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2015/08/26

木取り技術とCTスキャン

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写真は、京都の銘木屋「千本銘木商会」の第11代目にして銘木師・中川典子さん。
 
彼女らが手にしている写真は、保津川の筏流しと嵐山にあった貯木場の様子。もちろん戦前の古いものである。嵐山は、かつて木の町であった。300年続く銘木屋である。9代目が木取りの名人と言われた中川嘉兵衛で命牧師なる言葉が生まれた元でもあった。
 
ちなみに千本銘木商会の屋号は「酢屋」。ピンと来る人もいるだろうが、坂本龍馬と海援隊の京都本部として活動拠点にしていた幕末京都の名所である。
 
 
さて、彼女の話を聞くといろいろ面白かったのだが、その中で引っかかった一つのポイントが「木取りの技術は日本にしかない」ということ。木の文化を標榜する国や民族はたくさんある。どこでも木を大切に扱い、丸太から木材を切り出すことには、どこも智恵を絞っている。
しかし、木取り、つまり木目を重視して、美しい材を切り出す技術は、ほかにないのだそうだ。北欧・中欧なども、みんな丸太から板や角材を切り出すだけ。
 
そして次のポイントは、「日本の木取り技術を欧米の人が注目している」ことだ。すでに千本銘木商会には、オランダやスウェーデン(たったかな)の製材業者らが幾度も見学に聞いているそうだ。
どうやら、欧米でも木目にこだわった製材に興味を持ってらしい。木材は、単なる構造材ではなくて、魅せる建材として価値を持とうとしているのではないか。
 
 
近年は、コンピュータ製材が流行りで、人がいなくても丸太の断面から自動的に製材してしまう時代だ。たしかに端材を少なく板なり角材にできるだろう。しかし、木目までは考えられない。
今や日本人でも銘木の木取り技術を持った人はきわめて少ない。ちゃんと技術の伝承をしようにも、そもそも銘木と呼べる木材が少なくなってきており、外観から材の内部まで読み取る勘を養う余裕はあまりないだろう。それに需要も少なくなった。
 
しかし、再び木取りが脚光を浴びる日が来るのではないか。
なぜなら、すでに木材はマテリアルとしての価値を減じているからだ。代替材料がたくさん登場している。木材が木材としての価値を保てるのは、木目のような不確定な美の世界なのだ。
また木取りによって、これまでチップにするしか使い道がないと思われた曲がり材や空洞の丸太などにも新たな息吹が吹き込めるのではないか……。
それなのに、現状はあまりに暗い。次々と銘木屋は廃業していく。何か良い手はないか……。
 
 
そこで思い出した。最近はX線CTスキャン機によって木材の内部を調べる方法が試みられていることを。これなら、内部に隠れて見えない節や虫食いなどを確認できる。木目もかなりわかるそうだ。そうした情報をインプットしたうえで、木取りを考えるのなら一か八かの博打ではなくなる。
 
もちろん木取りとはそれだけではないが、木取り技術の習得もかなり早められるのではないか。さらに銘木に限らず、木材の価値をかなり正確に丸太の状態でも確認できることから、ユーザー側も失敗を少なく買いつけられるから、高価格にすることも可能になるのではないか。
 
そして海外に木目に価値を見る銘木を普及させるチャンスにもなると思うのである。
 
……こんな思いつきを記すと、必ず反論が出る(笑)。CTスキャンなんて機械を使うのは、本当の木取り技術じゃないとかなんとか。アホか。
 
勘を磨いて伝承するだけが職人の技術ではない。そんな古い世界にこだわっているうちに、肝心要の技術まで消滅してしまう。
 
 
 
 

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