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2013/07/29

竹林家から考える規模と質の関係

ようやく、鹿児島の竹林家の続き。

この竹林の棹には、みな数字が書き込まれてある。

054


その中の一本。

書かれた通り、その竹が伸びた年月が記されている。

代表的なものは、このとおり詳しく、そのほかのものは数字で平成何年に伸びたものか描かれていた。

すべて、である。

これは、伐採するために区別がつくようにしているのだそうだ。5年目の棹は、伐採しなければ次のタケノコの出が悪くなる。伐ったものは、チップ工場に持っていくと買い取ってもらえる。竹のチップは製紙用だが、若竹では軟らかすぎてうまく切れないらしい。古くカタイ竹が、竹チップに向いているのだ。
もちろんタケノコ収入がメインだろうが、このチップ用竹出荷も結構な収入になっている。なんたって7500円/トンである。これに地元の自治体の補助がトンあたり1円ある。言い換えると、キログラム当たり8・5円。太い竹は、一本で20キログラムくらいあるから、これは大きい。自ら軽トラで運べば、コストはかからない。

ほかにも田畑は持っているから、米や野菜は自給して、一部は出荷できるだろう。つまり農家の持つ竹林は、タケノコとチップという商品を生み出す源泉だ。年間数百万円を稼ぎだす。

しかし、手間だろう……この竹林の手入れが入念に施されていることは前回も触れたが、これほどていねいにしていたら、生産コストが上がるのではないか。

そう思って面積を聞いたら、「50アールほど」。意外と狭い。

「竹林は3、4ヘクタールあるけど、全部はできないから、道に近いこの辺だけに絞って世話している」

ああ、と思った。そうなのだ。便利なところだけ手を入れる。それも狭い範囲で。

これを林業に当てはめると、便利な場所にある狭い林地に絞って、手入れを入念にする。そのことで木材単価を上げるとともに、細かな用途にも対応した材の出荷を心がける、といった仕組みになる。

たとえば早掘りタケノコのような高級材をつくるとともにさしずめ水煮用タケノコように、細い間伐材や曲がった木も変木として出荷したり、あるいは竹チップのごとく安くても寸法や色などをきめ細やかに小ロットで出すことで利益を積み上げる。

ただし、そんな手間のかかることは広い林地全部を対象にはできない。せいぜい数ヘクタールまでだろう。それも適地だ。住居から近くて、地形も緩やかで、林道作業道が入った土地。これなら低コストになる。小規模だが、商品アイテムを増やしても、需要に応えられる。そして毎年少しずつ収入がある。

そうすれば、総収入は決して少なくならない。

数ヘクタールの林地というのは、日本の大多数の林家の所有森林面積だ。それも山奥ではなく、人里に近い里山の可能性が高い。

ここに日本の小規模林家の生きる道があるのではないか。所有地が狭い、を逆手に取って、高く売れるもの、小ロットの需要に応えるものを生産する。そして自伐であるから低コスト。持続的な林業も営めるし、森づくりの楽しさも得られるはず(脱線するが、伐採するだけの自伐林家なんか、どこが楽しいの?というのが私の個人的感想。木を育て、自分なりの景観を生み出す森づくりするのがもっとも魅力じゃないか)。

量で勝負する林業は、集約化や機械化が欠かせない。しかし、高価な機械を導入すればコストは上がる。一方、質の林業は、自らの目を配れる範囲でやるのが理想的だろう。

そのヒントをさつまの竹林家で得たのである。

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コメント

さしずめ『竹のカスケード利用』ですね。当方の取り組みを披露します。

間伐した跡地に山葵を植える。(竹や間伐残渣=枝や葉=をチップにして『畑』に撒く。・・・保水性向上、土壌改良を狙って・・・)

根は『高額』商品になるまで掘り出さない。

適当に成長した『葉と茎』を粉末にし(・・・食物繊維)、これに鮎とかの骨の粉末(・・・カルシウム・ミネラル)をミックスして『ふりかけ』として商品化。

今日はプレゼンの日です。このアイデアは名著『里山再生』から示唆を受けたことをこの場を借りてお礼申し上げます。

数ヘクタールの林地・・・・・・!

田中淳夫著『刈って燃やせば「森は守れる」』
第30章・お客様意識のポランティアより森林無償貸与制度
に惚れました。

里山に近い森を所有または借用して「自分の森」構想モデルをつくりたい。

夢を諦めない─図面を書いています~

すごーいすごーい。
なんだか、スリランカ移住生活のヒントにもなりそうな
おはなしでした。
それこそあっちはやまだらけ、森だらけですから。
伐るのは何かと制約があるそうなので、
商品になる樹種を・・・・と。
かんがえてみます!

話が広がって怖い(~_~;)。

広い林地を所有しているなら粗放に、狭ければ密な手入れ、という原則論ですが、具体的な成り立たせ方は、各自の工夫に期待したいと思います。商品アイテムを増やすのは、素材は同じでも加工をいろいろ帰るか、素材そのものを多品種育てるか。

なるほどですねー。

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