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2014/12/07

「職人気質」は保てるか?

先日の京都府立林業大学校の講義。

 
私は、全体を通して「林業のイメージアップ」にもっと取り組まないと……というスタンスで話したのだが、最後の質問で
 
林業は、イメージアップしなくてはならないのか」という疑問を出された。
「町工場だって、世間的にはそんなにイメージはよくない。でも、自分たちがトヨタの高級車レクサスの部品をつくっているんだ、的な誇りをもって満足している。林業だって、世間の見る目より自分が誇りをもつことでいいではないか」……簡単にまとめると、そうした意見だった。
 
面白い。もちろん私は賛成しない(^o^)。が、そうした議論をすること自体は大切だろう。
 
 
私は、やはり世間一般の評価が大切だと考える。そもそも町工場だって、本当は世間の評価を求めているのではないか。単に自分の心の内の誇りだけで満足しているのだろうか。
林業も、いくら自分たちが森林を守っているとか、木材を供給している……など誇りを持っても、物足りないはずだ。(そもそも、完全に役割を理解しているのか。そうした事実が誇りになっているのか。。。)
また、世間の評価が給与や待遇、また木材の価格などを左右するところもあって、そこを無視したら報われるものも報われない。結果的に林業界への新規就業者も減ってしまう。
 
それに他者の声を聞くことによって技術も、理論も、経済面でも進歩改革するものだ。
 
今回は、ある意味、世間の目なんぞ気にしない(したくない)職人気質を林業界は保っているのだなあ、という点に感心してしまった。そんな職人ばかりだったら、逆にたくましさを感じるかもしれない。一方で、他人の意見や情報にあまり左右されない。昨日アップしたような「施業方針が、地域ごとにあまりに違う」点と、根は同じだろう。
 
「職人気質」は、自らの仕事に没頭し周りを気にしない……残念ながら、今では「古き良き時代」の話になってしまう。それが許された時代は既に過去のものだ。
 
同じような研究の世界とか、芸術・文化の世界でも、広報なくして存在できなくなってきた。自分の熱中すること(得意とすること)など1本に集中して取り組めたら、どんなにいいだろう。
だが現実は、文楽とか浄瑠璃の仕手が、芸事だけに熱中していたら補助金を削られるし、役立たない地味な昆虫の研究しかしなかったら研究費は出なくなるだろう。
みんな、自分の取り組むことの意義を世間に訴えなくてはならない。本を出版したら、著者自ら売る努力をしなくてはならない……。(ここ、大事(^o^)だよ)
 
では、どうする? 研究者も職人も、苦手な広報をこなす訓練をするのか、あるいは広報マンを別に雇うか。。。しかし、他人任せでは本当に上手く伝えられるのか、あるいは新たな情報を取り入れ活かせるのか。
 
 
……こんな議論を真っ向からしたら面白いと思うが、本当の職人だったら、議論するのもイヤで、ちゃぶ台ひっくり返すのかもしれないね(笑)。

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コメント

職人気質
忘れてはならない根幹なのでは?
しかし、衰退している現状を受け入れ、変化をしなければならないと思います。
先人の教えを忠実に再現するのではなく、プラスワンが必要不可欠なのでは。

町工場はレクサス的な部品を作って満足しているんじゃなくて、レクサスに使われる高度な部品を作れる技術を持つ工場が誇りを持っているという構図だろうと思います。業界(この場合「町工場」)として誇りを持っている訳ではなく、業界の中に誇りを持った人がいるだけだろうと思います。

一方で、大阪の町工場プロジェクトのように、オリンピックに関する製品とか人工衛星などの開発などをすすめる例もありますよね。ああいった「先進事例」の広報によってその地域の町工場が全体としてなんとなく尊敬される存在になる、といったこともおこります。

要するに、林業が誇れるようになるためには、他の人にはできない技術、仕事によって誇りを持つか、社会に強く印象づけられる広報を行うか、まあ、その両方が必要でしょうけれど、そういうことではないかと思います。

研究者は・・・まあ、つまんないことをやっても、飯が食えるという点で、競争的ではないという問題がありますね。。一番質が悪いですね(^^;)

思いのほか長文になりました。すみません。

おそらく優秀な技術を持つ職人とは、外にも眼を向けていると思います。ただ発信しているかどうかとなると、???ですが。
技術と評価も、技術があるから評価されるだけでなく、注目を集めることで技術を磨く意欲がわいたり生きがいを生む面もあるわけで、そのバランスも大切でしょう。
 
研究者は飯が食えますか? まず飯が食える職場を得るには一定の評価をされないと……。そしてその後も評価される研究がないと、やがて研究現場を追われるかもしれませんよ~。

確かに! 研究者はその職を得るのに一定の評価が必要です。が、その後、必殺の「研究のための研究」がありますからね。。生き延びる人は多いと思います。結局、人次第ですよね。

必殺技! 私も「出版のための出版」をやってみたい……。
 
かつては雑誌の記事用の取材で本の出版を目指せたのだけど、今は厳しくなっています。企画から取材・執筆・営業までオールマイティにならないとなあ。。。。。

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