先週末から福知山市・丹波市・高山市……と水害のニュースに目を奪われたかと思うと、本日未明、広島市北部で大水害が発生した。深夜の集中豪雨とは、盲点を突かれたかのように感じる。
水害が発生すると、必ず注目されるのが森林だ……長く「緑のダム」論争が展開されてきた。すなわち森林には水源涵養や洪水防止、そして山崩れを抑える機能があるや否か。
ある者は、あって当然自明の理のごとく唱える一方、森に期待するな! 森林は水を消費するのだ、という論者も古来多く出て、論争を繰り広げて来たのである。
私自身、この論争には20年以上前から加わっている気がするが、その立場は「森には“過度に”期待するな!」である。
それはともかく、この論争の歴史と根本を解くのが本書だ。

「水を育む森」の混迷を解く 田中隆文著
日本林業調査会 1800円+税
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この本は、専門書だ。ただし、森林水文学の専門書にあるような数式やら図表が並ぶような本ではない。むしろ前半は歴史書のように、過去の文献を読み解き、いつの頃から、森と水の関係が語られていたのかを詳しく調べている。そして後半で野外科学のあり方やコミュニケーションの問題にも触れている。
そして私には、本書からまったく別の私の興味から、重要な事実を知ることができた。(その点については後日。)
まず最初に取り上げられるのは、1883年(明治16年)の林業試験場報告に「樹木ヲ伐ツテ水源ヲ涸ラスノ説ハ舶来ニアラズ」という論説が登場することだ。
これは、明治維新以降、すべての技術は西洋を手本にするかの風潮に対して、水源涵養機能、そして治水技術はそうではないことを論じたものだ。
そして本書は、その点を追いかけて、治水技術は江戸時代より日本独自の技術が積み重ねられてきたのではないかと検証する。
その論証の一つが、1884年のイギリス・エジンバラで開かれた万国森林博覧会だ。
実は、私もこの博覧会が以前から気になっていたのだが、中身を記した文献がまったく見つからずあきらめていたのである。それが本書で結構詳しく紹介されている。(その点だけでも出色の本である。)
当時、博覧会は国際的な情報交換の場だったようだ。今のように簡単に電話やメール、そして国際会議を開ける状態ではなかったから、博覧会に出展したり集うことが情報発信や意見交換に重要だった。だから森林博覧会は、今なら森林関係の学者とNPO、NGO、そして政府関係者などが集う地球サミットのような場だったのかもしれない。
そして日本の出展物は、大いに評判を呼び、科学誌ネイチャーの記事に「日本の林業および森林科学は、イギリスをふくめた各国よりもずっと先進的」と評価されている。
なんか、びっくりである。日本の林業が? 森林科学が?
その出展物の中身は、日本の森林関係の法令や山林学校の設立、そして伐木運材、森林の空間分布を示す地図、土砂流出防止工法の説明、数多くの林産物と林産製品……などだ。中には樽や櫛、柳行李、歯ブラシもあったというが。。。
そう言えば森林法(ほか、河川法、砂防法と合わせて治水3法)が成立したのは、1897年だ。これは英米に先駆けている。
日本では歴史的に禁伐令は7世紀から発せられているし、数々の治水工事や植林が行われてきた。実は欧米では、そうした森林に関する法令は、極めて少ないのである。
日本はドイツに林学を学んだが、それを活かした法令や施策の実行は、英米より早く、ドイツやフランスとも、ほとんど同時期だったことも驚きである。
さらに伐採搬出の技術も、なだらかな地形のヨーロッパとは違ってかなり進んでいたらしいし、木の加工と製品化技術も、優れていたと思われる。
この点だけでも、目からウロコだった。
……どうも、本題の「混迷を解く」まで行き着きそうにない。今日はここまでにしよう。
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