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森と林業と動物の本

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2013/11/12

林業の量と質を決めるのは何か

八戸遠征(~_~;)を終えて、帰宅した。結構、強行軍でした。

八戸の「森のめぐみ展」では、アースガールズだけでなく、地域材セミナーとして私が2部構成の講演を行い、そこに遠野馬搬振興会の岩間氏もプレゼンを行うという、なかなか盛り沢山。

さて、私は木材と森の質と量の話をした。林業は、量と質の両輪が必要なのに、現状では量ばかりが追求されているためにバランスを崩してしまった現状から、質の森と木材を紹介したのだが、長~い帰途中に、何か舌足らずであった気がして反芻した。そこで、この場を借りて、足りなかった言葉と説明について、少し触れたい。

何より、「質の木材、質の林業」とは何を意味するか、という点が説明したりなかったと思うのだ。「質の森」なら、生産量・収穫量とか生物多様性とか生態系なんたらを持ち出せばわかりやすいが、木材の場合は何か。

なぜなら、質のよい木材というと、すぐに思い浮かべるのは役物・銘木になってしまう。それを否定しても、「ちゃんと育林して、ていねいな施業で出す木材」という言い方をしてしまうと、結局は同じ。節が少なく、年輪が密に揃っていて、真円に近くて、元口と末口の太さがあまり変わらなくて……と、なんだ、それって銘木?と思ってしまう。

そもそも「ちゃんと育林」というのは、今から始めるとその木を収穫するのは数十年後になる。それって、今そこにある木は使えない、それは諦めて「量の林業」で出してね、というしかなくなる。そして数十年、臥薪嘗胆しつつ待てというのか。
ていねいな施業」というのは、「乱暴に扱って傷を付けたりしない」ぐらいならいいが、「いい木を選別して出す」というのなら、傷があったり曲がりのある木はどうするんだ、と言い返されそうに感じる。

そうではない。私の言いたい「質の木材、質の林業」とは、今育った木材を良質な使い方をするということ。良質な使い方とは、顧客の満足度の高い使い方、さらに言えば利益率の高い売り方である。正確に表現すると、質の木材産業だ。

つまり育林に何十年もかけて得るものではない。

永年かけて育てて今そこにある木を、いかに加工し販売するかを考えるべきだ。そのためには顧客のニーズとのマッチングや造材、木取り、製材技術が重要となる。もちろん販売戦略も磨かないといけない。マーケティングから流通サービス、信頼醸成……。
それはそれで難しいことだが、そうした人材育成や経営術を磨くのは、樹木の時間ほどには年月をかけずにできる。今、屑扱いしているような木々を宝の山に変えることができる。これこそが、森のめぐみである。

たとえば曲がった木があったとして、曲がりを活かした設計もあるだろう。よい木目の部分を選んで伐りだすことで曲がりを見えなくして、その木目を引き立たせて高級材に変身させられる。もちろん長さのあった使い道を見つけ出す。
いっそのこと、材質より顧客の故郷の産地……とか感覚的な価値を付ける手もあるだろう。

そうした木材のコーディネート的な扱いによって「質の木材、質の林業」を達成させよう、というのだ。それはていねいに、少量しかできないが、きっと森林の価値も上げられる。

また森づくりは、多様なニーズに対応できるよう多様な木々(だけでなく草も昆虫も)を育てることが望まれる。それがリスクヘッジにもなるし、結果的に景観的にも「美しい森」になるだろう……と私は考えるのだ。

以上、八戸のセミナーの追加でありました。

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コメント

9月頃、あるところで木材の量を売るのではなく、質を大事にして売るという発言をしたんですが、そのとき私も言葉足らずで、材質の意味に取った人は多かっただろうなあ・・と反省しきりでした。変な顔してた人多かったですし^^;
例えば国産材とか地域材というのは、日本人がつくっているという、なんとなくの信頼感とか安心感もあると思うのですが、そういうものも含めてきっちりブランドとかパッケージにして、質と定義していかないと、いつまでたっても量を求めることが続いて、結局消費者にとって魅力のない木材が売られていくことになるんですよ・・というような意図でしたが。。

難しいですね~

「消費者にとっての魅力」・・・・

原材料を供給する側の行動の基本として、
心します。

製材で、2次加工で、流通で、それらを経ていくごとに消費者にとっての魅力が目に見える形になっていく・・・・。

「量」はわかりやすいのですが、「質」は難しい。安易に使うと、自分自身も混乱してしまいます。

結局は、「エンドユーザーの満足度」なんだと思います。何に満足するかはケースバイケースになりますが、その視点を忘れないように「質の木材」を追求しないと。

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