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2014/09/04

チェンソーアートの昨今事情

チェンソーアーティストの城所啓二さんが、大和郡山市で開かれたイベントでショーをしたので、見学に行ってきた。

 
1日に3体(フクロウ、金魚、シカ)彫りあげるという、相変わらずハードなプログラム。一体は約1時間くらいで仕上げている。
とくに金魚を題材にしたのは、大和郡山が金魚養殖の地で、金魚すくい選手権で有名になっているからだが、なんと「つくるの、初めて」だそうだ。予行演習もせずにぶっつけ本番で彫りあげるのだからすごい。
 
 
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オナカの膨れ具合とか色合いなど、事前に観察してきたというが、それだけでできちゃうものなんだ。


ところで、見てわかる通り、色を塗っている。
また、表面を電動のバインダーで磨き上げている。だから、チェンソーだけで彫りあげたのとは違った木肌の味わい。
    
 
   
 
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シカでは、まずバーナーで焦げ目をつけてからバインダーで磨き、さらにペインティングもしている。
 
目を彫るのは、細かな道具を使ってきれいに丸く浮かび上がらせ、さらに黒く塗ったかと思えば、虹彩まで描く。少女マンガの光る目の世界だ(^^;)。
  
だから正確には、ショーが終わっても、まだ作品が完成したとは言えないのかもしれない。  
 
     
     
     
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完成品は、こんな感じ。
 
見学者の中には「生きているみたい」という感想も出ていたが、たしかにチェンソーで彫ったかどうかなんて考える必要もなく、造形がしっかりしている。

   
  
  

チェンソーアートも普及するとともに変化している。
そこで、昨今のチェンソーアート・ビジネスを俯瞰してみた。
  
 
私が10数年前にチェンソーアートに触れたとき、これを山村ビジネスにしたら、山村住民の趣味・生きがいになるだけでなく、作品を売れば副業になるし、引き取り手のない寸足らず丸太や黒芯などが素材として売れる、と考えた。
 
その頃、チェンソーアートによって行えると考えた収益事業は、3つ。
一つ目は、作品販売。
二つ目は つくる過程を見せるショー。
三つ目は、教室。チェンソーアートを教えるスクールである。
 
このうち当時は、ショーが一番人気があったのではないかと思う。ギャラもよかった。
ただ私は、そんなに伸びるように思えなかった。もちろん、ある一定数の需要はあるだろうが、やはり特殊なショーであり、そんなに全国各地で行うものではあるまい、また流行り廃りの流行もある……と考えた。
 
実際、今もショー需要はあるものの、チェンソーアーティストそのものが増えたことで、一人のところにショー依頼が集中して稼げる時代ではなくなったらしい。ショーの上手い下手はあるだろうが、とりあえず近くの人に依頼するから、分散する。
 
むしろ大会を開く方が、地域振興とともにビジネスとしても可能性がある。趣味で行うカーバーや見学者が集うことで地域に金が落ちるよう仕向けるものだ。もっとも、これだって同じ場所で開けるのは年に一度だろう。それに大会も全国で数が増えてきたから、人を集めるのは結構大変だ。
 
スクールも、各地に生まれつつあるが、個人で教えるだけでは、広がりが弱い。講師を確保することや、機材、そして素材の丸太を上手く供給できないと難しい。また同じ講師ばかりだと作品も幅がなくなる。結構、組織的に動かないと持続しない。
ちゃんとビジネス形態を保っているのは、私も関わった吉野チェンソーアートスクールだけだと思う。ただ吉野も、今はスクール開催日を減らしたそうだ。
 
となると、やはりビジネスとして強みを持つのは物販、とくに作品販売だろう。それもつくって売るだけでなく、オーダーメイドも増えるのではないか。
 
ところでチェンソーアート作品は、以前は「チェンソーだけでつくったんですよ」というのが売り文句だったのだが、今ではそれが通用しないらしい。
やはり購入者は、つくる過程より、完成した作品の出来にこだわるからだ。「チェンソーだけで」という価値は、その場ではあっても長続きしない。  
 
となると、より完成度の高い作品にするためには、チェンソーだけでなく、電気工具を使って仕上げたり、ペインティングでよりリアリティを増す方向に行く。
 
そういう意味では、チェンソーアート作品ではなく、木彫作品の一つなのだ。
 
こうなると、作り手の技術が重要になる。また作り手の意識も、芸術作品の道をめざすか、あるいは工芸作品の道を選ぶか分かれてくるのでないか。
 
陶芸の世界に当てはめると、陶芸作家と工芸職人がいて、さらに陶芸教室を開く講師がいる……といった感じだろうか。
 
チェンソーアートの世界も、拡散普及の段階から、そろそろ分化・深化へとステージを移すのだろう。そして目新しいアクティビティから、数あるアクティビティの一つになっていくのかもしれない。
 
もちろん、それは成熟してきた証拠だから、悪いことではないのだが……。
 

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コメント

城所氏は熊本でも馬の像を作っていて、現場の見学に行きました。走り出しそうな感じでしたが、チェーンソー以外の道具もいっぱい使っていて、馬の彫刻でした。(もちろん、だから悪いということではありません。)

こうなってくると、一周して円空仏みたいな単純な彫り物を作る人も出て来るのでしょうね。それはそれで楽しみな気もします。

城所氏、最近は大物作品が多いようですが、今回のような数時間で仕上げる作品も、チェンソーアートの醍醐味です。でも、完成品は、通常の木彫と変わらないでしょう。木彫でも、荒い輪郭を刻むまではチェンソーを使う彫刻家は多いし。

私も勧めているのですが、いよいよ仏像を彫るようになるのではないかしら。仏師の世界に足を踏み入れる。チェンソー円空仏も魅力があると思う。

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