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2016/10/25

農林水産業の「養殖」に関する一考察

野菜の高値が続いている。夏から続く台風、大雨、酷暑……天候不順、さらに大地震が起き、北海道、熊本や鳥取など有数の農業地域が大打撃を受けたことが大きい。

 
そこで注目されているのが「植物工場」だ。光の要らないモヤシやキノコ類に加えて温室内の水耕栽培で野菜をつくっていると、天候に関係なく安定した収穫量が得られる。年中栽培が可能となり、生長も早い。それが魅力だ。
植物工場こそ、未来の農業である! ……もっと多くの野菜や果実を工場で、とぶち上げられている。
 
もともと農業は、野生の植物の中から食べられるものを品種改良しつつ人の手によって栽培するものであるから、これらすべてを「養殖(植)」と位置づけることができるのだが、水分や肥料、光まで人工制御する「植物工場」は、完全養殖と考えるべきかもしれない。
 
しかし、現実には「植物工場」はほとんど成功していない。今年のような露地もの野菜が高値を付けたときにしかお呼びがかからないのではないか。なぜならコストがバカ高いからである。露地なら実質タダの光や水分もコストに跳ね返る。高ければ販売先も限られる。天候不順のときだけ求められるのでは、安定的な販売先は見つけにくい。
また水耕栽培で病気が発生すると、あっという間に伝染して全栽培ものが壊滅することもある。安定生産というほど安定していないのだ。
 
 
漁業も似た状況だ。ウナギやマグロが絶滅危惧されるほど減少していることについて、「養殖すればいいじゃん」という声がちらほら聴こえる。とくにウナギは、卵の孵化に成功したことによって、完全養殖の現実味を増したと感じるらしく、心配いらない、どんどんウナギを食おう、と考えている人もいるようだ。
 
だが、養殖はそれほど安定しないし、利益も出づらい。
ウナギも単に卵の孵化に成功しただけでは、完全養殖はほど遠い。孵化率は際めて低く、さらに稚魚に育つまでにはほかの魚に比べてはるかに長期間かかる。孵化してから稚魚まで成育した生存率は1,6%である。
安定して供給できるまで、あと何年かかるかわからない。いや、コストを考えれば商業ベースに乗せるのは不可能ではないか、と思われる。養殖できても1尾1万円かかるウナギでは出回らないだろう。
 
だいたい水産物の養殖は、いずれも採算ベースに乗りにくいのだ。なぜなら高級魚でも、養殖すると価格が落ちるから、当初の目論見どおり高値で売れなくなる。
しかも安定供給は難しい。養殖地に病気や赤潮が発生して全滅したり、網が嵐で流されたりする。そうした不慮の事故を考えると、採算はかなり厳しい。何十年もロングスパンで見ないといけないだろう。
 
 
……農と水産の養殖に触れたのだから、やはり林業も「養殖」を考えてみよう(笑)。
 
人工林は「養殖」と言えるのかもしれない。人の手で栽培することで、生長速度を速めて、一斉林にすることで収穫量を高めているのだから。ただし、それでもスギで50年はかかる。
しかし、その間(50年間)にも材価が乱高下するわ、台風大雨山崩れはあるわ。火事だって起こるわ……全然安定収穫・安定収入を見込めない。そしてコスト高。植え付け、下刈り、徐間伐……手間ヒマかけて育てるも、材価と引き合わないと嘆いているのが今だ。
 
いっそ完全温室・人工光源・水耕栽培のスギ林をつくるとか、工場の水槽内でスギの細胞をぶくぶく培養して1年で直径30㎝、長さ4メートルの丸太に成形するような「養殖」があったら面白いかもしれないが、あんまり気持ちよくない。
 
 
結果として、農業、水産業、林業、いずれの養殖も、技術的には有り得ても産業としては欠点が多すぎて成功させるのは厳しいのではないか。しかも環境に優しくない。養殖は、エネルギー収支が常に悪いし、過度な余った肥料や餌が環境を悪化させる。
 
それよりも自然界の力に頼る方が賢いように思える。
農業は、自然の雨風光を取り入れて栽培すると低コストだ。人は、少し手助けする。
水産業も、養殖より漁獲規制で自然に生息数を回復させる方が現実的だ。ウナギなんて、あきらかにシラスウナギを獲りすぎなのだから。
そして林業も、自然界に任せる。森を森として維持しつつ、少しずつ収穫する。天然更新とまではいかなくても、手助けする程度で次世代の木々を育てる方が経済的ではないだろうか。
 
 
もちろん不作の期間や病害虫の発生など不安定要素はあるし、収量が落ちて供給が需要に追いつかないかもしれない。しかし、それを乗り越えるのは利用側の問題だ。あるものを、手に入るものを、工夫して使うのである。
 
実は農作物も魚も、そして木材も、存在量は需要に足りているのだ。ただ欲しい種類が足りないことが時折起きるだけである。
野菜は季節の旬のものだけを求める。ウナギも一時期食べるのをあきらめて量の豊富な魚種に変える。スギが足りなければ、雑木を使う。
 
 
……もっと考察を進めると、世の農林水産業を敵に回しそうだな(笑)。
 
 

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コメント

国内産の場合、ウナギやヒラメ、鯛、トラフグあたりは養殖がかなりの割合を占めているのでは?
国際的にはサーモン、トラウト、エビ、サバヒー、ソウギョあたりがメジャーな養殖魚と思います
ウナギの場合には、種苗さえ確保できれば今後も養殖は続くでしょう

卵からの完全養殖が成功して商業生産が現時点で軌道に乗っている魚種では、いずれの例でも完全養殖技術の開発から商業化までに10から20年かかってると思います(これ以下の魚種があったら教えてください)
ですから、ウナギでも、数十年後までには完全養殖が可能と考えます

野菜工場は、サウジなど、経済力がある砂漠の国では成功していると聞いたことがありますけど、本当はどうなんでしょう?
日本みたいに雨が降って耕作可能な土壌がある市場では、野菜工場は競争力が無いと思いますが、路地野菜が生産できない国では競争力がある場合も出てくるでしょう
単なるマーケティングの問題では?

ウナギは完全養殖ではありません。種苗……シラスウナギが底をついているのですよ。絶滅危惧指定を受けているのに、中国で取りまくって、日本や台湾に密輸出しているから。ヨーロッパウナギも本当は輸出禁止なんだが。
 
実はタイやヒラメ、フグも長い眼で見ると、収支が黒かどうかは怪しいところです。

サウジなど、通常の農業ができないところでは植物工場も意味があるかもしれませんが、そうでなければ採算が合うようには思えません。かくなるうえは、常時野菜不足で高値が常態化させるといいかもしれません。

ウナギは現状では天然種苗採取に完全に依存していますが、完全養殖技術は開発済みで、現在は商業化のためのコスト削減と大量生産技術を開発している段階です
これら技術が完成すれば、現在のタイやヒラメのようになります

タイやヒラメ等、現在養殖されている魚の収支が怪しいとは初めて聞きましたが、具体的にどういうことですか?
生産された種苗が販売され、いけすで大きくなるまで育てて出荷され、そのいずれの段階でも利益が出ていると思いますが

ちなみに、天然魚よりも養殖魚の方が安全な場合もあります
例えばウナギが住む川や沼には水田からの農薬や人家からの排水、家畜からの排水が入っており、成熟するまで5から8年住んでいます
また、自然状態でも水銀が循環しており、カジキマグロなど大型で長寿命の魚食魚は比較的濃度が高いので、妊婦が食べ過ぎないように厚労省が通達出しています

ところで、通常の農業って何ですか?
サウジの人に怒られるのでは?笑

ウナギを卵から稚魚まで育つのは1,6%。。。それも300日かかるとか。商業化の道は遠い(~_~;)。

高級魚だから養殖始めたのに、養殖が広がると価格が落ちて採算が厳しいとはよく聞きます。また何年かごとに大量死が起きたり台風で機材が流されたり……長期スパンで収支が合っているのか疑問なところです。もっとも災害には補助金が出やすいですけどね。林業で儲かっているというところも、その7~8割は補助金収入だったりするのと似ています。

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