私がワクドキした森2~ボルネオ・ムル
ベララベラ島の次にワクワクドキドキした森を考えると……
やはりボルネオが頭に浮かぶ。そもそも私が初めて歩いたジャングル(熱帯雨林)は、ボルネオのサバ州なのだ。
それは大学生の時だが、マレーシア連邦サバ州学術調査隊を結成して、デン半島に入った。目的は、野生のオランウータン観察である。そのために半島横断を掲げた。
この体験は強烈だったが、今回は外す。この調査隊は、サバ州の森林局に申請して許可をもらい、ゲームレンジャー(狩猟官と訳すが、意味的には森林保護官だろう。森林の監視などを行う)が二人同行した。この時は伐採キャンプに居候させてもらって、ジャングルも彼らの案内で歩いた。
むしろ、思い出として残るのは、ずっと後、1993年に訪れたボルネオである。それはサバ州ではなく、サラワク州。
こちらは取材である。ただし、テーマはリゾート(^o^)。
サラワク州の奥地のムル国立公園に、豪華なリゾートホテルが建設されていた。まだ完成前のセミオープン時だったが、運営を手がけたのは日本のリーガロイヤルホテルである。ムルは、世界屈指の大洞窟があり、世界遺産にもなった。今では非常に有名な観光地になっている。
ここをどこよりも早く取材して記事にする……という魂胆で、訪れたのだ。これで旅費を稼いで、ほかの個人的興味を持つジャングル取材を行う予定である。そこで賛同するカメラマンと一緒に出かけた。
当時、すでにムルには小型機による空路が開かれていた。逆に海沿いの都市とつながった道はない。
飛行機を使うと簡単だ。しかし、それでは面白くない。そこで、川を辿る旅を企画した。ラジャン川を遡って、ムルに着くルートがあるらしい。
そこで河口のミリの町からマルディに向かい、そこでムル行きの船を探した。ムル・リゾートに行きたいというと、「これに乗って……したらいい」と言われて紹介された。小さな乗合ボートのような船だ。よく聞き取れなかったが、とりあえずゴーだ。
そこに乗り込む。最初は赤茶けた大河を上流へ向かう。やがて細くなり蛇行を繰り返す川へと入っていく。時間はかかるが、ご機嫌だった。景色がどんどん変わるから飽きない。川は熱帯雨林に毛細血管のように入り組んでいる。この血管をたどって熱帯雨林を眺めるのは、実に面白い。船に乗り合わせた人々とも楽しく過ごした。
が、突然下ろされるのである。
そこは木材伐採キャンプ? なんと、ムル・リゾートに行きたければ、ここから車だというのだ。え、川で直接たどり着けるのではないのか。(リゾートは川沿い)
どうやら川筋が違うらしい。伐採用の林道は、ここから飛行場とリゾートに延びているという。しょうがなく下りて、キャンプで交渉して車を出してもらうことになった。代金も決まる。四駆のトラックである。
ところが、この頃から空の様子がおかしくなった。豪雨なのだ。いやな予感がした……。
トラックに乗って我々は出発する。ジャングルを切り開いた林道を走る。が、豪雨で林道は泥の海になっていた。アップダウンのきつい道だ。
とうとうトラックはスリップを始めた。急な上り坂を登れなくなったのだ。四駆だぞ、頑張れ!
が、ずるずると下がる。みんな下りて押す。空回りする後輪からドロが吹き上がり、全身を襲う。
どうしてもダメだった。すると「ここから歩け」。
おいおい。雨の中だぞ。しかもドロの林道だぞ。迷ったらどうする。
いや、一本道だから大丈夫だという。しかも、ここまでで金も払えという。
その後、ゴタゴタ揉め続けた。カメラマンは泣きそうであった。一緒に旅してわかったのだが、彼は海外旅行が初めてだったのだ。最初の海外経験がボルネオのジャングルなのだ。いや、無理に引っ張ったわけじゃないけど。本人が行きたいと行ったのだよ。
でも、いきなりのトラブルはきつかろう。
カメラマンのキャンプ地にもどった方がいいという泣き言を私は却下して、歩くことにした。トラックは帰った。
ザックを背負って何時間で着くか……。途中、カメラマンがバテたので彼のザックを自分のザックの上に乗せて縛り、歩いた。アップダウンのずるずる道を雨に濡れつつ歩いた。
なんだか、晴々した気分。この頃はトラベルはトラブルとうそぶき、楽しむ余裕があったのかもしれない。(今はイヤだよ)
林道という人工物を歩くのだから、森の中とは言えないけれど、圧倒的なジャングルの広がりである。わりと高地だから、雨が霧となり、ずっしりと身体を包む。
四駆が通れないのだから、車が通り掛かることもあるまい。もちろんヒッチハイクもできない。日が暮れてきた。朝都会のホテルを出て、その日のうちにこんな目にあうとは思わなかった……。
が、歩けば前に進めるのである。ついに曲がりくねった道の奥に瀟洒な建物が見えてきた。これが、ムル・リゾートか!
たしか橋を渡ったと思う。
どろどろ、びしょびしょの姿でホテルのロビーに入った。
「ユーアーウェルカム!」
ホテルマンは笑顔とウェルカムドリンクとタオルで迎えてくれた。。。。
この写真は、3年前に再訪したロイヤル・ムル・リゾート。
豪華なホテルとなり、世界中から観光客を集めている。
この頃は、写真をポジで撮るようになっていた。だからカラーだが、簡単にスキャンできずデジタル化が難しいんだなあ。
この経験もワクワクではなく、ドキドキか。。。
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ひょっとして、今の遭難癖って。。。
ルーツを見た気分ですわ。(^^)
投稿: 熊(♀) | 2013/08/08 21:20
誤解です。今回の経験は、遭難ではありません。あくまでジャングルの中を延びる林道を歩いただけです。
たとえドキドキしつつ、距離も地形も知らないままだとしても……。
投稿: 田中淳夫 | 2013/08/08 22:33
「トラベルはトラブル」
まぁ、そういえば
人生ってのも「トラベル」そのものですね~。
投稿: 勇者チョッパー | 2013/08/08 23:05
「最悪の旅こそ、最良の旅」という言葉もありますね。
後々、記憶に残っているのは酷い目にあったことばかり……でも、それが快感になって楽しい話題にしてしまう。
そして、トラブル経験こそが人生勉強ですわ。
投稿: 田中淳夫 | 2013/08/09 11:48
私のワクドキ森・・・・・・
ダンナの実家の周り・・・・・・・。
ワニとか、オオトカゲとか、クジャクとか・・・・。
投稿: みーふー | 2013/08/11 21:55
ワニですか(>_<)。 オオトカゲもいいなあ。食べてもオイシイし。
一度、訪問させてもらいたいですなあ。
投稿: 田中淳夫 | 2013/08/11 23:59
ぜひに~。
泊まりは屋根の下ですが、
シャワーは屋外の屋根なし水シャワーで、
トイレもまあ、そんなもんです。
でも日本より快適に過ごせるから、不思議です。
投稿: みーふー | 2013/08/12 11:43
屋根の下……壁はなかったりして(笑)。
シャワーもあるのか。川に浸かるのではなく。
私のボルネオは、たいてい野外でしたよ。
でも、高床式のニッパハウスは快適ですねえ。涼しいし、ゴミは隙間から下に落とせばいいし。リゾートの快適さとは違った楽しさ。
投稿: 田中淳夫 | 2013/08/14 10:58