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2014/07/29

書評『環境の経済史』

環境の経済史 森林・市場・国家』(斉藤修・著、岩波現代全書 2100円+税)を読んだ。

  
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※ 寡聞にして「岩波現代全書」という存在を知らなかった。
 
そもそも、全書とは何か。執筆者の全作品を網羅する全集ならあるが、全書は知らなかった。
文庫、新書、選書……と判型の違いなどで書籍をいろいろな表現をするが、全書とはなんなんだ。
 

ただ「岩波全書」は1933年に発刊しており、岩波現代全書は2013年スタートらしい。基本的に学術書らしい。もう33冊も出ている。
   
  

  
 
閑話休題。
 
本書は、大雑把にいえば森林史だ。環境史でもあるが、ほとんど森林に割いている。
 
ただ本人は専業の環境史家ではないと断っているし、森林や林業に深くコミットして研究しているわけでもなさそうだ。
プロフィールによると、経済史畑の出身で、歴史人口学なども専門とある。
 
そのうえで東西の膨大な文献を読み説きながら、日本の森林史を、中国の森林、ヨーロッパ(主にドイツ)の森林史と比較しつつ論じている。
 
まず前提として、日本の森林はかつて減少していたが、江戸時代に回復した、という事実を示す。これはコンラッド・タットマンの「日本人はどのように森をつくってきたか」に依拠するのだが、そこでは日本人は森を(国家が政策的に制度として)守り、復活させた、としている。
 
だが、本当にそれだけか。トップダウンの森林保全策だけでなく、市場原理(つまり、木材が商品として扱うこと)も大きな役割を果たしたのではないか、というのが著者の視点だろう。つまりボトムアップ的に商品生産のための森林造成が行われたとしている。
 
ヨーロッパも国家が森林保全⇒林学・林業政策を進めて森林を復活させた。一方で中国ではほとんど森林政策はなかった……と比較する。(もちろん、例外も紹介している。)
 
そして、「日本は古代より自然を愛する国民だった」的なナショナリズム色を漂わせた蒙昧を排除している。
経済学者らしく、市場原理を上手く活かすことが森林保全に役立つことが語られる。(過去の日本は上手かったのだけど……。)
 
 
  
これは推測だが、本書は、ある程度世間の支持を集めたかのような「外資が日本の森を奪っている」とか「欧米は自然を破壊し支配する思想で、日本こそ自然を愛する民族なのだ」的な論説に対する反論なのではないか。仮にその意図はなかったとしても、その役割を果たすだろう。
 
 
 
実は、私も現在、森林史の本を執筆している。日本人と森林の関係の変遷と、ドイツ林学なども交えて紹介する。そして林業がどこでどのように生まれ、それが持続的産業へと衣替えしたかを描く。なんだか先んじられた気分だ(-_-)。 遅れがちながら、なんとか出版にこぎつけそうなのだが。。。
 
そこでも愛国者ぶって森林をネタにした日本礼賛をたたいている。ついでに潜在自然植生とか鎮守の森讃歌、サクラ讃歌もたたく。
まさに私が書いているのも、某無知蒙昧学者や論者への挑戦状なのである。
 
ただ、そこでは日本は森林を破壊しまくったことを記し、江戸時代だって、とても守ったとは言えないとした。また明治期こそ森林破壊の頂点であり転機だったとした。そしてヨーロッパの影響を重く見た。同時に森を愛する発想、守る運動史も取り上げた。
 
そして、決して日本人は森を守っていない、危機的状況であるという結論に達する。むしろヨーロッパのような市民レベルの知的向上の必要性も説く。書き方は、全書(専門書)ではなく新書(一般人向け)を意識してかみ砕き、コントめいたコラムも付けたが。
 
だから微妙に立脚点は違う。ただ、おそらく問題意識は一緒だろう。森林・林業は、上から目線の政策では救えないよ、ということである。
 
※本書は、サイドバーにリンクを掲載。

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書評・反響」カテゴリの記事

コメント

おお。
森林史の御新著、楽しみです!

申し遅れました、蔡温の本を書いた佐藤です(笑)
お久しぶりです。

ご紹介の本もおもしろそうですね。
中国の森林政策について書かれているというところ、特に興味をそそられます。
中国史における森林政策の(日本語の)論文を探しても
ちょっとしか見つからなかったのは、
そもそも森林政策がほとんど"なかった"からなのでしょうか……・。

お久しぶりです。森林史が好みですか(^^;)。

本書では、そんなに多く中国の森林史には触れていませんが、参考文献はたっぷり紹介しています。ただ、中国の森林について研究している人が少ないのは間違いないようですね。そして、現実にも、ひたすら破壊していたような……。政策的に森林造成を始めたのは戦後でしょう。今は猛烈に森林面積を広げています。

私はメールソフトを使用せずに、ヤフーメールを使っているので、こちらへ投稿させてください。

輸出がダメなことは分かりましたが、『里山資本主義』にあるように、日本の林業がオーストリアなどに遅れを取った原因はどのように考えられますか?

コメント欄で、そんな大きな質問されても(^^;)。ヤフーメールも受け付けていますよ。
 
中欧諸国の林業も、かつては危機にあったようです。(今も、決して上手く行っているとは言えないと聞きます。「里山資本主義」で描くようなバラ色の林業ではありません。)
ただ、構造改革して乗り切った。日本は,苦しいときは補助金でしのいで、改革をしなかった。その差でしょうね。

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