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森と林業の本

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2017/05/23

でき損ないの「木×仏像」展

私は、わりと博物館などの展示施設が好きだ。今回は、大阪市立美術館で「木×仏像」展をやっているというので足を運んだ。。

仏像にたいして興味はないが、木彫仏にこだわっているというからだ。開催が「美術館」ということに一抹の不安はあったのだが……。
 
001
 
結論から言えば、期待外れ。飛鳥仏から円空まで、素材となった木材とともに語るという趣旨とはほど遠い内容。
 
だって、単に仏像を陳列しているだけだよ。。。その素材については、わずかに一部の仏像にクス、カヤ、ヒノキ、ときにサクラ……と記されているが、なんら詳しい記述はない。
 
なぜ、この木を使ったかとか、樹種によって仏像にどのような違い(美術的センスとして、あるいは製作過程で)があるか、についてほとんど説明なし。時代ととにも扱う木材の種類がなぜ変わったか。当初の一木彫りから寄木造りに移った理由もちゃんとした説明なし。それらのメリット・デメリットもなし。当然、時代ごとの森林事情を説明することもなく。
 
さらに言えば、飛鳥・奈良時代に盛んだった木彫が一時期廃れて金属仏・石仏に替わるのだが、再び復活して世界的に稀なほど木彫仏が多くなった理由……なども考察なし。
仏像という精神性の高いものと木材の特質に対しても考察なし。
もちろん円空の特異な彫り方にも言及なし。。。。
これって企画倒れ? 
 
 
最後の出口に、素材の木材を並べているが、付け足し感がすごい(笑)。
本気で展示するなら、クスの仏像のところにクス材、カヤの仏像のところにカヤ材……を置いて、その場で触ってもらうぐらいのアイデアはなかったのか。
あるいは木造と塑像、金属仏と並べて違いを比べてもらう展示なんてのも考えられる。 
 
006
 
 
つまり、私の興味の中心に何一つ応えていなかった。せっかく仏像の素材にテーマを置きながら、これではなあ。ようは美術品としての仏像展示にとどまっている。展示方法が平凡というか、観覧者の気持ちをくすぐる工夫が感じられない。国宝・重文ぞろいの仏像を並べるんだから、黙っていても見に来るでしょ、と思っているのか。
いっそ自然史系か歴史系の博物館が、この企画をやった方がよかったのではないの? 
 
某大臣が、「学芸員がガン。観光マインドがない」と暴言を吐いて騒ぎになったが、私に言わせれば、観光マインドのあるなしとは次元の違う、見せる技術・アイデアがないように思う。これでは学芸員が観光に寄与したいと思っていても、観覧者の心に響く展示ができないのではないか。
 
私が、仏像の材質がせめて針葉樹なのか広葉樹なのか木目を見て判断しようと身を乗り出したら、監視が飛んできて止める。触ってないよ。鑑賞気分を削ぐことこのうえなし。こういうのもホスピタリティの問題なんだろうな。「見てもらう」より「規制する」「注意する」のが仕事と思ってるのだろう。
 
学芸員は、研究者と一般人の間に立ってインタープリターの役割を果たさないといけないのだが、資格取得の際にそうした技術を教わっていないのか。大臣の発言で存在意義が問われているのに、この有り様では……。
 
いやいや、ときに感動するようなすごい展示をしている展覧会・博物館もある。以前、ムンクやシャガールの絵画展に行った際は、素晴らしい展示と新しい見方を発信していて圧倒されたことがある。ようは、担当者の才能の問題だろうか。
 
 
そういや、先日、某県の某者(実は大学林学科の同級生)から講演の打診が来たのだが、話す相手が森林の〇〇や林業の○○な人々の集まりで、そこで私が森林の〇〇や林業の〇〇を話してもしょうがないんじゃないの、と悩んだ。
まだ決定していないので説明は控えるが、そこでふと思ったのは、彼らは、一般人へのインタープリテーションについては素人だろう。その点、メディア界に沈殿している私は多少ともハウツウを知っているから、そうしたことなら話せるかな……と考えたのであった。
 
逆に考えれば、私もインタープリテーション精神と技術を失ったらアウトだわ。。。。
 

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