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2014/01/16

珍本『木材利用の発展』と、その著者

書評というには当たらない、本の紹介をしたい。

『木材利用の発展』 宮原省久著 

出版社はなく、どうやら自費出版らしい。奥付けには、著者兼発行人として宮原の名前がある。住所は東京都新宿区新小川町○○である。なお出版年は、1958年(昭和33年)10月1日。定価は400円。

実は、古本市で発見。深く考えずに購入した(かなり安かった?)が、このほど読み終えた。天下の林業界の奇本、珍本、そしてネタ本である。

著者は、なかなか博学。歴史、技術、労働問題まで知識の幅は広い。いったい何者? 元官僚なのか、学者なのか。

と思って検索をかけてみたら、結構たくさんの木材関係の本を出版していた。たとえば……

フィリピンおよび北ボルネオの木材資源
木材商業論
日本の製材工場
製材原木―製材工場の経営実務
木材流通の知識

いずれも古書だから、簡単に手に入らないし価格も高い。図書館で探した方がよいかもしれない。私が手に入れられたのは僥倖だった。

そして、発見しました。この人の肩書。

木材ジャーナリスト!

そうか、戦後日本の木材業界に木材ジャーナリストなる肩書を持つ男がいたのか。なんだか親近感がわく(^o^)。経歴はわからないが、前歴は木材業界にいたのだろう。
驚いたことに、

宮原省久伝: 木材ジャーナリストの生涯

という本も発行されていた。おそらく死後刊行されたのだろう。

あんまり著者の探索に深入りして本の内容を紹介できなくなってしまったが、いくつか興味を持ったところ。

古代の都建設(藤原京、平城京など)の建設には、多くの奴隷が全国から集められたこと。そして中部山岳地帯からは、斐太人(ひだひと)と呼ばれる伐木や運材の技術に長じたもの、畿内の和泉からは杣人(そまびと)と呼ぶ木材技能者がいた、とある。彼らが畿内に集められ優れた林業技術が競われたのだそうだ。

昭和初期に樺太材はパルプ用に優先するため内地に向けは伐採制限をたけた。そのため樺太材が入らなくなり、港湾都市製材工場では「丸太よこせ運動」が展開されたという。
拓務大臣は、それに対して樺太は増伐できないが、フィリピンやボルネオには、広大な日本人の利権の森林があり、莫大な投資が行われているから、そちらを使えと回答。南洋進出は木材面からも推進されたらしい。

日露戦争では、林業労働者は質実剛健の兵士として徴用されたため、肝心の山仕事をする人がいなくなり、あわてて人夫を募ったら散髪屋や魚屋までが集まって使い物にならなかったこと……。そこで馬車で、隣県の林業労働者を盗み出した! そうだ。

そのほか、山林所有者が大儲けをしても山に還元せず所得は貨幣資本として都会に流れてしまった。そのため労働者の待遇改善は進まなかったこと、など労働問題にはかなり筆を割いている。

こうした情報は、現代にはなかなか伝わっていないから、貴重である。私も後世に、古書店で「昔、森林ジャーナリストという肩書の人がいたらしい」とマニアに発掘されることに期待しよう。

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