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2014/02/27

書評「木材と文明」

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木材と文明 

ヨアヒム・ラートカウ著 築地書館

2段組で350ページの大著。

昨年末に出版されて、好調のようである。先頃、増刷されたという。これほど分厚く、また内容も決して簡単とは言えない本なのに、よく売れるとは羨ましい……。

 

私も、刊行後すぐに購入した。じっくり、時間をかけて読んだ。流し読みできない内容なのである。それでも、すぐに書評を書く気にはならなかったのは、本書を総括して評するには、熟考する必要があるから莫大な時間がかかるが、それを無料で書き飛ばしている本ブログに記す気にならなかったからである。

そうこうしているうちに新聞にも次々と書評が出ているようだ。そこで、私なりに気に止まった所を記しておこう。

内容をかい摘んで紹介すると、主にヨーロッパを舞台に人間と木材が関わる壮大な歴史を描いたもの。それは、同じく人と森の歴史にもなっている。
常に人は木材を必要として、足りない木材の調達と節約に苦心していたことが伝わるが、近代になって、金属や合成樹脂の登場によって急速に木材離れが起きるが、今再び環境の時代になって木材に注目が集まっている……という流れが浮かび上がる。

その過程には、意外な事実や驚く話が目白押しだ。かつて木造建築は、石造りの家より安物扱いだったとか、金属だけでなく岩塩からの製塩に木材消費が大きかったとか、巨大な筏流しが貨幣経済を発達させた(筏を運んだ後は解体されるので、金銭と引き換えになった)こと、ルイ14世治世下のフランスは木材不足のために破綻すると言われたこと……。

が、ここで取り上げたいのは、あえてヨーロッパではなくネパールの項目だ。

ネパールの森林減少は有名だ。(「ヒマラヤのディレンマ」という言葉で知られる。)
人口爆発により森林伐採が進み、それが洪水など環境破壊を引き起こし……が、ここに記されている事情は、どうもそうではないらしい。

1982年までネパールは木材輸出国であり、日本と並ぶ繊細な木材加工技術を発達させたのだという。ところが、多くの報告によると、問題は1956年、57年にかけて行われた森林の国有化こそが危機的な状況をもたらしたらしい。

国有化は、表面的には野放図な開発から森林を守るために行われたというが、「国有化することによって、森林は事実上、無人の地となる」。

そして「住民が自分たちの資源を自らコントロールできないところでは、自然は打撃を受ける」というテーゼを示す。林野行政官庁が非効率的で、腐敗しているがゆえに、かつては共有財産として立入制限があったところが、逆に自由に出入りできるようになる。そして、誰もが当事者意識を持たずに目先の利益で森林を略奪する……のだ。

言い換えると、森の消失を論拠にして国家のコントロールが強化されることにより、農山村住民は持続的な森林経営への関心を失う……それが森の危機を悪化させるわけだ。
さらに「環境とは、国家の恣意的な干渉の方便にも使われる多義的な概念」とする。

どうだろう。

私は、かなりのところ納得する。
近年、荒れた山(人工林や里山の雑木林)を公的機関に買い取らせようという論調がよく出る。さもないと、外資が買収するから……と。が、私は、国公有化すればするほど森は荒れると訴えてきた。森を管理する主体が失われるからだ。その点では、委託管理方式も心しないと危うい。受託者は、本当に所有者に成り変わって真剣に森のことを考えられるだろうか。そして長期に渡って担当できるだろうか。(数年で異動する公務員がその任にないのは自明であろう。)

ともあれ、多くの示唆を与えてくれる本である。気合を入れて一読することをお勧めする。

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書評・反響」カテゴリの記事

コメント

コモンズの悲劇とは反対のことが起こるわけですね。私も森林の公有化にはあんまり賛成できません。東北地方の軒先国有林の山村の皆さんは幸せだったのでしょうか。

私は、むしろ国というコモンズ(共有地)になることで悲劇が起きるような気がします。ようするに共有(国有)という名の元に、自分のものではない、責任を持たなくていい、自分の利益だけを確保しよう……という流れで森を荒らしてしまう。逆に面倒で、難しい問題は先送りする。
10年後20年後によい森になっていなかったら、遡って責任追求できるシステムならよいと思いますが。

ネパールの森林(というか山)の所有権の話は全く知らなかったです
日本の山が国有化された経緯に似るんでしょうかねー
ただ西ネパールでもそんな国有化がされたはずが無いと思います
統治してなかったし
数年前まではマオイストの独立国だったし
つまりこの本の言説はカトマンズと国道が繋ぐ衛星都市近辺だけの話に思えるんですけどねー

著者のラートカウは、自分で研究したのではなく数々の文献を漁ったのだと思いますが、報告書(論文)が出ているようです。

むしろマオイストの方が森林の国有化をしたがる気がします。また王権も所有したがりますねえ。

まあ、この項目に関しては、人口増が森林の荒廃を進めたという言説に対して反論したと考えてよいのでは。また政権の混乱は、たいてい森を荒らします。

あの国の最後の王は札付きだし(笑)

こんどレポート漁ってみます

ただ林道が無いのにどーやって大規模に伐採搬出するのかが見えないんですけどね
ほんとに車の道無いですから
屋久杉みたいに山の中で製材してボッカしかない
それと木工はネワールの人々だけだったはず

建具屋・都築@三河湾岸です。久しぶりにコチラにコメント・・・

>国有だと……という流れで森を荒らしてしまう。

放置林を皇室に寄付すれば、荒れたままにしとくとバチが当りそうなんでセッセと手入れするんではないだろうか・・・
って一時期マジに考えた事がありますです。

イングランドにはロイヤルフォレストってありませんでした?

これは想像ですが、ネパールの場合は大がかりな伐採をしたのではなく、近隣の村が野放図に木材採取したのではないでしょうか。薪にするためとか、家を建てるため、あるいは1本2本と売り飛ばして金に換えるため。これまで村の掟で縛られていた禁伐が、他人のもの(国)となれば、後は野となれ花となれ、で伐ってしまう。もしかして、村総出で盗伐するとか。

かつては日本にも御料林というのがあったんですけどね……。
皇室財産だから自腹を切ってでも手入れをしようという忠臣は、今の日本には(ネトウヨ含めて)いませんぜ。皇室を都合よく利用することしか考えていない大臣はいますけど。

やっと読み終えました(おそ!)
ヒジョーに面白かったです
しっかし文献リストは翻訳ではカットされてて
気になるならこの本の原書読めって!?(涙)
せめてスペルだけでも欲しかった

ネパール以外の話ではガラガラと見方がかわりましたー
特にヨーロッパは

でもネパールの話は3ページだけだったのでやや肩透かし(笑)
まあボチボチ気にしながら調べます

ご苦労さまでした(笑)。
ネパールの話はわずかですが、思想的にはヨーロッパ事情に通じるものがあります。森は中央集権的に経営すると、たいてい破綻する。また禁令では守れない。

このテーマの日本版を出版したいと思っています。

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