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2016/07/07

縄文人と弥生人・樹木葬の骨の行方

『骨が語る日本人の歴史』(片山一道著・筑摩新書)を読んだ。

 
Photo
 
著者の片山先生は、昔取材したことがある。そして私の所持していた黒曜石と、先生のフィジーの土器を交換した仲だ(笑)。
 
いや、実はもっと前から私は先生の本の愛読者であった。骨の考古学、人類学という 実に興味深いテーマを扱い、世界各国の遺跡を歩き、斬新なポリネシア人類学や日本人起源論を唱えているのだ。人呼んで、日本のインディ・ジョーンズである。
 
さて、この本も斬新だ。日本人の起源として今でもよく唱えられるのは、縄文人と弥生人の二元論である。つまり日本列島に二度にわたって渡来した人々がいた、という説。日本人二重構造説とも言われる。南方系と北方系、実際に、日本人を「気味は縄文系」「あの人は、弥生系」などと分類しがちだ。騎馬民族征服説なんてのもあったっけ。
 
が、そんな説をばっさり切り捨てる。実は、両者にそんな違いはどこにもなかったのだ。ある種、誤解と期待による幻の日本人起源だったわけだ。
単に骨相を見るのなら、戦前の日本人と戦後の日本人は、まったく別人種になってしまうほど変わったという。
 
……まあ、この魅力的な説に関しては、本書を読んでいただきたい。
 
 
ここで私が注目したのは、骨の遺物のこと。化石ではなく、あくまで古人骨のことだが……。なんと縄文人の骨は非常に豊富に発見されているのだという。1万人のオーダーに乗るほどだ。しかも状態がすこぶるよい。埋葬された姿のまま見つかることも多いらしい。
 
ところが弥生人はおろか、その後の時代でも実は骨はあまり見つかっていない。江戸時代まで来れば、さすがに豊富になってくるが、それでも完璧ではないらしい。
 
なぜ、当時の人口に比して縄文人の骨はたくさん残されているのだろうか。その後の時代では骨が残りにくいのか。
 
それは貝塚の存在だそうだ。貝塚とは、縄文人が貝類の殻を捨てたところ、つまりごみ捨て場と思われがちだが、どうやらもっと儀礼や祭典、集会の場だったらしい。場所も集落の中心部に設けられていた。死者の遺体も、そこに葬られたのである。
 
貝殻は炭酸カルシウムの塊である。それが集積された場所は、酸性土壌が中和される。すると同じく炭酸カルシウム製の人間の骨も溶けることなく残される……! 
 
ところが弥生以降は、貝塚がなくなった。遺体は集落の外れ、むしろ山の中に埋められるようになった。集落内の土地を墓地にしなくなったのである。すると酸性土壌のまま。そのため埋められた遺体と骨もろとも溶けてなくなるのである。
 
 
埋葬の歴史に関しては、『樹木葬という選択』の執筆の際に結構勉強したのだが、遺体を忌むべきものにして埋葬地が外へ追いやられ場所さえ忘れられることで、古人骨は見つからなくなっていく。現在、弥生人の骨とされるのは、極めて偏った地域(福岡県北部)からだけ発掘されたものらしく、それをもって弥生人の特徴とするのは間違いだそうである。朝鮮半島からの渡来人かもしれないからだ。
 
 
さて、樹木葬とは、遺骨をそのまま土の中に埋めて自然に還すのが本来の理念である。ただ、本当に骨は土に還るのか? という疑問があった。化石にならないのか? 火葬した後の骨はセラミック化しているケースもあり、分解されないのではないか? 
 
しかし、数少ない改葬の例(樹木葬に埋めた遺骨を掘り出して別の墓に入れる)によると、1年ほどで随分骨の量は少なくなっていたという。やはり酸性土壌だと早く土に還るのだ。
 
これは、樹木葬を始める際のヒントにならないか。酸性土壌のところに墓地をつくれば、早く自然に溶け込める。逆に骨を残したければ、石灰に包んで埋めればいい(^o^)。
 
骨を残したいのか消えてほしいのか。埋葬と土壌について考えてみると面白い。

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コメント

土壌pH興味深いです。ちなみにセイタカアワダチソウなどの外来種が繁茂しやすい土壌は高pHで豊栄養、茅萱などの在来種は低pHで貧栄養の傾向があるそうです。遺骨を早く土に還したければ、塩化アルミニウムにつつんで埋める事をお勧めします。

そうか、「骨を早く溶かす土壌」を売り物にする樹木葬という手もありますね(笑)。

人骨はリン酸カルシウムですね。炭酸だと放射性炭素年代法による年代測定が使えますが、リンでは同位体は利用できないので、科学的には大きな違いです。

ああ、そうでした。失礼。でも同じカルシウムです(~_~;)。

貝塚でなくても酸性土壌でなくせば骨は残りやすいんだと思います。もっとも現代社会では、骨は残るから困る。リン酸肥料にしてしまえ……とは言えませんが。

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