「ヨーロッパ・バイオマス産業リポート
なぜオーストリアは森でエネルギー自給できるのか」 西川力著 築地書館
を、読んだ。
ヨーロッパの山国・オーストリアでは、バイオマスエネルギーの利用が進んでいる。もちろん使い道は発電というより熱利用が大半なのだが、世界的に見てもバイオマス先進国だろう。それもここ10年ほどの間に普及拡大したのだという。
本書の特徴は、そうした総論はわずかで、むしろバイオマス産業が広がることによって起きた、さまざまな新たなビジネスを紹介している、つまり各論の点。
具体的に各論を知るには、目次を見ると早い。
1章 地域に根ざした家族経営林業家
2章 牧草牛乳と高品質チップ製造ビジネス
3章 バイオマスボイラーの開発
4章 ヒートポンプとペレットボイラー活用の大規模温泉プール
5章 燃焼効率九割超 バイオマスボイラーのセールスマンに聞く販売と利用の実際
6章 ジャガイモから丸太まで、バイオマス保管シートを世界市場で売る
7章 バイオマス集積場ビジネス
8章 自由化後の電力市場と自然エネルギー
9章 「エネルギー林」を栽培する
10章 太陽熱による木質チップ乾燥装置/開発・製造・販売のコナ社社長に聞く
11章 地域エネルギー自立と発熱所建設のためのエンジニアリングとは
解説 木質エネルギービジネスの先端をいくプレーヤーたち 熊崎実(筑波大学名誉教授)
実に多彩なビジネスが誕生したことがわかるだろう。バイオマスボイラーぐらいなら私もすぐに思い浮かべるが、バイオマス保管用のシートとか、太陽熱によるチップ乾燥装置とか、さらにバイオマス燃料用の植林を行うエネルギー林まで登場している。
植えるのは、ポプラ、ヤナギ、シラカバ、ハンノキ、ニセアカシアなどなど。なかには植えて2年後に伐採できる種もあるらしいし、一度植えたら萌芽更新で15~20年は収穫が続くそうだ。
たしかに、こうした植林が成り立つほどバイオマスエネルギー利用が安定しないと産業とは言えない。日本でも、コウゾとかを植えたら半年で高さ3メートル以上に育つから、和紙の原料とバイオマス燃料を兼ねて栽培したらどうか、と思ってしまうが……。
本書を読むと、バイオマスエネルギー産業とは何かという実態がわかる。こうでなければいけないね、と思わせる。
また日本との落差を思い知らされる。いかに日本のバイオマスエネルギー産業が薄っぺらいか気づくだろう。日本で本気で推進しようと思うなら、根本的に何が違うか、何をすべきか考えるべきである。
同時に私は思うのである。
この本を読むまでもなく、日本でバイオマスエネルギーと騒いだ際、大挙して国や県、もしかして市町村のお役人とか議員などが現地に視察に行っているのではないか。オーストリアだけでなく、ドイツ、スイス、スウェーデン等北欧諸国……と。
著者の西川氏は、本書の取材の多くを翻訳や通訳の仕事で関わったとある。つまり視察団や調査報告をつくる過程のほか翻訳を通してバイオマスを学んだそうだ。
だが、視察で現地を訪ねた膨大な人数のわりには、日本では少しも活かされなかったようだ。
本書に描かれているような下地づくりが政策に反映されず、ひたすらバイオマスといえば発電であり、大規模施設に向かう。プラントメーカーとコンサルを儲けさせることばかり。そして燃料は未利用材ですか。。。
ということは、視察団の面々は、現地を見て説明を受けても、その内容を理解できない頭の持ち主か、理解はできたがそもそもやる気はない物見遊山だったか。。。あるいは視察で学んだことを活かして実行しようとしたものの日本に帰ると周りの反対にあって潰されたのかもしれないが、それなら実行力も情熱もない無力な役人か議員だったのだろう。
思わず視察無用論が脳裏に浮かぶ。大人数で視察に行くより、優秀なレポートを実行力のある少数者に読み込んでもらい、それで政策に反映させる方がマシではないか。
※サイドバーに本書のリンク張りました。
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