宗教法人の林業
昨日は、大径木の木材がなくなる度に、別の樹種に移ったり、海外から仕入れてきたことを記した。しかし、いつまでも資源を食い荒らすことは続かないだろう。
そろそろ本気で長期的視点で森づくりを行わねば、単に大径木だけでなく、生態系も含めて劣化させてしまう。
しかし、家業でしろうと法人であろうと、民間ではなかなか数百年に及ぶ経営はできない。世代交代もするし、時の経済状況によって「喰うためには仕方ない」と施業内容を変える。
なかには森づくりの家訓を持つ山主の家系とか、社是を掲げた企業グループもあって、数十年数百年単位の経営を行うところもあるが、まあ例外だろう。
かといって国や自治体などの公的機関が期待できるかと言えば、全然そんなことはない。
政策は猫の目のごとく変化し、さらに担当者は数年で入れ代わる。その頻度は民間をはるかに“凌駕”している。つまり、民間以上に長期的視点がないということだ。担当者は、将来の責任を負わないから、「今」しか見ない。前任者の仕事も否定して、新しいことをしたがる。が、その行く末を観ることなく、また転任する……。
では、どこが長期的視点を持てるのか?
一つの可能性としては、宗教団体かなあ、と思える。もちろんピンキリだし、住職などトップが変わればひっくり返ることもあり得るが、一応寺院は長期的視点で運営される建前がある。
……そんなことを考えたのは、京都の清水寺や、三千院などが超長伐期施業を開始したことがある。数百年の森をつくるらしい。また高野山金剛峯寺とか、伊勢神宮の宮域林も、超長伐期の森づくりを進めているのは有名だ。
ほかにも新興宗教団体が、どんどん山を買っていることは、知る人ぞ知る(^o^)。林業家からすると、有り難いらしい。
いずれもヒノキやケヤキ、コウヤマキなどの造林を行ったり、荒れた森林の整備を進めている。単に木材生産だけでなく、景観にもこだわるし、水源涵養などを目的とする場合もある。
伊勢神宮の森は、昨年80年生の間伐をしたことで知られたが、少なくても200年は育てるはずだ。幸い、今のところ計画は守られている。
詳しい施業内容は、それぞれの寺社によって違うが、林業に参入するのは、何よりも自らの伽藍の修理・改築用の大径木材がなくなってきたこと。つまり林業経営というよりは自給自足的な意味合いが強い。また「木の文化」のために分配することも考えているらしい。生産した木材を市場に出して売却することはしないだろう。
それができるのも宗教法人は、別の収入源を持っているからだ。同時に森づくりには宗教性があることも影響しているのかもしれない。宗教と森林経営を、もう少し結びつけることも考えてもいい。
宗教法人の林業経営について調査研究してみたら面白いかも?
ここに使われている大径木は、果たして今後は国内で調達できるかどうか怪しい。
« Yahoo!ニュース「木が先か」の裏側 | トップページ | 沖縄の講演後 »
「林業・林産業」カテゴリの記事
- 吉野林業様変わり~驚いたのは…(2025.04.09)
- トランプは森のラストベルトを救うか(2025.03.14)
- 林業機械に林業3原則を植え付けろ!(2025.03.10)
- トランプ、木材にも関税か(2025.03.04)
- 見えないカルテルが、木材価格を下げる(2025.01.13)
先日は長々とお邪魔しすみませんでした。早速昨日から取り上げてくださってありがとうございます。
もし面白い話が入ってきたらぜひ教えてください。
また、お願いされている件は現在対応中です。
一点、昨日の記事にヒノキのことが少し書いてありましたが、ヒノキは古民家にはほとんど使われていないのではないかと思います。
お天子さまの住むお宮を作るところでしたので。
西日本で民家の最高級はツガ普請だと思いますし、民家の大黒柱にはクリが多かったはずです。
投稿: 大学院生 | 2014/02/11 22:42
ご登場いただきましたか。業務連絡的には、お願いした資料は、ぜひ読みたいところです。
古民家、というと語弊があるというか境界線が難しいですが、豪農など金持ちの家はヒノキも使われていたと思いますが。土倉庄三郎の家は、400年もののケヤキとヒノキで建てていたそう。
一般の民家は、雑木でしょうね。クリもクヌギも使われたのでしょう。
投稿: 田中淳夫 | 2014/02/11 22:52
我が実家は、大正時代にある事情があって、どこかの家を移築して建てたらしい(そのときすでに古民家?)ですが、松と杉が主のようです。
投稿: 鈴木浩之 | 2014/02/12 13:00
「古民家」という括りはあまり適切ではないのかもしれませんが、他に言葉が思いつかなかったので。。。
ヒノキの使われ方には地方や時代によって違いがありそうですが、土倉庄三郎の家の建てられた年代はどのくらいだったのでしょうか。
投稿: 大学院生 | 2014/02/12 13:34
ちょうどとある雑誌のイベントレポートで、伊勢神宮の宮域林の森づくりについての記事があり、200年の長伐期ということでびっくりしていたところでした。昨年の遷宮に際に使われたのが宮域林産の間伐材で、約400年ぶりだったそうです! それまでは愛知、岐阜、木曽と移ってきたそうで、木の確保は大変そうですね。
投稿: 森末 | 2014/02/13 11:58
建築用材について。クヌギを用材として一般に用いられていたことはないと思う。もっぱら薪炭材であった。理由としては枝下の長い通直材が少ない。水に弱い。狂いやすい。なによりも更新が早く火力が強い。
農耕具の柄としての使用も少ないのではないかな。
梁丸太での使用例も聞かない。松、杉を一般として檜、栂、欅、栗などのことは見聞きしたことはありますが。
元木材業界に生息していた者です。
投稿: korowaso | 2014/02/15 13:31
いえ、一般民家ではありましたよ。クヌギが、というか、どんな木も使われています。ただし、戦前以前の話です。築100年以上の民家を調べると。
もちろんクヌギは薪炭用でもあるけど、農山村では、そんなにえり好みしていません。手に入る身近な木を使って建てたんでしょうね。
そういや、千利休も、雑木を使った茶室を建てていたな。これは数寄者、つまり変わり者を自覚した使い方でしょうが。
投稿: 田中淳夫 | 2014/02/15 22:58