『森林飽和』著者インタビュー
日経ビジネスオンラインに、『森林飽和』の著者、太田猛彦氏のインタビューが載っていた。
この本に関しては、本ブログでも紹介した(サイドバー参照)し、出版されて日が経っている。が、各所で書評や評判などを聞くので、結構売れているのだろう。
内容的には、かつて日本は禿山だらけの状態だったのが、今やどこの山も緑がいっぱいで、もはや飽和状態である、ということ。だたインタビュアーは、現在の飽和状態よりも、過去の日本には緑が少なく山は荒れていたことの方に注目しているように読める。
気になるのは、この内容は私も自著で繰り返し書いてきたし、ほかにも触れている本はたくさん出ていることだ。にもかかわらず、それらの本よりはるかに今回の太田氏の著書は話題になっているように思う。以下、羨望と愚痴も含めて、その理由を考えた(笑)。
まず、タイトルに意外感があったのかもしれない。一般の人は、どんどん緑が減っていると感じているようだから。私の本のタイトルも「煽情的」と言われるが、負けたか。 (愚痴)
次に、明治時代の禿山写真が結構多く掲載され、かなり衝撃的であること。このように写真を使えたのは、研究者として手に入れられたおかげだろう。拙著にも載せたかったのだが、個人の力では古写真は手に入らないのだよ……。 (愚痴)
図版も多くて理解を助けているし、タイミング的には震災、水害が相次いだ後の出版だけに、それらのメカニズムを伝えて、読者の納得感を与えた点もプラスに左右しただろう。拙著にそうした要素はなかったなあ。 (愚痴)
出版社(NHKブックス)の売り出し方も力が入っていたか。やはり版元のプッシュがないとなあ。 (羨望)
でも東大名誉教授という肩書も強いよなあ。(愚痴)
が、何より読みやすく、理路整然と読者を引っ張っていく力がある本である。
これはインタビュー内容になるが、林業の問題を捉えて、地下資源を利用する工業とは効率があまりに違う点(さらに農業よりも圧倒的にスパンが長い)を指摘しつつ、
「林業の中にも問題はあります。江戸時代から300年間、日本は木が足りなかったので、木を植えて、大きくしさえすればいくらでも売れた時代が続きました。今も、生産者が消費者のニーズに合うものを生産していないという面があると思います。ただ、たとえ生産者が努力しても越えられない、もっと大きな問題もあるだろうと私は思います。」と語っている。
森林が少ないことから林業は常に売り手市場となり、それが今日の不振の根源にあるという指摘は、なかなか厳しい。しかし、残念ながら否定できないのだ。林業問題を論じる時も、目先の経済ばかりではなく、歴史的な目も必要だね。(教訓)
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氏の本、まだ読んでいないのですが、海岸線の浸食の理由は森林整備により供給される土砂が減ったから、みたいなことを言っていませんか? それよりはダム(砂防ダム、治山ダムを含む)の数が増えたことの方がよっぽど効いていると思うのですが。
投稿: 沢畑 | 2013/03/30 22:31
その点は、インタビューの中でも触れていますね。
森林とダムの影響はどちらもあるでしょうが、どちらが大きいかという量的な判断は非常にむずかしいでしょう。
これは論文ではないので、森林に砂防の視点を提供していることに本書の意義はあるのだと思います。
投稿: 田中淳夫 | 2013/03/30 22:45
田中さんと太田氏とのガチンコ対談本の出版を希望します!o(*^▽^*)o
投稿: 島崎三歩 | 2013/03/31 20:08
田中様
大学教授が、今まで田中さんが何回となく指摘してきた林業の現状と課題についての内容を、日本の森林の歴史を踏まえつつ要領よく纏めた本だと思いました。
さすが,東大教授、今までに既に指摘されていた点を理路整然と解説していますな。
本のタイトル、「森林飽和」は田中さんの本のタイトルにしたいですね。
まあ,これからの林業をどういうふうに立て直すかが、今後の課題でしょう。
次の本を期待します!
「林業立国、日本!」
投稿: しゃべり杉爺 | 2013/04/01 12:06
田中様
「林業の中にも問題はあります。江戸時代から300年間、日本は木が足りなかったので、木を植えて、大きくしさえすればいくらでも売れた時代が続きました。今も、生産者が消費者のニーズに合うものを生産していないという面があると思います。ただ、たとえ生産者が努力しても越えられない、もっと大きな問題もあるだろうと私は思います。」と語っている。
こんな甘い指摘でお茶を濁すようでは、いけませんね。日本の林業を指導出来る立場にいる学者先生が!
と、言いたくなりますね。
さあ、田中さんの出番ですよ(笑)
投稿: | 2013/04/01 12:09
まだ「森林飽和」を読んでいないのですが。。。
>森林とダムの影響はどちらもあるでしょうが、どちらが大きいかという量的な判断は非常にむずかしいでしょう。
太田氏は専門家だから、どっちが大きそうかという感触くらいは持っているのではないでしょうか。
私が何でここに拘るかというと、川辺川ダムをめぐる住民討論会(熊本県主催)で、県民のダム不要論と国土交通省のダム必要論で討論をした時に、太田氏が国交省側から出てきたことがあるからです。べたべたの国交省御用学者という発言ではなかったけど、「ダムを作らんでも治水・利水・発電の代替方法はある」という県民の意見を否定するのに役立つはした覚えがあります。私は会場で聞いていましたので。
太田氏に、ダムの悪影響を過小評価する意図がないことを祈ります。
投稿: 沢畑 | 2013/04/01 22:01
しゃべり杉爺さま
当然ながら、太田教授の方が早く指摘していましたよ。発表もしていた。一般書に書いたのは私の方が早いとしても、そのネタは太田氏から得ているわけで(^^;)。
沢畑様
太田教授が川辺川ダムについて、どんな意見を持っていたかは知りませんが、「科学的真理」を利用された可能性はあるでしょうね。
いわば原爆の理論を発明したオッペンハイマーに原爆投下の責任は感じないのか、と問うテーゼと似ている。
ついでに言えば、森林林業再生プランを立案・推進した○○氏は、全国に広がった禿山と、ズタズタの林地、そして材価暴落の責任を感じないのか、と問うて見たい気がする……。
投稿: 田中淳夫 | 2013/04/01 22:49