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森と林業と動物の本

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2014/10/05

林業は小規模に限る

……上記のタイトルを思いついた。

 
現代の林業は、どんどん規模の拡大を求められている。今や100ヘクタールくらいでは経営は成り立たず、専業でやりたければ1000ヘクタールが最小単位とか。大規模ならば機械化も必要だし、雇用や委託も必要になる。
 
そこで大規模に木材も搬出し、大規模に製材も行う。そして需要も大規模に生み出さなければならない。
 
それは、一つのベクトルではあろう。否定はしない。
 
だが、大規模林業は画一的な商品を大量に生産し、外材や非木材マテリアルとの競合を生み出し、価格の下落を招き、山側の疲弊につながりがちなのも現状だ。
 
大多数が小規模林家である日本の場合、このベクトルで世界に伍して経営できる林家は少なく、全体として日本林業の衰退に導くのではないか。むしろ、オルタナティブなベクトルも考えられるはずだ。
 
小規模で生産が限られているゆえ、価格の高くなる需要を見つけ出す。非木材商品とは競合せず、地域材ならではの商品だ。需要量は多くはないが、利益率が大きければ、小規模生産だからこそ小回りが効いて有利になるはずだ。
 
 
小規模林家(一応、20ヘクタール以下とする)は、それだけでは食べて行けず、別の仕事を持ちながらの副業になる。逆に捉えれば、林業で食い扶持を稼ぐために、あくせくしなくてもよい。
    
   
林家は、暇を見て山を世話する。非常に密に育林作業をすることで、美しい森をつくる。そして良質の木材を生産する。それは大規模な山林ではできないことだ。むしろ狭い方がよい。仮に30ヘクタールの山林を所有していても、手間隙かけた育林作業を施すのは、数ヘクタールでよい。それも林道が入っているとか里に近いという好条件な場所だけにしておく。あとは放置?までは行かなくても粗放化する。大規模林家に委託してしまう手もあるかもしれない。
 
なお密な育林とは言っても、農業ではなく林業だ。毎日山に通う必要はない。月に1回、数ヘクタールの山を歩いて観察し、少しずつ手を加えるだけなら、副業でもできるはずだ。そんな育林作業は、趣味に近いかもしれない。もちろん山主は、森が好きだということが前提になるのだが。
 
その代わり、他者から自分の森は美しいという評価を受けることが、対価の一つになるだろう。それは行政などがバックアップして表彰制度を設けるとか、一般市民を受け入れて説明を行い人気を呼ぶことで得られるだろう。
 
もちろん木材が高値になるような努力も必要だ。それには伐採・搬出・造材のプロがいなくてはならない。ここを山主が副業感覚で自伐してしまうと、高く売れる可能性は低くなる。傷つかない伐採や搬出、市場のニーズを捉えた造材は、素人では難しいと思う。
そこには(日本型ではない)本来のフォレスターやプロの作業員、エンドユーザーを見据えたニーズと結ぶコーディネーターが登場してもらいたい。
 
もちろん、彼らに手数料を払わねばならないから利益は目減りするが、何も考えずに伐って刻んで木材市場に出すよりは高額になるはずだ。それが彼らの役割だから。
  
  
 
……こんな小規模林業を夢想したのは、京都の北山林業や、東京の四谷林業の事例を知ったからだ。そこは都会に近い小規模(1ヘクタール単位)ゆえ成り立った林業地である。里に近いから、密に通って世話ができ、小規模ゆえ手間をかけられたのだ。
  
これらの林業地は磨き丸太などの役物が衰退して窮地に陥っているが、新たな木材の魅力を強調できる商品を開発する(ニーズを見つける)ことで、十分に可能だろう。それは山主ではなく、コーディネーターの仕事である。
 
 
……この考察に関しては、『森と日本人の1500年』にも記したが、私はこれこそ未来型林業ではないか、と思っている。通いやすい里山の山林で、小規模で密に世話する森づくりこそ、日本の森林を支えるのではないか……と思うのだ。
 

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林業・林産業」カテゴリの記事

コメント

営利事業の目的は、1)利益の追求、2)事業の持続的継続、という原点の確認でしょうか。

鹿児島なら鰹節製造用の薪として売る、なんていうのも手ですね。現代でも鰹節製造は全て薪で燻しているみたいですので、某社の粉末状に加工した鰹節エキスによる出汁のもとなども、ある意味木材を利用した製品なのかも。もっとも、日本の消費量の半分は海外で生産加工されてるみたいですが。

『か』様のコメントを見て、私も投稿する次第です。

薪窯の陶芸に関わってます。
穴窯とか登り窯では多くの薪を使います。薪窯用の燃料調達・使用は森林資源利用の、一つの出口だと思います。
針葉樹(杉・ひのき)を燃料に使うべく、研究中(工夫中)です。

陶芸窯まで行かなくとも『野焼』でも十分楽しめそうなので、この冬には小学生向けの『野焼陶芸イベント』をやります。
森林に来て薪拾いをして、焚火して、マイカップ・マイ皿をお土産に持ち帰る、ついでに焼き芋とかも味わう!!・・・大人も楽しめそうです。

同じ燃料利用でも、バイオマス! とか言っているのよりいいですかね(笑)。価格を引き上げられそう。
スギやヒノキでも、火力は強いと思う(陶芸窯ではマツ材を欲しがるけど)から、可能性はありそうな気がします。

兼業林家というより、家庭菜園みたいな感覚の林業(家庭材園?)でしょうか。
私ならピザ屋とかパン屋さん向けの薪生産に特化したいですね。
家庭用のストーブに使う薪生産のために何人かで共同経営とかなら、私みたいな森嫌いでもできるかもですw。
大木になるとしんどそうですが(^^;)

久しぶりの投稿ですが、田中さんからコメントを頂き恐縮です。

薪窯陶芸には赤松が重宝されると言います。色々と理由があるようですが、その論議は今日は割愛します。

杉・檜も薪窯燃料として利用できそうです。試行して後に改めて報告を致す積りですのでその折にはコメント等を宜しくお願いしますが、何故に杉、特に檜は利用されないのか!?・・・私の説を一つだけ申し上げます===檜は高級な建築材であった時期があり、その当時に薪窯用燃料として使用するなんぞ『とんでもない!!』・・・この説は如何ですか?!

薪は、産直にすると意外とよい稼ぎになるそうですよ。ピザ屋やパン屋と契約して、毎週出せば、副業としてやっていけるんじゃないかなあ。

マツの薪はヤニが高温を出すというけど、ヒノキやスギも、一気に燃えると高温になる気がする……。ただすぐ燃え尽きるけど。
建材としてヒノキやスギを使っていた時も、枝葉や端材は自家用燃料だったそうだから、燃やしていいですよ(^^;)。いっそ、「建材にもなる高級な薪で焼くと、いい作品ができる」と陶芸家をだまくらかすとか……。

引用■いっそ、『建材にもなる高級な薪で焼くと、いい作品が出来る』・・・・■

同感です。こういうことを(自分のブログだから、と)言い放つ田中さんが好きです。

一方で、ですが、薪窯陶芸で使う『燃料薪』は相当の数量で、しかも、ほぼ100%が間伐材です。まさに、===森林資源活用==、というものです。

本日届いた最新情報→故池田満寿夫氏所縁の陶芸薪窯(増穂登り窯)レポートに拠ると、40cm丸太を更に細割り=4分の一にして=600束を使った由。窯一杯分で、この量です。薪窯陶芸を推進すればするほど間伐材の消費が増える。コストを吸収する薪窯陶芸は『森林資源活用の強力な手段』ではないかと思って、これに取り組んでいます。

ブログだから、です(笑)。

陶芸の薪需要に対する供給は、現在どのようにしているのか調べてみると面白いかもしれません。それと、火力などが広葉樹薪やマツ薪と変わらない点を林業系研究機関に実証データをつくってもらう……いえ、でっちあげろ、とは申しませんが(^^;)。
上手く参入できますよう。

田中様、コメントありがとうございます。
小生は、陶芸業界に参入していると思っています。陶芸界の中での『薪窯陶芸(焼成)』に特化して、行動をしています。

燃料としての杉やヒノキや、はたまた竹も含めて、ある種の推論を持ってまして(!?)その検証を進めているところですが、何はともあれ以上に述べた『原料』を使って、まともに『昇温』が出来るか、何より『評価できるレベルの陶芸品となるか』がポイントであり、つまり、(検証)仮説が上手く行って初めて次のステップに踏み出せると、思う次第です。

仮説に基づく実証結果はこの秋から冬にかけて出しますが、田中様、何か、この時点でのアドバイスがありましたら、其れを賜れれば幸いです。

そんな大袈裟な。所詮、「思いつき」ブログです(笑)。

ただデータは必要でしょうね。マツ薪と比べた燃焼温度の変化とか。陶芸家の意識調査もしたら面白いかな? 燃料費にどれほど重視しているか、ガス窯、電気窯との違いをこだわっているか……本音を探れないかなあ。
私の知っている陶芸家たちを見ていると、窯にそんなにこだわっていないみたい。粘土練るのがイチバンですから。

田中さん、コメント有難うございます。

その窯用(独自)の、『温度昇温特性曲線=折れ線グラフ』が存在してますので、一般的な赤松に於けるグラフと、檜・杉・竹のグラフとの比較表を作るようにします。アドバイス有難うございます。

燃費はどうか、その地域での調達の難易具合とか、コスト性とか、関係者の就業機会はどれほど有るか・・・・など、色々と興味は尽きません。あと、

薪窯焼成を推進する人達の勢いは相当の物がありますので、『花が咲けば良いな~』と、思っています。

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