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森と林業の本

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2015/11/19

国産CLTの「本音」

CLTを日本でも解禁しようと頑張っておられる方がいるが、とうとう本音が出たか、と思わせる一文を目にした。

 
WEDGE」という、JR東海系のウェッジ社が発行する雑誌の記事(のウェブ)なのだが、そこにCLTを取り上げていた。全体としてはCLTが日本の山を救う! という論調である。
 
 
 
が、私の注目したのは、その3ページ目。
ここにCLT普及推進の立役者、銘建工業の中島社長が登場している。
 
そして次のような発言をしているのだ。
 
中島社長はCLT の原料となる材木の調達について
当面は国産のスギを中心に使うが、スギは強度の面でほかの材木に劣り、国産材には安定供給に課題がある。
ヒノキ、カラマツなどの国産の樹種、あるいは輸入材も混ぜることで国産材の使用を増やしたい。国産材、輸入材を適材適所に配することが、国産材の有効活用につながる。原料をすべて国産材で賄うのは困難だ
と語った。
 
おお、遂に出た! 国産材、とくにスギではCLTをつくるのが難しい、輸入材という言葉が!
 
安定供給の課題も上げているが、強度面からスギでCLTをつくるのは難しいというのだ。そして、輸入材を使うことに言及している。
実は、銘建工業の技術力では、CLT製造を採算ベースで行うのは無理、とは内々に言われていると私は聞いた。それはスギ材そのものの強度ではなく、スギの乾燥の難しさに起因するらしいのだが。。。(銘建だけでなく、ほかのメーカーも同じ。)
 
しかし、これまでスギでCLTにしたらスゴイ強度のパネルになる、と発言していたと記憶する。スギだけでつくったCLTで実験棟をつくり、その耐震強度を確認したと発表しているではないか。そして国産材の需要を拡大する切り札としてCLTを解禁するよう、国にプッシュしてきたのではなかったのか。 
 
 
 
ここで私自身のCLTに関する意見を整理しておく。これまで幾度も発言してきたことだ。
 
CLT自体は魅力的な建材。設計社や建設業者には喜ばれるだろう。
・しかしスギでCLTを製造するのは、乾燥などの点から技術的にかなり難しく、欠陥品が多く出る。そのため歩留りが落ち、結果的に値段も上がりかねない。 
・一方、建築基準法などを改正して解禁すれば、真っ先に使われるのは輸入CLT。国産より使用実績が多く、質も良ければ値段も安い。
・それに対抗して国産CLTを普及させようとしたら、価格を輸入物以下にしなければならない。それは原木価格を極端に落とすことにつながる。それでは出材する林業家も減り、安定供給できない。利益が出なければ林業や山村経済に寄与しない。
国産CLTと言っても輸入ラミナで生産する方向に行くだろう。
 
 
 
この記事には、次のコメントも載っている。
 
そうはいっても、競争力のない国産材を無理して使うと製品の採算が取れなくなる。並行して国産材の強化することが必須の課題だ」とみており、ビジネスマンとしては譲れない一線がある。
 
 
 
……この発言は、私の「予言」に近づいているのではないか。こんな文も。
 
来年以降にCLT の新基準ができて本格的な普及が始まった段階で、国産材と輸入材の比率がどうなるかは未定だが、輸入材の方が安くて質が良いということになれば、太田市長が描く目算が外れる恐れがある。(太田は、地元・真庭市の市長)
 
 
CLTの認可に向けてばく進中の国土交通省も、今更引き返せず、結局、輸入材と国産材(スギとは限らない)のハイブリッドCLTも認めてお茶を濁すことになりそうだ。もっともハイブリッドだって製造は難しいはずだが……。
ヒノキは高くて使わないだろう。カラマツは量の確保ができるかどうか。結局、限りなく輸入ラミナの比率が高まりそうだ。いや、輸入CLTばかりになるのではなかろうか。
 
 
おそらく来年春には建築基準法でもCLTの使用の認可が出るはずだ。今になって泣き言いわずに、オールスギ材で国産CLTをつくれるように技術を磨くのが先決ではないのか。価格も、製造者が努力してコストを落とすべきで、ツケを山に回すべきではない。
 
 
 

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木製品・木造建築」カテゴリの記事

コメント

予想通りの展開になるようですね。
しかし、今でも杉の乾燥の問題がネックとなっているようですが、いったい今まで何をしてきたのかバカらしくなります。
国の機関、県の機関、大学など、バラバラに乾燥の研究をし尽くして、その結果はまだ何もできていないとは。
海外では木材乾燥機メーカーが数社に限られ完成されているのに比べ、国内では多くのメーカーが手がけていることから、まだ決め手がないのでしょう。
どこに問題があったのか。研究開発でのマネージメントがなにもできていない、日本の基本的な欠陥です。
それぞれの研究を統合して更に研究の質を高めることができず、同じことの繰り返しをバラバラにしているだけなのです。そしていつも中途半端なもので終わってしまう。いい加減にダメさかげんをわからなければなりません。

予想通りの展開ですね。

スギの乾燥はもともと難しいうえに、集成するとなると張り合わせる両方のラミナの乾燥具合のずれが問題になる、CLT、つまり直交集成するとなると繊維方向が違うのだからさらに難しくなる……ということだと思います。(この当たりは、私の専門外)
 
で結局、林野庁は外材も(渋々?)認めるのでしょう。多少とも国産材使えば自給率に貢献するということで……。

杉の乾燥が難しいというのはあくまでも柱材や梁材などの太い部材で、それも芯材を中心とした丸々一本を使うものではないかと思います。
ラミナーでの利用が(薄く乾燥しやすい)その乾燥の難しさを克服する手段であるとも考えています。
また、強度はCLTの厚さを考えれば特に問題とは思われません。
つまり、乾燥の難しさや強度を理由にするのは言い訳でしかなく、要するにコストが高いだけの理由に起因するのでしょう。
なぜコストが高いのか。
木材資源から始まる産業を全体としてとらえることもなく、木材そのものの利用も総合的にとらえることもしない根本的な原因があると思います。

今日の日経25面(地域総合面)に真庭のバイオマス発電が出てますね。

ありがとうございます。銘建工業は、もともとバイオマス発電で有名になったんです。それが全国に広がったから、次はCLTだ! となったのかな?

国産CLTの「本音」拝読しました。実は私もWEDGEの記事を見て同じことを思い、ダメ元で複数の政治家のサイトに投稿致しました。下記が投稿文です。
CLTについての疑惑

私は木材加工業に携わっている者ですが、近年CLTに関して林野庁から多額の補助金が交付されていることに危惧の念を抱き、投稿致します。

 CLTとはクロス・ラミネーティッド・ティンバーの略で製材挽き板を並べた層を、板の方向が層ごとに直交するように重ねて接着した大判のパネルのことです。CLTは1995年頃からオーストリアを中心として発展してきた新しい木質構造用材料です。わが国でも2012年に日本CLT協会が設立され、銘建工業㈱を中心に急激に事業化の流れが出来つつあるように見えます。欧米では10階建てのビルなど大型建築物がCLTを材料として建てられており、かねてから国産スギ材の出口を模索していた林野庁も、その使用ボリュームに押されてか、多額の補助金を投入するようになりました。木材自給率50%を目指している林野庁にとっては願ってもない話に見えたのかもしれません。

 話としては夢も希望もあるCLTですが、ここに大きな落とし穴があります。それは製造コストです。欧米でCLTが使われているのはコンクリートよりも安いからと言われています。日本円にして1㎥あたり5万円前後です。欧米では日本と違い超大型工場で木材加工を行っており、それに伴って原木伐採から加工後の廃材処理施設(発電等)まで一貫したインフラが整備されており、主に端材を利用するCLTにとっては最も適した環境と言えます。一方で日本では小さな工場で木材加工を行っており、CLT製造のインフラはゼロに等しいと言わざるを得ません。さらに最大の問題は利用する樹種にあります。国産スギ材は欧米のWWやマツ類に比べて乾燥が非常に難しく、乾燥後の材料コスト比較では恐らく倍位の開きがあると思われます。かつて柱材や梁桁材としてスギ集成材工場が補助金を使って全国に数多く設置されましたが、その殆どがヨーロッパ産のWWに押されて廃業の憂き目に合ったのは記憶に新しいところです。現在、山佐木材㈱や銘建工業㈱で試験的に作られているCLTは1㎥あたり15万円前後ですが、普通の集成材と違って大量生産を行っても10万円以下にはならないと思われます。
 ※WW:オウシュウトウヒ。マツ科の常緑針葉樹でヨーロッパ、ロシアなどに広く分布している。

 全世界のCLTの総需要量にも問題があります。現時点での全世界総需要は80万㎥前後と言われていますが、国内の年間製材品需要の1400万㎥と比較すると如何に小さな市場であるかが分かります。欧米の場合には約20年間のアドバンテージがあり、広い道路や広い敷地等の好条件がありながら、このような小さな需要しかないのはその工法にも問題があると言わざるを得ません。広い道路も敷地も無く、工法もこれから作ってゆくという日本にCLTの需要はどれだけあるのでしょうか。

 もしCLTが期待外れに終わっても林野庁の見込み違いということになるのでしょうが、ここで問題視しなければならないのは補助金です。林野庁は当初、国産材振興のためにCLT関連事業に補助金を交付してきました。もうすでに100億円近い(推定)ものが投入されていると思われますが、「国産材振興のために」という前提条件が崩れるようなことがあれば、これはルール違反、背任行為と言わざるを得ません。先月、ある情報誌(参考資料として添付)によればCLT協会会長の銘建工業㈱社長の中島氏は「当面は国産のスギを中心に使うが、スギは強度の面で他の材木に劣り、国産材には安定供給に課題がある。ヒノキ、カラマツなどの国産の樹種、あるいは輸入材も混ぜることで国産材の使用を増やしたい。国産材、輸入材を適材適所に配することが、国産材の有効利用につながる。原料をすべて国産材で賄うのは困難だ。」と語っています。スギの問題点は最初から分かっていることで今さら都合の良い言い訳にしているに過ぎなく、もし輸入材を使っても良いとなれば、かつての集成材と同じようにおそらくCLTの殆どはWWになってしまうことは火を見るよりも明らかではないでしょうか。そして、そのことを誰よりもよく知っているのは中島氏自身であると思います。なぜならかつて誰よりも早くWWをオーストリアから輸入し、WWの集成材を我が国に普及させた張本人だからです。

 ここで不可思議なのは上述したようなCLTの数々の問題点は林野庁の中でもある程度分かっているにも関わらず、補助事業やJAS認定の法制化が猛スピードで次々と行われていることです。私の面会した何名かの職員の話ではトップダウンできているので命令に従うしかないということでした。これは政治力が働いているとしか考えられません。

 日本の森林環境は日に日に悪化しており、本来ならば本物の対策を無駄なく講じていかなければならないのに、CLTのような架空の代物に振り回されるようなことはあってはならない事であると思います。多額な国民の税金がヨーロッパの端材のはけ口を作るために使われて良いのでしょうか。

以上が投稿文です。私はJパネルという建材の発明者ですが、木材乾燥についても過熱蒸気式木材乾燥機というユニークな乾燥機を15年前に開発しました。世界一の乾燥機と自負しておりますがなかなか売れません。世の中、本物が普及するとは限らないことを痛いほど思い知らされております。ただ、本物があることは知っておいて下さい。いつかお目にかかりたいですね!

Jパネルの発明者ですか! ありがとうこざいます。

正直、CLTの勉強をする際、Jパネルも参考にさせていただきました。JパネルはCLTと基本的な構造というか発想が同じですね。ただ、決して腐すわけではございませんが、普及していません(^^;)。
それはなぜか、という点を考えていくと、スギという材の難しさと価格に行き着きました。またスギの集成材が上手くいっていないことも同じです。

CLTの解禁は、結果として国産材市場を奪うことになるのではないかと感じています。少なくても日本林業の救世主にはならないでしょう。

大石様の投稿内容を理解できる政治家がいるかどうか心もとないですが、少しでも情報発信を続けたいと思います。
いつかお会いできれば幸いです。

大石さんの投稿は極めて参考になります。なんとなくそうであろうと考えていたことが、具体的に技術的に総量的に説明されており納得した次第です。
この投稿で何も政治家の活動に反映されていないことに今のこの国の基本的な問題があると思っています。
それは行政に携わる人も同じことと思われます。私のつたない経験からすると、行政に携わる人の最重要課題は国の将来、そして林業の将来ではなく今現在の予算の配分でしかないことです。
去年の予算の枠をいかに確保するかということが一番の課題なのです。
ある事業が終了すればそれに代わるべき事業を作らなければなりません。
将来の林業に役に立たないことが分かっていても、いやそんなことどうでもよいのです。外部の人の協力があれば、賛成があれば、いや反対がなければ、最も安易な事業を取り上げることになります。今はそれがCLTでありバイオマス発電です。
失敗する可能性が高い。そんなことはどうでもよいのでしょう。
過去にどれだけの無駄な税金を費やしているか、その検証もしないまま、国がつぶれるまで同じことをし続ける。それがこの国のありようです。
えらく愚痴になっていしまいましたが。

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