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2015/09/23

書評『江戸日本の転換点』

たまたま書店の棚で眼について購入した本。これはなかなかの収穫であった。

 
 
Photo   江戸日本の転換点  水田の激増は何をもたらしたか
                      武井弘一著  NHKブックス
 
帯には「米づくりは持続可能だったのか?」と記されている。
 
簡単に概要を説明すれば、江戸時代の農書(主に金沢の「耕稼春秋」などを題材とする)を元に農民の生活を追い、農地の増加が自然や人間社会に何をもたらしたかを解明しようとしている。
 
そして序章のタイトルである「江戸日本の持続可能性」を考察したと言ってよいだろう。
 
拙著『森と日本人の1500年』も、森を中心に同じテーマで取り組んだものだ。ただし時代は古代飛鳥から現代まで幅広いが、それを水田面積が大幅に増えた江戸時代を中心に調べたと言ってよいだろう。
 
一般に江戸時代をエコな時代として、循環型社会が築かれていたかのように言われている。たしかに鎖国もして250年以上も日本列島の中に数千万人が暮らし続けたのだから、いかにも持続可能社会を築けたかのように思えてしまう。
 
だが、どうも嘘っぽい……と思ったのは私だけではなかったようだ。
 
 
さて、本書の内容を全部紹介するわけにはいかないから、その中でも私の琴線に触れた山の話を取り上げたたい。
 
拙著でも強調したかったのは、江戸時代には日本の山々は木の過剰収奪によって荒れ果てていたということだ。そして木のない草山が増加していた。
 
ところが、本書によると、草山はむしろ農民が望んで作ったことになっている。
なぜなら、草は堆肥の元だからだ。草を刈って、それを醗酵させて(草肥を)水田や畑に入れることは農作物の栽培には欠かせないことだった。
さらに農地を耕すために牛馬を使うようになって、その餌として草が必要になっていたこともある。
 
そのため農地の10倍の面積の草地を必要とした。そこで山の木を伐採して草山を作り出したというのだ。もちろん、それが意図的なのか、結果的に草山になったのかは確定させられないだろうが、木のないはげ山・草山を農民が嘆くことはなく、むしろ利用価値の高い土地と認識していたらしい。
 
そのため江戸後期には、新田開発で草地を農地にするよう命令が出ても、反対していたという。
それでも命令は覆らず、仕方なしに草地を開墾する。そのため飼料や肥料が不足するようになり、しかも水の便も悪かったため逆に収穫量は減少した。また山に近いからか、獣害も酷かったらしい。そのため新田は、ほどなく荒れ果てて収穫を得られなくなり、捨てられてしまうのである。
農民は、農地が増えることを常に望んだわけではないということか。
 
 
 
また、肥料不足から下肥(人糞)や大豆滓、干鰯などを使うようになるが、これらは効果はあるが、実は全部金がかかる。人糞も、村のものだけではまったく足りずに町まで引き取りに行くのだが、これらには何か金品を渡さないといけないのだ。
 
そのため農業の貨幣経済化が推進されることになり、金がないと農作物の収量もアップしない状況に陥るのだ。……なんだか金持ちがより金を設ける金融資本主義のハシリがここに見られるようになる。 
しかも、そうして生産量を増した農業は、決して持続的ではなかった。幕末に向かって、日本の農業は行き詰まっていくのである……。
 
 
 
大量生産が生態系を崩して、持続性を失わせる……これは現代にも通じるだろう。もちろん、農作物だけでなく、林産物、つまり林業の世界にも。
 
やたら植林して人工林を増やした挙げ句、木材を収穫するどころか荒れ放題にして、補助金を注ぎ込んで切り捨てている現状がかぶる。しかも機械化、大規模化の推進が森林の持続性を失わせるという点までそっくりだ。
 
 
教訓がてんこ盛りである。
 
 

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