このところハマっている上田早夕里の小説の一つ『薫香のカナピウム』を読了。
文藝春秋・定価1500円+税
これ、なんと紹介したらよいのだろうか。思い切って「樹上小説」なんて、どうか……と思ってしまった。ちなみにタイトルのカナピウムは、キャノピー(樹冠)からの造語。樹上世界の意味と思っていただければよい。
上田早夕里といえば、『華竜の宮』で日本SF大賞を受賞した本格ハードSFの系統を継ぐ作家だが、実はパティシエ小説とか、妖怪小説とか、純文学ぽいものまで紡ぐ。
で、本書は帯文にあるように「ファンタジー」だとする。裏帯には「たおやかなる少女のビルディングスロマン」とも紹介されている。主人公は、地上40メートルもの樹上世界に生きる少女だ。オランウータンも出てくるし、あふれる生命の楽園としての樹上世界は、おそらくボルネオの熱帯雨林の樹上らしい。
出だしから樹上の枝から枝へと渡り歩きつつ生活をする人々の描写が続き、ファンタジーらしき異次元の民族を活写する。ジャングルの樹上は、香りで道筋がつけられているなど斬新なアイデアもあふれる。
読み進めると、本当に主人公は「少女」なのかも疑問になってくる。身体が角質で覆われている描写もあれば、「巡りの者」と出会うと子供を孕むのは配偶者側だという。そして男でも女でもない人物も登場する……。
まさにファンタジー小説だなあ、と思わせるのだが、第2章の最後の1行でギョとするのだ。
やがてハードSFとしての輪郭が浮かび上がっていく。そこに描かれるのは、森林生態系とそこに人類がいかに関わってきたか。自然と人為、人工物と生命体。共生と融合、そして反発。そして人類進化の途方もない方向が示されることになる……。
あんまりネタバレ的な紹介はしないが、この小説はマレーシア・サラワク州のランビル国立公園をモデルにしている。事実、著者は、雑誌『科学』の林冠生態系の号を読み、井上民二京都大学教授の研究を知って、小説の着想したらしい。
実際、文中に井上教授が建設したツリータワーや樹上のウォークウェイも登場するのだ。
ランビルのツリータワーと、樹上の回廊。
最初は、ハドソンの『緑の館』を想像させたのだが、やがて小松左京の一連の作品、たとえば『継ぐのは誰か』なんぞが頭に浮かんだ。どちらもアマゾンが舞台で、妖精のような未知の種族の少女や、新人類が登場するのだが……。
私が一時期通い続けた熱帯雨林の樹上世界が、まったく装いを変えて小説の舞台になったことに感激。
やっぱり樹上小説というカテゴリーを設けてみたい(笑)。
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