焼畑を世界農業遺産に
昨日の国際土壌年は、国際食料農業機関(FAO)の管轄だったが、それに続いて世界農業遺産の話題を。
FAOが認定する世界農業遺産に推薦する国内候補地が3つ選ばれた。
まず岐阜県長良川上中流域の「里川における人と鮎のつながり」。
説明文をそのまま引用する。
鮎を中心とした内水面漁業が盛んな長良川は、流域の人々の日々のくらしや水質保全活動により清らかな流れが保たれ、その清流により鮎が育ち、地域の人々が鮎からの恩恵を享受。人の生活・水環境・漁業資源が相互に連関する長良川の里川システム。
次に和歌山県みなべ・田辺地域の「みなべ田辺の梅システム」。
養分に乏しい礫質の斜面を利用し、梅林としての利用と周辺には薪炭林を残すことで水源涵養や崩落防止等の機能を持たせ、薪炭林に生息するニホンミツバチと梅との共生等、地域資源を有効活用して高品質な梅を持続的に生産する農業システム。
そして宮崎県高千穂郷・椎葉山地域の「高千穂郷・椎葉山の森林保全管理が生み出す持続的な農林業と伝統文化~森と農林文化が創る森林理想郷~」
険しく平地が少ない山間地において、針葉樹と広葉樹で構成されるモザイク林等による森林保全管理、伝統的な焼畑農業、急斜面に築かれた500km超の水路網を有する棚田の米作りなどの複合的農林業システムと神楽など特色ある伝統文化を継承。
それぞれ面白いのだが、私はやはり宮崎県北に注目する。
該当するのは、高千穂町、日之影町、五ヶ瀬町、諸塚村、椎葉村の5か町村だが、とくに2つの村では焼畑が中心だ。
これまでも折に触れて書いてきたが、私は20年以上前から焼畑に非常に興味を持ち、各地を見て歩いた。椎葉村やモロ塚村も焼畑目当てに訪れている。さらにボルネオの少数民族の焼畑にも触れてきた。
そこで感じたのは、日本の焼畑は、ボルネオなど世界で一般的とされる焼き畑と少し違うことだ。
具体的な例で言うと、ボルネオでは山の斜面の木々を伐採すると、下から火入れしてドバッと燃やしてしまう。だが、椎葉では斜面の上から火入れして、燃え炭を人が少しずつ下へ落として行く。ゆっくり、小さく焼くのだ。
おかげで延焼しづらいし、じっくり土壌の中まで熱を伝える。表面温度も高くなる。おかげで殺菌効果も出るわけだ。
つまり日本の焼畑は、非常にシステマティックでありテクニカルであった。細かな技術が集積されている。
そして何より、日本の焼畑は育成林業の出発点になる。最初の伐採が木材の収穫、すなわち林業であり、その後の焼畑で農作物を収穫しつつ下刈りを行い、作物の間に樹木の苗(スギ、ヒノキのほかコナラ、クヌギなど)も植える。そして数年間の農的収穫の後10年20年間放置して、樹木が育つのを待つ。言い換えると、林業の伐採跡地で焼畑を行うのだ。
焼畑面積は小規模で、毎年アチコチで行うから、モザイク林相になるのも特徴的。択伐ではなく、小規模皆伐あるいは群状択伐と言えようか。
現在進行中の大規模林業とは対局的ながら、単なる伝統的農林業に終わらず、現代的なアグリカルチャーのヒントになると思っている。
世界農業遺産に選定を目指すなら、単に持続的農耕システムのとして焼畑ではなく、農林複合システムとして認定してほしい。
郷
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