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2015/03/14

書評「猪変」

「猪変」(中国新聞取材班・編  本の雑誌社)を読んだ。

 
81mjfuaek1l 2015年2月刊行
 
獣害問題がクローズアップしている近年、なかなかタイムリーな本ではないか、資料になるのではないか、と思ったからだ。
 
さすが新聞社、それもイノシシ害の先進地!中国地方を舞台とする中国新聞社だけに、幅広いテーマで取材している。
まずは海を泳ぐイノシシの話題から始まり、山里で人を追い出す獣害現場、さらにフランスに飛んだかと思うと、食肉(ジビエ)としての可能性、歴史や文化面からの切り口と、なかなかの幅広さだ。中国地方だけでなく、フランスのほか北海道のエゾジカや九州、神戸の街中をほっつき歩くイノシシなどの範囲まで取材する。個人では厳しいだろう。
 
またイノシシトリビアとして、イノシシの常識を覆す事実も紹介している。
たとえば、土をほじくり返すのはミミズを探して食べるため、という常識も、実際にはミミズを好んで食べないという。
さらに春に子を生むという常識に対して、秋の出産例も紹介している。
 
いやはや、イノシシは謎の動物だったのだ。いかに研究が進んでいないか思い知る。
 
そうした点から専門書ではないが、イノシシと獣害問題に興味を持つなら、一読する価値はある。それに新聞的文章なので、読みやすいのも好感だ。
 
 
 
……褒めるのは、ここまで(笑)。
 
ここに、はっきり不満を記しておこう。
 
本を手に取って、しっっぱなから落胆したのは、これが10年以上前の新聞記事をそのまま本にしたものであることがわかったからだ。新聞記事を元にするのはよい。しかし、連載したのは、2002年~2003年前半なのだ。それをそのまま本にするとは……。
 
小説はもちろん、ノンフィクションでも記録的な価値を見出すのなら古くてもそのままでよいが、現在進行形だよ、獣害は。
 
読んでいても、「今から10年前は……」とか「今年は……」なんて表現が出てくる。それはいつのこと? いつを起点に何年前と語るの? 
 ゛
そして、わりと豊富に出てくる図表や数字。(駆除数とか対策費、被害額など)も、全部当時のまま。十数年前の数字を見せられても、何の参考にもならない。防護柵も今の知見と照らし合わせるとちぐはぐだったり、本文で紹介している事例が現状には当てはまらなくなっている点もある。
 
たとえばカナダから飼育イノシシの肉を輸入している話などは非常に興味深い。イノシシ肉を普及させれはさせるほど、実は輸入や飼育が増える可能性を示しているのだ。それをサラリと流してしまうのはもったいない。現在はどうなっているのか。 
なぜ本にする際に、改めようとしなかったのか。手抜き、不親切である。
 
 
一応、巻末に「猪変」その後という章を設けている。出版を前に書き足した部分だ。
そこでは近年のデータや研究成果も紹介している。しかし、それが本文の記述とずれていたりする。量もわずか。せめて章ごとに、新情報の注釈を付けるなりできなかったのか。
 
 
 
それに筆者が複数のせいだろうか、全体に散漫な印象があって、幅広いテーマが最後にどのように収斂するのか、オトシドコロが見えない。ちょっと残念であった。

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