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2015/12/14

樽桶流通革命!

樽丸、そして樽や桶の話から、少し日本酒の話を。

 
 
かつて造り酒屋の取材を重ねていた際、ある主人は「お酒を木樽に入れるな」と言った。
私の目の前で、銘酒として人気のあったその蔵の酒を、祝い酒だから樽に詰めてほしいという注文が電話で来たのだが、断っていたのだ。
 
その理由として「せっかくの酒の香りや味を木樽に詰めたら木香が移って台無しになってしまうから」と説明した。
言われてみれば当たり前だ。酒の香りや味は、杜氏が精根傾けて最後の最後まで工夫を凝らして生み出すもの。それを完成後の容器のせいで変えられたらたまったもんじゃない。味を変えないためには、ガラスや陶器の瓶の方が良い。
 
樽酒を売るのは、二流酒を木の香りで誤魔化して美味しく感じさせるため、とまで言った(笑)。
 
別の蔵主は、「戦前の酒より、今の方が数倍美味くなっている」と言っていた。
たしかに戦中戦後、三増酒と呼ばれる3倍に薄めてアルコールと糖類を添加した偽物がはびこった(今もある)から、「昔の酒は全部純米で美味かった」という声が出るわけだが、時代は変わった。現在は純米どころか吟醸酒も出回り、各地の地酒が腕を磨き、日本酒の歴史上、もっとも美味くなっているのだ。
 
それなのに樽酒を喜ぶのは、本当の酒の味がわからない人(笑)。
2  美吉野酒造の吉野杉の桶。
仕込みに木桶を使うと、菌の繁殖が違って酒の味が変わるという(……が、それが酒を美味くするのかどうか?)。 
 
1  木桶の内側。
 
 
ところで酒の発祥は、もちろん奈良である。(なんでも日本初は奈良なのだ。)
 
しかし、当時の醸造のための容器は、陶器しかなかった。陶器は大きくつくるのは難しい。もっとも大きな壺でも、せいぜい直径1メートルくらいしかできない。そのため酒などの醸造も、量に限界があった。
そこに桶の製造技術が生まれ、4メートルの桶も可能になった。おかげで酒の大量生産が行われるようになる。発明されたのは、安土桃山時代だとされる。
 
さらに蓋をつけて密閉した樽が発明され、液体の輸送を可能にした。これが日本に流動物の流通革命を引き起こす。これまで小さな容器でしか運べなかった液体商品を、大量生産、大量輸送の時代を迎えるからだ。だから樽や桶が果たした役割は、日本産業史を買えるほど大きいのではないか。
 
 
そして江戸時代になると、上方から江戸に酒が運ばれた。これを下り酒という。江戸の町の飲み助を支えたのは、伊丹酒や池田酒、それに交野酒(生駒山地北辺の交野地方は、かつて酒の産地だった)だった。少し遅れて、灘の酒が登場、一世を風靡する。
 
だが、考えてみてほしい。江戸近辺でも酒はつくっていた。なぜ苦労して、危険な海を船で時間をかけて上方から運ばなくてはならなかったのか。
 
樽や桶は、全国に普及していた。吉野杉ほど性能は高くなかったが、醸造はできただろう。
 
……実は、火落ちが防げなかったのである。火落ちとは、簡単に言えば、酒の腐敗だ。醸造された酒は、すぐに雑菌が繁殖して白く濁り、味を落とした。江戸の近くでつくられた酒といえどもすぐに火落ちする。とくに夏を超すと、飲めなくなる。
 
ところが「下り酒」は火落ちしない。なぜか。上方の造り酒屋には、火入れの技術があったからだ。極めて微妙な温度で雑菌(主に乳酸菌)を殺すことで、長持ちさせる。この技術は、長く門外不出であり、関東の造り酒屋では真似できなかったのだ。温度を上げすぎたら、アルコールが飛んでしまう。菌を死滅させて味を変えない温度と時間を、勘で維持しないといけない。
 
とはいえ、完全に火落ちが防げたとは言えないだろう。なかには失敗作もある。
ただ酒を木の樽で運ぶと、木香の成分で雑菌が繁殖しにくくなる。しかも味を誤魔化す効果もあったのかもしれない……。
 
かくして上方が江戸の富を吸収するのに、樽による流通革命があった。ちなみに吉野林業が栄えたのも、江戸へ樽の形で木材を運んだからだ。酒樽は、江戸で味噌や醤油、漬け物樽として重宝されたらしい。
 
……こんな樽桶流通革命論、誰か展開してくれないかなあ。。。
 
 

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コメント

酒よりも、油の輸送が可能になったことの方が、社会へのインパクトは大きかったのでは

会場でも、油の輸送に関する質問が出ましたが、量的には酒の方が多いと思いますね。金銭的にも大きく動くでしょう。

それに樽では、水気以上に油がもれやすい気がする……。

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