「紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場
佐々涼子著・早川書房 」
を読んだ。まあ、なんと長いタイトルであることか。
このタイトル、そして表紙と帯の文を見ればわかるとおり、テーマは、東日本大震災で被災した日本製紙の石巻工場の苦闘の記録。
「紙つなげ」とは、紙を造ってロールを巻いていく過程を示す。
売れているそうである。
発行後、約2週間で5刷りまで行っている。私の本ではまずないことだ……(正確に言うと、一度だけあったんだけど)。
正直、私はこの手の本は好みではない。
東日本大震災の被災者の記録はたくさん出ているし、内容は想像がつく。大変な目にあったのはよくわかる。そこからの再建がいかに大変だったか聞くまでもない。
読めば感動するだろう。当時の状況に想いを馳せ、目頭が熱くなるかもしれない。が、今更である。何も未読の本を増やす必要はないのだ……。
それでも、あえて新刊を購入してすぐに読んだのは、一つには製紙の話であること。製紙現場の勉強になるかもしれない、という気持ちが一つ。
そして、この工場が日本の書籍や雑誌の紙の約4割を造っているという事実だ。帯にある、「日本の出版は終わる」という言葉は、その点を指している。
ならば、出版界の片隅に佇む者として、多少は応援する気持ちも込めて読んでみるか、という気になったのである。
もう一つ理由がある。……実は、この工場、私も震災直後に訪れているのだ。岩手から福島まで主に沿岸部を回ったのだが、石巻にたどり着いたときは雨だった。海岸の工業団地に入ると、壊滅状態の工場が並んでいた。その中に流された製紙の巻紙がゴロゴロしている現場に出くわした。それが日本製紙の工場であった。人気もない、閑散とした廃墟だった。。。
私(ともう一人)は、その中にそろりそろりと侵入している。
とても、再生できるようには見えなかった。一度全部撤去してから建て直すくらいではないと無理じゃないか……と感じたのである。
それが半年後には再開できたなんて。。。そう聞けば感動するよな。その気持ちが読む気を後押ししたのは間違いない。
ちなみに、ロール紙だけではなく、丸太もゴロゴロしていたのを覚えている。
さて読んでみたところ、製紙の現場の雰囲気は、なるほど、それなりに感じた。製紙だけでなく、出版業界の紙に関する知識も身についた。(ただ、本書の説明は、ちょっと舌足らず。どんな工程なのか、十分にイメージできないところが多かった。私は製紙工場の現場を見ているから多少は知っているのだが、それでもわかりにくい。)
でも、なぜ半年で再開できたのか、十分な分析はしていない。そこが知りたいのに。単に、現場の人々が頑張りました、ではなあ。。。
なお本書の主テーマは、やはり被災時の苦闘であり、工場再開に向けての人間ドラマであろうか。
地震時の状況。津波が押し寄せる様子。工場の人々は、みんな避難訓練を受けているからちゃんと避難して死者は出なかった(そこはヨイショっぽい……)が、工場内には多くの人々の遺体が流れ込んでいたという。
本書は、そもそも早川書房の副社長が現場を訪ねて思いついた企画だそうだ。そういう意味では、予定調和的な内容である。当然、日本製紙の全面的な協力体制で取材もしたのだろう。本も、社員分だけでも何千部か売れたのかもしれない。
ちょっと面白かった?のは、現場では、強盗・窃盗なども頻発していたこと。救援物資に関しても妬みや疑心暗鬼が飛び交っていたらしい。「日本人はすごい! 」というほど治安がよかったわけではなかったらしい。
ともあれ、震災で沿岸部の製紙工場だけでなく合板工場の多くが被災して、操業できなくなったことが、東北の林業現場にも影響を与えている。それは今にも響いているのだ。
遠くの合板工場に輸送するとなると、コストがかさんでしまう。また、一度別の工場に渡った納入先は、なかなかもどってこない。
先日訪ねた岩手でも、そんな話を聞いた。今は、バイオマス発電所に期待をつないでいるそうだが……。
ともあれ、震災で本の紙を造っている工場がどうなったのか。どうやって再生できたのか、というテーマは、本好きには手に取りたくなる。やられた! という感じだ。
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