、昔の役物に行ってしまう。そんなもの今の世の中売れないし、量も出ない。山は、木が余っているのだ」。
そうではないのだ。質のいい木材とは、役物・銘木ではない。珍奇な木肌や木目を売り物にするわけではなく、やたら細かな年輪幅や無節とか、大径木でもない。もちろん超高価な品にもならない。だから森づくりに、かつてのような農作業的・超労働集約な作業も求めない。
ただ、きっちりと森(樹木)が健全に育つ条件を維持してやるだけだ。
そこで、浮かんだのが「そこそこ」という言葉。
品質も価格も、「そこそこいい」を追求すべきではないか。言い換えると、安くはないけど高すぎない、誰も真似のできないような出来を求めるのではなく丁寧で上質な品質。天才作家の作品ではなく、練達の職人が手がけた工芸品のような木材。
実は、現在の消費市場でコアな利益を上げられるのは、この「そこそこいい」商品である。
安売り競争に参加するような品物は、仮に売れても利益が極めて低い。だから薄利多売の数の勝負になってしまう。一方で超高級品は、利益率は高くても大量に売れないから、利益総量は大きくない。
が、そこそこよいものは、利益率が高くて量も「そこそこ」出る。
たとえばペンが必要だとして、安売りで50円のものは書き心地が悪いから人気が出ない。そこそこ書き心地のよい200円のペンを買う。ここが売れ筋だ。その程度の贅沢はする。が、いくら書き心地が最高でも1000円のものは滅多に買わない。このような選択の仕方をするのが、不景気とは言っても、成熟した消費社会の日本人である。
この法則が、木材にも当てはまるのではないか……。
と、ここまで考えて、すでに本ブログで同じようなことを書いていたことを思い出した(~_~;)。
カジュアルウッドという言葉まで、提案していた。
吉野割り箸は、末端レベルで1膳10円~20円するが、それを5~6円にしたら売れた話もある。中国産の1膳1~2円の割り箸よりかなり高いが、高級さを売り物にして10円以上になった既製品よりはるかに安いから……という話題も提供していた。
もう一度、量と品質を見直すべきだろう。しかも木材は情操素材だ。人々の感性を刺激することが大切だ。
結婚式場の飾りつけで、安いからと言って、枯れかけたパンジーやカーネーションを500本1000本と並べても、誰も美しいとは言わない。逆に見すぼらしくなるだろう。かといって、高級なランやバラを1輪だけでも映えない。
しかし品質のよい色とりどりなカーネーションを、100本活けたら会場は引き立つのではないか。
……こんな観点から、カジュアルウッドの木製品が登場することを期待している。
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日本人も一人一人が目も肥えてきましたので、べらぼうに高いものには手を出さなくなってきたと思います。
それなりの値段であれば、いいものであれは売れますから。
田中さんのおっしゃる、そこそこのものというのは合理的な値段であれば、皆が素晴らしいと思う本物の物が求められていますね。
「品質のよい色とりどりなカーネーションを、100本活けたら」とありますが,友人が結婚式のためにわざわざ採集して来た野草等を100本でもいいですね。なにも花屋で買って来た花材がいいとはかぎらない時代ですから。
木材も、いい材質で素敵なデザインであれば職人が作ったものの方がいいと思います。
有名なデザイナーがつくったという事でとても高価な値段がついた物は,売れなくなってきてますね。
投稿: しゃべり杉爺 | 2013/01/16 12:53
野の花を活ける……木材なら天然林や雑木林から伐りだすことだったりして(^^;)。
よい職人の工芸品に例えましたけど、そこにはデザインも当然含まれます。作家的なデザインではなくても、素敵なデザインを生み出さないと。
投稿: 田中淳夫 | 2013/01/17 00:36
なんとなくですけど、
カジュアルウッドの代表格は
割り箸と薪
のような気がします。
消費するし・・・・・。そんな木がしたりしています。
投稿: 鈴木浩之 | 2013/01/17 11:28
鈴木さんへ
おお,いい事言いますね!
「カジュアルウッドの代表格は割り箸と薪」
いいですね〜!
その通りです、といいたいです。
私としては。
投稿: しゃべり杉爺 | 2013/01/17 12:26
積み木もその1つかもしれません。
遊び方は無限だし、造ってから片付けるときの破壊も楽しかったりします。特に、積み上げたときの爽快感は・・・・。
広葉樹の積み木は堅くて重い感じがしますし、スギヒノキの積み木は割と軽くて(かなり軽く感じますけど)、手触りもさらさら感があります(長く使うとテカリ感が出ますけど)。
幼児も児童も大人も一緒に遊べるし、木の積み木(積み木というのですから木が当たり前なんでしょうけれども)の感触を知ると、プラステックの積み木に違和感を持ったりすると思います。
とにかく、遊んで楽しいですから!イケテル・カジュアルウッドの1つだと思ったりします。
投稿: 鈴木浩之 | 2013/01/18 07:52
割り箸と薪と積み木……結構じゃないですか。
ただし、中国産の1膳1円もしない割り箸や、乾燥が十分でない薪、レベルの合っていない積み木は入りません。カジュアルで、高品質でなければ。
投稿: 田中淳夫 | 2013/01/18 10:36
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。
投稿: 初心者の株投資 | 2013/01/20 15:59