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森と林業と動物の本

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2013/03/31

書評『明治神宮「伝統」をつくった大プロジェクト』

先に東京に行った際、明治神宮を訪れたことを記したが、実は真面目に参拝したのは、今回が初めてであった。そして森だけでなく、社や鳥居、宝物館、ついでに結婚式も見たし、休憩所にレストラン、土産物売り場まで訪れた。その際のタネ本?事前勉強本が、これ。

明治神宮 「伝統」をつくった大プロジェクト 今泉宣子著 新調選書

明治神宮の本はたくさん出ているが、これは創建に関わる全体像を描いた書である。それも内苑だけでなく、外苑も含めた都市計画全体を取り上げている。
考えたら、全体で100ヘクタールを超す施設なのだから、実に巨大なプロジェクトである。街づくりに、近い。近代におけるこれだけ大規模なプロジェクトを知るのにもってこいの好著だ。

構成は、計画立案から運動、森づくり、建築、そして見落としがちな外苑部分の建設までを記している。ただ特徴的なのは、主に関わった人物を通して描いていることだ。造営に関わった12人の人生を通して、明治神宮を浮き上がらる手法を取っている。

内苑の森の造営に関して言えば、よく知られる本多静六のほか、本郷高徳、上原敬二も詳しく描いている。とくに、これまであまり表に登場していなかった本郷の功績に注目しているように読める。

本多らは、「神宮林は針葉樹でなければならぬ」という外圧に抗して、照葉樹の森を造営したことで知られる。
ところが印象的なのは、実は本多も「照葉樹では、荘厳さが出ない」と認めていたという点だ。それでも気候風土からは照葉樹でなくては自立した森にならないと押し進めるのだが、今の森をみたらとう思うだろう。照葉樹が鬱蒼と繁る森は、十分に荘厳である。

もっとも上原は、仁徳天皇陵を見学して、その照葉樹の天然林に荘厳さを感じていた。だから確信的に突き進めたのだろうか。

この3人は、みな林学を学んでいる。それもドイツ林学だ。彼らの足跡を追うことで、やがて林学から造園学の確立へと進んだ過程も見えて来る。当時のヨーロッパの学問の潮流が、そのまま明治神宮にも溶け込んでいるかのように感じた。そして明治神宮から離れて、日本に林学や造園学が根付く時代を描こうとしたのかもしれない。

気がつくと、明治神宮創建に関わった人々を通して、明治、大正から昭和にかけての時代の空気を感じてしまうのである。

サイドバーにも載せておくね。

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