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2016/09/29

『樹木と暮らす古代人』のプロローグエピローグ

 
1
 
樹木と暮らす古代人』(樋上昇著・吉川弘文館  1800円)
 
この本、ネットで見かけて気になっていた。しかし、やはりネット書店で目にしただけでは、すぐにクリックしないものだ。それを書店の店頭で発見。
 
パラパラとめくって、プロローグ「持続可能な社会をめざして」に目を通した。
 
2
 
おおお? いきなり自分の名前が飛び込んできてびっくりした(笑)。
拙著『森と日本人の1500年』を紹介するとともに、そこに記した「林業の定義」が引用されている。この4つの視点から、弥生~古墳時代の木製品生産を見ていくことで当時の森林事情や人々の暮らしぶりを推察していくというのである。
 
 
……この時点で、私はさっそく購入しましたね(^o^)。 ←サイドバーにリンク。
 
そして一気読み。
 
もっとも、それほど気軽に読む本ではなく、本文は各地の遺跡から森と人の関わりや木材の流通を読み解き、鍬(くわ)、器、儀礼品から武器、精製木製品、専業工人の出現……と追っていく。出土地域と年代と形状……と、なかなか考古学的で専門ぽい記述だ。
 
道具のの素材として重要なアカガシの大木に注目する点も面白い。今はほとんどないが、かつての生駒山はアカガシの大木の産地だったらしい。
著者は、愛知県埋蔵文化財センターの調査研究専門員だが、奈良県生まれであり、登場する遺跡の中には生駒山麓のものも多く、ここも惹かれたところ(笑)。 
 
ちなみににはツバキやアカガシ、コナラの類が使われ、にはクスノキ、田下駄などにスギ、ヒノキ、伐採斧柄にはアカガシ、コナラ、クヌギ、加工斧にはサカキ、はマキ、イヌガヤ、にモミ、スギ……。こうした「適材適所」があったらしい。
 
また鉄製工具が登場したり、黒漆が塗られたり……と製作工程の変化も見られる。
 
そして木材の調達から加工まで自前で行う集落から、全部他の集落からの調達(購入)に頼るところまで、集落の分類が行われる。
 
これこそ生産と消費の分離であり、商工業の誕生である。この理論からいくと、林業こそが商工業の源だったとすることも可能だろう。
食料生産の農業は、たいていの集落で自給自足の割合が高くて商業行為には結びつきにくいし、産品の加工度が低い。それに比べて(木製)器具の生産が工業となり、それは商業取引の品となりやすいからだ。その源は木材の調達であり、林業と関わるのである。
 
 
森林や林業の歴史的な流れを見ることで、現在の森林と林業の人間社会への位置づけが可能となる……と私は思っている。
その視点の出発点を考察する上で貴重な一冊である。
 
 
エピローグ「弥生~古墳時代に「林業はあったのか?」には、再び私の記した「林業の定義」が登場する。そして「組織的な木材調達」から「木材の運搬」、「加工技術を持つ職人」、そして「持続性」の検証が行われている。
 
 
私は、拙著で邪馬台国(弥生時代後期~古墳時代初期)こそ、林業の誕生の舞台? としたが、これによると弥生時代中期には各条件を満たす集落が登場していたようである。つまり私の仮説は否定されたのかしらん(笑)。
 
 

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