書評「多種共存の森」
『多種共存の森』 清和研二著 築地書館 2800円+税
~1000年続く森と林業の恵み~
※サイドバーに掲載
森林関係の本は、専門書が多くて価格も高めのものが多いが、この本は新聞広告で見かけて、すぐ注文した。が、読むのに時間がかかった(~_~;)。
読みにくい本ではない。むしろ、エッセイ風の書き方であり、専門知識は詰まっているが、非常に読みやすいと言える。そして内容も、私好み。いや、このところ仕事上で林業関係の本や記事を読んでげんなりすることが多かった中で、出色の面白さである。
かつて熱帯雨林に夢中になり、森林生態学の本を貪り読んだ感覚が蘇る。久しぶりに(科学的な意味で)ワクワクしたし、後半の日本の林業の関する問題点の指摘や提言にかけては、我が意を得たり、だった。
読むのに時間がかかったのは、寝床で読みつつ、付箋を付けたり元にもどって読み返したりと行きつ戻りつを繰り返し、ときに睡魔に負けることも多かったからである……。
舞台は、主に日本の森だ。それも東北と北海道が多い。それは、著者が北大出身で、現在は東北大学の教授だからだろう。
第一部は、多種共存の仕組みについて、最新の学説を紹介しながら説得してくる。熱帯雨林が代表的だが、なぜ森林に生物多様性が生まれるのかは、生態学の最大のテーマとも言ってよく、さまざまな仮説が出ているが、反論もあって完全に説明できる定説はない。だが、本書では現在主流のニッチ仮説や中規模攪乱説などにも触れながら、ジャンゼン-コンネル仮説で迫った。種子の散布と他種の侵入・病原菌の繁殖などの関係を解明したものだ。うん。うん。わくわくする。
そして多様性が高い生態系ほど、資源の利用効率が高く、生産性も高くなる。そして安定している……というテーゼを証明していくのだ。これだ、これだよ! と興奮する。
これこそ、前世紀にメーラーの唱えた「もっとも美しき森はまたもっとも収穫多き森である」という言葉(ただし、経験則)を裏打ちするかのようだ。
※私は「美しき森」を、景観だけでなく、生態的な多様性・安定性の意味で考えている。
そして第三部では、「多種共存の森を復元する」と題して、現在の日本の人工林(針葉樹)に広葉樹と混交させる方法を最新研究を交えつつ打ち出す。
それは多様性の確保と長期的に収穫を得るための林業を提案する。これは、ヨーロッパの近自然的林業に近づけることを意味しているのだろう。
そこに「強度間伐」しなければ種数が増えないことや、境目のない曖昧なゾーニングにすべきことを指摘。それだよ、それ。現在の林野庁が行っているきっちり機能別のゾーニングほど無意味なものはないと思っていたが、ここでもそこを指摘してくれた。
また林野庁の「全国森林計画」や「森林・林業再生プラン」の評価も私の意見と近い。全体として新制度を認めつつ、抜け落ちた部分や現実的でない点を指摘していくのだ。
たとえば、森林・林業再生プランでは、結局は針葉樹の一斉林を維持することを目指すだけで、生態系の機能に対する理解が弱い。
そして日本型フォレスター育成の内容が、まったく能力不足であることを見抜いている。現在のフォレスターの役割では、単なる林業の現場監督であり、とても生態系を理解してプランニングをするレベルに達していないことを危惧するのだ。
そして、木材需要予測の甘さも指摘。これも、私と同意見。どう考えても木材需要は縮んでいくのに、計画やプランでは、生産増強ばかりけしかけているのだから。
もちろん、具体化の段階では、それは不可能だろう、と思えるような部分もあるが、概して納得できた。
本書は、いわば森林生態学の知見を押さえた上での林業の教科書である。意外と、そんなテキストが日本の林業にはないのだから、貴重だ。逆に言えば、森林生態学を知らずに林業を語るなかれ、と吠えたい気分にさせてくれる本なのである。
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