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森と林業の本

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2014/09/25

素材のビジネス化、あるいは「おもてなしは大嫌い!」

日本の人工林は1000万ヘクタールを越えて、潜在的な資源量は膨大だ。一方で、木材需要はまだまだ膨大で、その7割を輸入でおぎなっているほど過大にある。……それなのに日本の林業は、なぜ斜陽なのか。

常識的に考えれば、事業が成り立たないわけがないではないか。

 

この問題を考えると、実にシンプルな事実が浮かび上がる。

素材がビジネスになっていないのだ。多くの事業でも共通しているが、とくに林業はそれが顕著だ。

素材と言っても、林業用語の原木、丸太のことではない。ビジネス上の加工していない素の材料という意味だ。資源と言い換えてもよい。ブツではない場合なら、ビジネスの基となる資本とかサービスと捉えてもよいかもしれない。

 
 
たとえば林業における資源(素材)は木材だ。そして山に生えている立木である。これがなくては始まらない。そして、多くの林業振興を企てている地域(山村)では、木はあるのだ。それもたっぷりと。森林が広がり、木質の蓄積も充実している。
 
ところが、経営が立ち行かない、斜陽になっているのは、素材を上手く消費者の手元に届けて、適正な対価を受け取っていないからではないか。
 
木を欲しがる人(製材所なり工務店なり、木工職人、そして施主や買い主)はたくさんいるのだ。にもかかわらず、ちゃんと届けていなかったり、届けたのに十分に適正な金銭を受け取っていないから、林業は沈滞している。それは消費者を満足させていないからか? 
いや仮に満足していても、消費者から、ちゃんと金を受け取っていない、払わせていないからだろう。
 
何も騙されているのではない。単に適正な対価を受け取るシステムが確立されていないからだ。
 
これをベタな言葉でいうと、商売が下手、という(笑)。
 
 
モノばかりではない。サービス業なら観光を例に取ると、観光客数を集めることに熱心な観光振興がある。あるいはほっといても観光客が来るほど観光資源が豊富な地域もある。(奈良県は、その最たる地域だ。大仏商法と言われるほど歴史的資源はある。) 
しかし、来訪者数に比して、観光収入が少ないのである。なったって、宿泊者数が全国最下位を記録したことがある!
 
なぜか。訪れた人が、満足してお金を落とすシステムがないからだ。本来ならお土産を買ったり、宿泊して食事したり……してお金を落とす。それも満足して。
 
ところが、(奈良県の場合は)そこが弱い。宿泊施設が少なく、夜を過ごす場がない。また目立った奈良発の料理もない。だから観光客が増えても、地元経済に寄与しない。
 
逆に落とされるのがゴミだけだったりすると、処理費がかさむ。あるいはイベントを開催してたくさん客は集めたものの、経費を多く使いすぎて、収支は赤字になる。
 
 
金融だって、金は貸しても利息を取らなかったら赤字だろう。つまり素材(ブツや観光資源や資金)はあるのに、それを提供して自らが対価を受け取る仕組みをつくっておかないと、立ち行かなくなるのだ。
 
 
……そこまで考えて、私は「おもてなし」という言葉が大嫌いであることを思い出した。
東京オリンピック誘致だけではないが、最近やたら「おもてなし」という言葉が広がっている。しかし、そこで使われる意味の大半が「対価を要求しないサービス」である気配がある。対価を要求したら、おもてなしではなくなるような雰囲気で語られる。
 
それってオカシイ。お金に余裕がある人・本業が別にある人が、余技で「おもてなし」して、自己満足するのは勝手だが、本業の人に業務以上の「おもてなし」を要求するのは間違っている。サービスのよい(手間をかけてくれる)ホテルは、高い宿泊料金を取るものだ。
 
対価のないおもてなしを唱えている人は、きっと経営に失敗するだろう。
 
 
とまあ、経営コンサルタントのようなことを書きつらねたが、実は私自身も悩んでいる。
最近マスコミが林業を取り上げる際のアドバイスを求められたり、あるいは林業振興や地域振興のアイデアを求められることもある。ときにギャラなしのシンポジウム出席を求められることもある。
内容が私にとって余技だったらいい。しかし、ほとんどの場合、本業なのだ。
 
 
にもかかわらず、対価がないのだ! 菓子折りだけとか(泣)。。。私は、可能な限り誠意を持って対応しているつもりだが、自ら持ち出しでは、応えることができない。
 
もちろん、当初から契約書を交えて会談するものではないだろう。幾度か繰り返して、最後にビジネスにする(私の場合なら原稿依頼するとか講演会を開くとか)こともあるだろう。しかし、いつ報われるのだろうか?
 
これって、素材をビジネス化していないことを意味するのか?
 
ああ、私って、ビジネスが下手(泣)。
 
 
せめて、拙著を購入してくれ。宣伝してくれ。
 
来月10月15日には、新刊出ます。『森と日本人の1500年』(平凡社新書) 。よろしく。
 
 

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コメント

私のところにも、いまだに山や木材や林業の相談や問い合わせや意見の求めがあるのは、職業柄ということと、タダであるという2点だと自分でも思っています。

鈴木さんにとっては、相談に応じるのは「余技」でしょう(笑)。

 最近は、ソフトといい情報誌といいティッシュペーパーといいフリーなものに囲まれた環境下で、払うべき対価が見過ごされがちです(見ないようにしている?)。
 血と汗の対価を払えとまでは申しませんが、奥山から危ない目にも遭って木を伐り出し、消費者の手元にまで運んでくる労苦にまで思いが至れば、「おもてなし」の心意気で安くしてチョとは言えないはず。
 拡大造林の結果、資源量が充実した林業の現状を元手に、いかにして正当な対価を引き出せるかはここ最近の林業に従事する私のテーマの一つです。

タダで教えろなんてけしからん。

林業がフリービジネスになってはいけません。やるのはフリー(自由)ですが。
 
ただ、森が作り出す景観や環境などをフリーで提供することで林業に対する理解を広め、木材の対価を高める(プレミアム)戦略はアリかもしれません。

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