昨日は、「情報のバーター取引」について記したので、その成果の一つを(-_^)。
いただいたのは、『吉野林業概要』(北村又左衛門著)のコピー。
正確に言えば、吉野の大山主・北村又左衛門が記して、大正3年に発刊された『吉野林業概要』の改訂版として昭和29年に発行されたものである。ただし非売品だ。
もちろん古い本だから、制度とか伐採搬出運材、取引、木材加工・利用などに関しては、現代と違いすぎて歴史的な文献としてしか役に立たない。しかし、読みごたえは各所にある。
なかでも面白いのは、この改訂版には、佐藤彌太郎(京都帝国大学教授等を歴任した林学者)が序文を付けているところ。そこに興味深いことを記しているのである
読みにくいだろうが……30年前(つまり戦前)にドイツに留学したが、かの地の林業地は、単純一斉林と皆伐施業を行っている。しかし、その生育状況は必ずしも納得のいくものではなかった。
一方でスイスの択伐~天然更新施業も見ていて、両者を比較したことで、皆伐に少なからず疑問を持っていた……とある。
ところが、皆伐を行う吉野林業では不健康な状況が皆無なので驚くのだ。言い換えると、ドイツよりも吉野林業の方が優秀だったわけだ。
その理由を幾つか並べている。種子の選定や適地適木を守っていること、皆伐面積が小さいこと、混交林の造成(この場合はスギとヒノキだと思う)を進めていること……などがある。しかし、もっとも感心したのは、造林指導者たちの目が肥えていることだったという。
「これ程に造林に注意を払ふところが他にあるだらうかとさえ思った。」
なんか、現在にも通じる言葉ではないか。
佐藤は、戦前からドイツの一斉林と皆伐に疑問を持っていたのである。ドイツも戦後になると方向転換して、今は近自然的混交林と原則皆伐禁止になっているはず。
残念ながら現代の日本は、今も戦前ドイツの林業を真似し続けて一斉林-皆伐を今も押し進めている。
また山林看守人(造林指導者)の知恵と技能が重要なことを指摘している。残念ながら、現在の日本の林業現場はそれに応えているだろうか。
林業大学校は次々と設立されているが、そこで養成されるのは、現場のワーカーだ。しかも伐採技術の取得が主流である。造林に眼を向けているところは少ない。
幸い? 奈良県は本書でドイツよりも優秀としたスイス林業を取り入れようとしている。この点は、一筋の光明(^o^)かもしれない。
各なる上は伐採ワーカーではなく、造林のマネージャーを養成してほしいものである。本書には、今に通じる細かな造林技術が記されているのであるから。
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大変勉強になります。
投稿: | 2016/08/25 01:02
神宮の森関連と言う事で、最近朝井まかて著「落陽」を読み、中に本多静六・本郷高徳のドイツ留学についての記載がありました。
その彼らが、神宮の森を作ったことに意義を感じています。
投稿: 仁藤浪 | 2016/08/25 11:05
本多静六や本郷高徳たちは、ドイツ林業を学びつつ、日本に適合させる努力をしているんですね。
とくに本多は、吉野に通って、自ら間伐や枝打ちを学んだ(土倉庄三郎の元で)うえに、両方の知識を融合させて「日本の造林学」を打ち立てた、とはっきり記しています。
今の林政のように、ドイツさまさまで丸ごと真似しているんじゃないですよ。
投稿: 田中淳夫 | 2016/08/25 11:18