視察する資格・視察の前の見る目
北海道十勝の石井山林を訪ねたことは、すでに幾度も触れた。
改めて紹介すると、現在は三井物産が所有し、三井物産フォレストが管理しているが、もともと石井家の3代続く山林だ。初代は広葉樹材による炭焼きを行うとともにカラマツを植林していたが、2代目に当たる故・石井賀孝氏が高密度路網を入れて、画一的な皆伐を中止し、択伐中心の天然林施業に転換。トドマツ、タモ、ニレ、カンバ類などによる針広混交林に仕立てた。路網も、総延長57キロメートル(180m/ha)という驚くべき密度に達している。
そのなかには初代が植えた樹齢90年になろうとする76本の「先代カラマツ」が残されている。これは道内ではもっとも古く太いカラマツの一つになるだろう。
私は、石井山林を最初に見たとき、昨年視察で訪れたスイスの森を想起した。針広混交林で林床には次世代の稚樹が生え、択伐で進めている施業など、見た目がそっくりなのである。
スイスは、ドイツやオーストリアとともに中央ヨーロッパの林業地を形成している。100年を超す択伐施業を続けたエメンタール地方など、人によっては世界でもっとも進んだ林業とする人もいるほどだ。
何より森は美しい。そして質の高い木材を生産している。もちろん歴史をたどれば試行錯誤しつつ現在の森づくりに至った経緯はあり、一概に進んでいるとか理想的というべきではないが、やはり将来の林業を考える際のモデルにはなるだろう。
そんなスイスの森と北海道の石井山林が相似しているのだ。緯度も近く、気候が似ていることも影響しているかもしれないが、何より森づくりの思想がどちらもしっかりしていることに感銘を受けた。
これは、アンチ森林・林業再生プランのモデルになるかもしれない……。
石井山林の8割方は人工林だが……。
さて昨年、この石井山林に管直人前首相と梶山恵司 元内閣官房国家戦略室員・内閣審議官が視察にきたという。
えっ、この森を見て、森林・林業再生プランをつくったの? もちろん、再生プランが始動したのは2009年だから、順序は逆だが、もともとドイツをモデルにつくったと常に語られてきた。しかし、ドイツの森と林業も、私が見てきたスイスの森とそんなに変わらないはずだ。つまりドイツの森も石井山林に似ているはず……。
それなのに、大規模化、機械化、画一化を進める森林・林業再生プランは、ドイツがモデルなの? ドイツでは古くなった将来木施業や絶対にやらせない列状間伐を推進しているの?
もちろん、ドイツだってグーグルで見るとわかる通り、そこかしこに皆伐地が広がっているし、作業員の就業時間が1日16時間だったりする例もあるし、理想的にはいかない。不成績造林地(天然更新不成績地)もあるらしい。
しかし、一応の理想は掲げており、視察するならそこを視察して真似るべきではないのか。
一体、何を見てきたのか。何を学んできたのか。反面教師を視察して、反面だと気づかず、そのまま真似たのか……。あるいは、石井山林の凄さに気づかなかったのか。雑木の多い荒れた山だと感じていたのか? 単に作業道が密に入っている点だけを見て、森づくりの思想を読み取れなかったのかもしれない。
そういや、ドイツから招聘したフォレスターが、林野庁の案内したモデルの北海道の林業地をボロクソにけなした後に、石井山林を訪ねて、「ここがモデルになる」と言ったという話も伝わる。
視察しても、モデルを真似ても、結局は根本的な森を見る目がないと誤解曲解するのだ。
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