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森と林業の本

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2013/11/13

漆の森

八戸市は青森でも岩手県境にあり、隣接するのが二戸市。

そして二戸市と合併したのが浄法寺町。この町の名を聞いて何かを思い出す人は、なかなかの通だ。浄法寺とは寺の名前ではないのだが、漆の産地として知られている。国産漆の6割以上を生産するのだ。と言っても、残りは小さな産地が分散するものだから、事実上の国産漆の独占生産地と言えるだろう。

そして漆(樹液)を取る樹が、ウルシノキ。ほとんど自生しないため植林して育てるのだが、浄法寺町には14万本あるという。そんな「漆の森」は、日本でここだけだ。

私は、林業を木材生産だけと捉えていないので、この漆の森に興味を持って訪問した。

……実は、「森のめぐみ展」でも展示があって、そこで担当者と話して強引に押しかけたと言ってもいいのであるが(~_~;)。

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ここは、ふるさと文化財の森として文化庁の指定を受けたところ。元牧場だった約4ヘクタールにウルシノキを植えて「漆の森」として認定されている。

ちなみに漆は、樹齢15年当たりの木から採取する。そして夏から秋にかけて傷を付け続けて樹液を絞り、最後には伐採するのが基本。これを「殺し掻き」という。

だから、そんなに大木にはならない。

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でも、この程度の太さの木は残っていた。


ただ、ここでは今年採取した木を伐らずに残して、来年の分と一緒に伐採するそうだ。だからこの季節に訪れたのに、採取跡のついたウルシノキを見学できた。

やっぱり感激する。私がこれまで見てきたのは、丹波漆、京都府福知山市の漆畑だが、そこには数本、多くても20本くらいしか植えられないない。見渡す限りのウルシノキなんてイメージが湧かなかった。

なお、国産漆は、全需要の2%くらいしか占めていない。残りのほとんどは中国産。品質的にはいま一つ、どころかイマニ、イマサンである。国産漆はさわやかな香りがするのに対して、中国漆は腐敗していて臭い。そのうえ、仲買業者などが混ぜ物をしているケースが多く、今や馴染みの言葉になった「擬装」のオンパレード。

だから国産漆をいかに量産するかが課題……かと思っていた。浄法寺でも掻き職人の高齢化が進んでいるし、かぶれるし、決して楽ではない仕事なので後継者難なんだよなあ……。

が、違った。なんと、生産調整をしているというのだ。なぜなら、売れ残るからだ。

価格は中国漆の数倍から10倍もするため売れないのだ。

なんか、クラクラした。

高いといっても、漆器の価格からすれば微々たるものだ。茶碗一つに使う漆の量はどれほどか。商品としては数万円するものがざらなのに。結局、漆塗り職人が、漆の質にこだわらないという現実がある。

……この話、国産材が高いと言われつつ、実は木造住宅にかかる木材価格が微々たることに共通する。そして建築家が国産材にこだわらないこと、林業地に建築現場の情報が伝わっていないこと、営業しないこと、擬装が日常茶飯であること……。

実は浄法寺町の漆は風前の灯火なのだ。

かすかな光は、浄法寺でも、各地でも、自らウルシノキを育てて漆を掻いて、自ら塗って作品づくりをする職人というより作家が少しずつ出てきたこと。分業するから情報を遮断され、インチキが出回り、外国産に追われてしまうからだ。

林業界でも、自ら建築しろとまでは言わないが、エンドユーザーとつながった生産-販売体制を作らないとじり貧間違いなしだ。

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コメント

うわぁ~!!
社会人一年目を過ごした街の目と鼻の先で、
こんな世界が展開されていたとは!!
この漆のお話し、ぜひともいろんな人に知ってもらいたいです!
もちろん国産材の現状も!!
と、いっても、この辺りの木造住宅は割と地元の木を使っている場合が多いようですけどね・・・・・。

おや、浄法寺の近くに住みましたか。寒かっただろう……(^^;)。

ちなみに、この漆担当の職員も、出身は静岡だとか。案外、よそ者が頑張っているのです。

あー、そんなに近くではないですが、
今と比べたら限りなく近いですね。
青森県時代は七戸でした。
5月5日に雪が降りました。
その経験があったから、
今はもう、どんな寒さにも耐えられる気がします・・。

七戸は、八戸の隣かな? 安直。浄法寺町は、現在は二戸市ですね。

ちなみに浄法寺町の漆の担当者は、静岡出身だそうで、冬は辛いそう……。

確かに七戸は八戸の次にくる数字ですが、
八戸まで車で1時間半ほどだったと記憶しています。
新幹線なら八戸の次が七戸ですよね、確か。
新幹線駅が設置された七戸、再訪したいところですが、
がっくりくるかな・・・・。より一層過疎が進んでるのかな・・・。

いかんせん、遠いです・・・。

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